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情報通信 ニュースの正鵠
2009年7月掲載

車載衛星TVというマーケット
―AT&T CruseCastがサービス開始―

 海外の市場動向調査をしていると、「これは日本でもウケそうだ」と思うものもあれば、「これはこの国ならではかな?」と思うものもある。今回は後者に属する話。

 毎年1月上旬に米国ラスベガスで開催されるCES(国際家電ショー)。イベントに参加して最初に驚かされるのは、展示会場の広さ。ラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)周辺と、サンズ・エキスポ周辺の2拠点に分かれ、拠点間の移動はモノレールかシャトルバスを利用する。LVCC会場はさらに、北館、南館、中央館、中央広場等に分かれている。合計170万平方フィート(約52万平方メートル)の会場に2,700社以上の企業が出展。展示マップは7冊もあり、お目当ての企業を探し出すのも一苦労だ。

 それぞれの会場には展示企業に一定の傾向がある。パナソニック、ソニー、サムスン、LGなどの大手家電メーカーは中央館。ケンウッド、クラリオンなどカーオーディオ/カーナビ関連企業は北館という具合だ。

 今年、通信事業者が出展していたのは南館の2階。ベライゾン・ワイヤレスは、パートナー企業とともに「ネットワークのオープン性」をアピール。スプリント・ネクステルは、プリペイド携帯電話サービス「Boost Mobile」を展示。そして、Tモバイルはグーグルのアンドロイドを搭載した携帯電話「G1」などを並べていた。

 AT&Tの名前が見当たらないなあと思いマップを眺めていたら、なぜか北館にあった。

「カーオーディオやカーナビが並ぶ北館になぜAT&Tが?」という疑問を抱いたのだが、会場にたどり着いてすぐその謎は解けた。AT&Tが展示していたのは、携帯端末「iPhone」でも、IPTV「U-verse」でもなく、車載衛星TVサービス「AT&T CruiseCast」だったのだ。

 TV22チャンネル、ラジオ20チャンネルを衛星放送で自動車に配信するのが、AT&T CruseCast。アンテナ・メーカーRaySat社との合弁会社でサービスを提供する。

 CESが開催された1月時点では料金の詳細は確定していなかったが、先月(6月)2日の正式発表によれば、機器代金が1,299ドル(約12万3,000円)、サービスの月額料金が28ドル(約2,700円)。この他に工事費が150〜200ドルかかり、TVスクリーンの代金も別らしい。

 個人的に「車載衛星TV」で思い出すのはDISHネットワークだ。DISHはディレクTVに次ぐ全米第2位の衛星放送事業者。かつて車載衛星TVサービス「MobileDISH」を開発し、2007年のCESで派手にお披露目をしたが、同年5月に「サービス開始」の報道発表が行われた後はほとんど情報が出てこない。その時DISHと協力していたのも、今回AT&T CruseCastを共同開発したRaySat社であった。

 そこで今年のCESに出展していたAT&T CruseCastの担当者に単刀直入に聞いてみた。「以前あった車載衛星TVのMobileDISHはあまり売れなかったみたいだけど、これは売れるの?」

 すると、こういう答えが返ってきた。「MobileDISHはアンテナがばかみたいにデカかったからね。今度のは大丈夫さ。CruiseCastは業界紙CNETの“Best of CES Awards”にも選ばれたんだぜ!」

 確かにMobileDISHのアンテナは巨大で、TVのアンテナというよりは、軍事用レーダーに見えるような代物であった。あれと比べれば、魅力は大幅にアップしたと言えるだろう。

写真1 MobileDISHのアンテナ 写真2 AT&T CruiseCast
直径1メートルはあろうかという、MobileDISHの巨大なアンテナ。こんなのを取り付けて軍事施設のそばを走っていたらスパイではないかと疑われそうだ。 "Best of CES Awards"の表示の手前にあるのが、AT&T CruiseCastのアンテナ。「子供の自転車用ヘルメットと同じ程度の大きさ」と説明されている。

 しかし、問題は料金だ。

 「初期費用に10万円以上」という時点で導入へのハードルはかなり高いのだが、さらに「毎月2,700円」を支払うというサービスが受け容れられるのだろうか? アメリカ人がこの料金をどう感じているのか知りたくて、インターネットで検索してみた。すると、いくつかの情報がヒットした。しかし、「法外に高い」という意見は見当たらず、「リーズナブルな料金」というコメントすらあった。今時、車に衛星TVを取り付けようと考えるようなユーザにとっては、支払えない料金ではないということか?

 メインターゲットは「子供のいるファミリー世帯」。車社会のアメリカでは、家族揃って車で移動するシチュエーションが多い。その時に子供を大人しくさせておくことが結構大変で、マイカーに「バックシートTV」を取り付けている人も少なくない。

写真3 バックシートTV
CESで展示されていたヘッドレスト埋め込み型のバックシートTV
 「バックシートTV」とはその名の通り、「後部座席の人向けのTV」で、前の座席のヘッドレスト部分や天井に取り付ける。子供を後部座席に座らせて、好きなアニメなどのDVDを流しておけば、落ち着いてドライブができるというのだ。

 しかしいくら好きなアニメといっても、同じものばかりでは飽きてしまう。新しいDVDを頻繁に買い足す手間やコストを考えれば、有料衛星TVへの投資が割に合うというケースも出てくる可能性があるという訳だ。

 休日の高速道路料金が1,000円に値下げされたことで、長距離ドライブが増加したと言われる日本。将来、同じような需要が出てくる可能性もないとは言えない。しかし、既に無料のワンセグ放送が広く普及している状況では苦戦は必至であろうか。


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