ホーム > 情報通信 ニュースの正鵠2009 >
情報通信 ニュースの正鵠
2009年11月2日掲載

「クルマ」という名の家庭用電気製品

[tweet]

「クルマは今や、鉄鋼よりも多くのエレクトロニクスで構成されている」

 これは今から約2年前、CES(国際家電ショー)において、ゼネラルモーターズ(GM)のワゴナーCEO(当時)が語った言葉だ。

 自動車メーカーのトップとして初めてCESの基調講演を行うこととなった同氏は、家電のイベントで講演を行う理由を、このセリフで説明。同社が提供するテレマティクス・サービス「On Star」を紹介するとともに、クルマ同士で通信を行い衝突事故を回避する「車車間通信」の可能性などに言及した。

 その後GMは経営破たんし、ワゴナー氏は退任に追い込まれることになるわけだが、それはともかくとして、実際、最近のクルマには数多くのエレクトロニクス技術が搭載されている。

すぐに思い浮かぶのはカーオーディオやカーナビであるが、それだけではない:

高速道路で先行車との車間距離を保ちながら自動で加減速するオートクルーズ機能

車線をズレて走っていると、自動で走行位置を矯正するレーンキーピングアシスト

高速接近する後続車を検知してドライバーに知らせるインテリジェント・バックミラー

位置を指定すると、ハンドル操作不要で車庫入れしてくれる、自動車庫入れ機能

衝突を予測すると座席のリクライニングを解除しシートベルトを締めて安全性を高める、プリクラッシュセーフティ機能

事故の際に直前の映像を自動的に録画保存するカメラ

タイヤの空気圧を測定してドライバーに知らせるセンサー付きタイヤバルブ

 見た目があまり変わらないので見過ごされがちだが、ICT技術によって、クルマは近年著しい進化を遂げている。

 また、クルマの基本構造の部分にもエレクトロニクス技術は入り込んでいる。

 例えば、日産のティーダには「エコモード」という設定がある。これは、燃費の良いドライバーの運転を真似するモードである。燃費はクルマによって異なるのはもちろんだが、運転の仕方にもかなり影響を受ける。そこで、誰が運転しても、燃費効率の良いアクセルワークに変換してくれるというのが、この「エコモード」 なのだ。

 言うまでもなく、昔のようにアクセル・ペダルと吸気バルブが直接ワイヤーでつながっていたら、こんな芸当はできない。あいだにエレクトロニクスが介在しているからこそ実現できるワザである。

 アクセル・ペダルで加速して、ハンドル操作でカーブを曲がり、ブレーキ・ペダルで減速・停止する。これは現在のクルマでは「あたりまえ」のインターフェースだが、電子制御になれば、必ずしもこの操作系に固執する必然性はない。細かいニュアンスはクルマの方で調整できるのだから、ドライバーは「加速したい」「曲がりたい」「停止したい」という意思をクルマに伝ることができれば良い。

 昔からのカーオーナーには伝統的なハンドルとペダルのインターフェース、テレビでザッピングするのが得意な人はリモコン、ゲーム好きな人はゲーム機のコントローラー、iPhoneのヘビーユーザーはタッチスクリーン、といった具合に操作インターフェースを選択できるクルマが登場しても不思議はない。さらに進んで、音声入力や脳波からの直接指示で動くクルマも不可能ではないであろう。

 現在の状況を加味して、3年前のワゴナー氏のコメントを言い換えるならば、「クルマはエレクトロニクス製品。それも最先端エレクトロニクスの結晶である」といったところか。

 先週から幕張で開催されている東京モーターショー2009に、クルマが電気製品化していることを象徴的に示す展示がみられる。

 今回のモーターショーの目玉は環境対策、とりわけ電気自動車(EV)が注目を集めている。電気自動車を展示した企業の一社、三菱自動車ブースには「MiEV HOUSE」という展示があった。

【写真】東京モーターショー2009の三菱自動車ブース

 これは「電気自動車(i-MiEV)は排気ガスを出さないので家の中に入れても大丈夫ですよ」ということを示すコンセプト展示である。家に帰って携帯電話を充電器にセットするように、電気自動車をコンセントに差し込んで充電するのだ。

 既にエレクトロニクスのかたまりのようなクルマ。動力源も電気モーターになれば、「家電(家庭用電気製品)」と呼んでも差支えない。

 家電としてのクルマが普及した時、人とクルマの関わり方は今とは少し違ったものになりそうだ。


▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。