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2009年4月掲載 |
東京では、サクラの名所の多くが4月の最初の週末に見頃を迎えたが、それから約10日が経ち、すでに大方散ってしまった。「年度末のバタバタで今年はサクラを見逃した」という人もいるだろう。しかし、花見客が少なくなってきたこの時期に、敢えてサクラを見に公園に足を運んでみるもの一興だ。 風が吹くたびに舞い散るサクラ吹雪 「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」とは、徒然草の有名な一節であるが、満開に咲き誇るサクラを見ることだけが花見ではない。咲き始めには咲き始めの、咲き終わりには咲き終わりの、それぞれの味わいがあり、むしろ満開でないことで見えてくる情景もある。 閑話休題 グーグルは3月末にベンチャー投資部門「Google Ventures」の創設を発表した。今後1年間の投資について1億ドルの資金を用意していると伝えられている。テクノロジー関連のブログとして有名な「TechChrunch」によれば、最初の投資案件は「Pixazza」と「Silver Spring Networks」の2社であるという。 Pixazzaについては、少し前に日本語メディアでも報道されたが、オンライン・ショッピング関連の新興企業である。ウェブサイト上の写真に写っている製品について、販売サイトへのリンクを貼る技術で、「アドセンスの画像版」を提供する企業と説明されている。 Silver Spring Networksの方は、「スマート・グリッド」関連の技術を提供する新興企業。スマート・グリッドは、情報技術を用いてコスト効率の良い電力伝送を行う「グリーン・ニューディール」関連の技術。オバマ政権の下で追い風を受ける分野の一つとして注目を集めている。 前者はグーグルの本業であるオンライン広告関連であるが、後者は本業との関連が薄い事業への投資になる。Google Venturesのホームページを見ると、インターネット関連だけでなく、クリーン技術、バイオテクノロジー、医療など、さまざまな分野におけるベンチャー企業に投資を行っていく方針のようだ。 グーグルがこのようなベンチャー・キャピタルを立ち上げることについては、否定的な見方もある。「そんな資金があるのなら、配当を増やしたり株式買戻しを行うなどの株価対策を実施すべき」という意見だ。 1998年の設立以来、検索連動広告台頭の波に乗って順調に業績を拡大してきたグーグルであるが、さすがに最近は成長率が鈍化してきている。経済環境の悪化による株安の影響もあり、成長期待で値上がりを続けてきたグーグル株価も、2008年以降は値下がり基調だ。4月9日の終値372.5ドルは、2007年12月に記録した最高値の約半分である。 したがって「余剰資金があるなら株価対策を」という声も理解できる。 しかし、年間1億ドル(約100億円)という金額はグーグルにとってはそれほど大きなものではない。グーグルの2008年度業績は売上高217億ドルで本業の儲けを表す営業利益が66億ドル、12月末の現金(及び現金に準じる流動性の高い資産)が86億ドルある。例えていうならば、年収が手取り660万円で860万円の預貯金を持つサラリーマンが、10万円を株式投資に充てるようなものだ。その程度の夢を追ってもバチは当たるまい。 一方、景気の先行きが不透明な今だからこそベンチャー投資のチャンスと見る向きもある。景気が良い時には、多少見通しの甘いベンチャーも、時流に乗ったキーワードを事業計画に組み込んでおけば、勢いだけで資金調達ができてしまう。そのため、多くのベンチャーが乱立し玉石混交になりがちだ。 「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」 サクラが満開の時には花に隠れていた枝が、咲き終わりの時期になるとよく見えるようになる。それと同じように、投資ブームの時には見えにくくなりがちなベンチャー企業の本質が、不景気の現在はむしろ見えやすくなっていると言えるかもしれない。 |
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