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情報通信 ニュースの正鵠
2009年9月29日掲載

温暖化対策における情報通信(ICT)の役割

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 9月22日に開幕した国連気候変動サミットにおいて、鳩山首相が「1990年比25%の温室効果ガス削減」を目標とすると演説し、大きな注目を集めた。

 「2005年比15%減(1990年比で8%減)」という従来の目標を大きく上回る野心的なこの数値には、環境保護団体や海外の関係者などから称賛の声が寄せられているという。全人類的課題に対して前向きな姿勢を示した演説は、新政権の存在を世界中にアピールする格好の機会となったようだ。

 もちろん、大変なのはこれからだ。年々増加している温室効果ガスの排出量を、20年前の水準にさかのぼって25%減らすことは、そう簡単ではない。全産業、そして、全国民の取り組みがなければ実現できない。なかでも、情報通信(ICT)分野に対する期待は大きい。そこで今回は、温暖化対策において情報通信業界がどのような役割を果たすことができるのかを概観してみたい。

温暖化対策において情報通信産業は2つの重要な役割を期待されている。一つは、二酸化炭素などの温室効果ガスを抑制する役割、もう一つは温暖化による気候変動への対応である

 まずは、温室効果ガスの排出抑制について見ていこう。これには、大きく3つの効果が期待されている。

【効果1】 エネルギー効率の改善

 情報通信を活用することで、エネルギー効率の改善につながる事例がある。よく例に出されるのは「スマート・グリッド」。これは、各家庭や企業に「スマートメーター」と呼ばれる、通信機能を搭載したメーターを設置して電力需要を随時把握し、供給能力とマッチングさせることで、送電設備を効率化するという構想である。きめ細やかな需要把握が可能になるため、余計な発電を回避できるとともに、企業や家庭に設置したソーラーパネル発電の余剰電力を送電網に供給することも想定されており、化石燃料を燃やす発電の量を減らすことができる。火力発電量を減少させることができれば、CO2の排出量も減るため温暖化対策の一つとして注目されている。

 また、情報通信技術を用いて物流システムを効率化する「スマート・ロジスティクス」もある。これも、スマート・グリッドと基本的な発想は似ており、需要と供給をきめ細かく管理することで不要な在庫や運搬を回避するものである。不要な在庫や運搬を省くことができれば、コストはもちろんのこと、その分のエネルギーも節約できる。

 その他にも、スマート・ホーム、スマート・ビルディング、スマート・シティなど、最近「スマート●●」というフレーズを目にする機会が増えた。「スマート」という言葉の使われ方は、必ずしも一様ではないが、多くの場合、それらは「情報通信技術を用いた●●」という意味である。スマート化の目的は、単なる利便性の改善にとどまるものもあるが、効率化によるエネルギー消費量の低減を意図したものも多い。

【効果2】 交通機関の利用削減

 飛行機や自動車など、現代の交通機関の多くは燃料を消費する。ハイブリッド・カーや電気自動車など、燃料効率を向上させる取り組みも進んでいるが、交通機関の利用自体を減らすことができればより抜本的な対策になり得る。そこで、自転車を街づくりの中心に据えようとする取り組みもある。雑誌では「温暖化対策にもメタボ対策にも効果がある自転車に乗ろう!」という特集が組まれるなど、自転車業界には時ならぬ追い風が吹いているようだ。

 そして、交通機関の利用を削減する効果を持つもう一つの可能性として期待されているのが、情報通信の利用である。TV会議システムによる出張の削減や在宅勤務、遠隔医療やeラーニングなど、技術の進歩により、人々が移動しなくても要件を済ませることができる環境が整ってきた。

【効果3】 モノの削減

 見落としがちなのが、モノを減らす効果である。我々の身の回りに存在するあらゆる工業製品は、その製造工程においてエネルギーを消費している。したがって、モノを減らせば温室効果ガスの排出量も減る。

 モノを減らすには、同じものを長く使う、リサイクルを行う、余計なものを買わないなどの方法があるが、情報通信による代替もある。

 郵便を出す代わりにeメールで連絡する、音楽CDを買う代わりにインターネットの音楽配信を利用する、映画のDVDを購入する代わりにVOD(ビデオ・オンデマンド)サービスを利用する。情報通信を利用することで、紙や記憶メディアなどの「モノ」が、「デジタル・サービス」になる。モノがサービスに代わることもまた、温暖化対策の一つになるのだ。

温室効果ガスの排出抑制とともに情報通信業界に期待されている役割は、温暖化による気候変動への対応である。

ITUなどの資料によれば、地球温暖化により、既にさまざまな影響が観測されているという。海水面の上昇や、北極の氷の減少などはよく知られているところであるが、その他にも、洪水や台風などの自然災害の拡大も指摘されている。特に治水対策が十分ではない発展途上国にとって、これら自然災害の増加は非常に大きな脅威となる。

自然災害そのものを防ぐことは難しいが、事前に予測ができれば、被害を最小限に抑制することができる。そこで情報通信技術を駆使した、気候モニタリングにより、これまで以上に精緻な気象変動予報を行うことが重要な意味を持つのである。

 「エネルギー消費を減らす」ことが主眼となる温暖化対策は、人類が科学技術の進歩によって手に入れてきた便利で快適な現代社会の生活に制約をかける側面がある。しかし、「省エネ」や「節電」といった精神論での対応にはおのずと限界がある。そこで、人々が普通に生活していても、CO2の排出量が従来よりも少なくなるように、社会の構造を変革していく必要がある。その取り組みにおいて、情報通信産業は鍵となる役割を期待されているのだ。

 一方で、情報通信産業自身も温室効果ガスを排出していることを忘れてはならない。「世界中のPCを集めると、航空業界全体と同じくらいのCO2を排出している」と指摘する人もいる。今後、発展途上国において、PCや携帯電話が普及し、さまざまな小型センサーが日常生活の中に取り込まれるようになってくれば、その排出量はさらに増加する。

 温暖化対策において重要な役割を期待される情報通信業界であるが、同時に、業界自身のエネルギー効率の改善も求められている。


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