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情報通信 ニュースの正鵠
2010年4月19日掲載

「画面が広いと使いやすい」という当たり前のことがiPadの大きなポテンシャル

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 4月3日に米国で発売されたiPad。一週間で50万台を売り上げるなど、予想以上に販売が好調で、当初4月下旬とされていた日本での発売開始は5月末まで延期された。

 インターネット上には既にiPadを入手した人たちのレビューが溢れており、「予想以上に楽しい」という声が多いようだ。私はまだ購入していないが、仕事の関係で先日、操作してみる機会に恵まれたので感想を書いてみたい。

 実物を前にして感じる第一印象は、多くの人が指摘するように、やはり「大きなiPhone/iPod Touch」というイメージだ。ただし「大きな」という形容詞よりもむしろ「巨大な」と表現した方が良いくらいにサイズは違う。

写真 iPad(左)とiPhone(右)
iPad(左)とiPhone(右)

 具体的に言うと、iPhoneに搭載されているスクリーンは3.5インチで480×320ピクセル。それに対してiPadは9.7インチで1024×768ピクセル。この差は圧倒的だ。例えて言えば、15インチの標準画質テレビと40インチのハイビジョンテレビくらいの違いがある。

 当然のことながら、これだけサイズが違うと使用感は大きく異なる。例えば、iPhoneでQWERTY配列のフルキーボードを表示させるとずいぶん窮屈な印象になるが、iPadならブラインドタッチもできるくらいに余裕がある。

 大画面化は、これまでスクリーン・サイズの制約に悩まされてきたアプリケーションにとって朗報だ。新聞・雑誌アプリの表示、絵画・美術品などのデジタル・アーカイブ、囲碁・将棋・麻雀などのテーブル・ゲーム、ペイントやフォトレタッチなど画像系ツールの操作。iPhoneの小さな画面では十分な魅力を発揮しきれなかったアプリケーションが、iPadの巨大画面によって、まったく別の輝きを放つ可能性がある。そして、楽器演奏アプリもそうした分野の一つであろう。

 15万以上のアプリケーションが存在すると言われるApp Storeのなかで、楽器演奏アプリは一つの確立されたジャンルになっている。ピアノ、ギター、ドラム、バイオリン、ウクレレ、ハープ、オカリナ、鼓、琴。さまざまな楽器アプリをダウンロードしておけば、iPhoneで気軽に楽しむことができる。演奏ガイドや、伴奏付きのアプリも多いので、素人でもそれなりの演奏ができる点も嬉しい。ただ、iPhoneの画面では、ピアノの鍵盤などはかなり小さくなってしまう。「画面がもっと大きければなあ〜」と思っていた人も多いだろう。そこに登場したのが大画面のiPad。このサイズなら、実際の楽器の練習用としても使えそうだ。

 先週、モバイル端末向けにアプリケーションを開発しているGClue社の代表取締役、佐々木陽さんのお話を伺う機会があった。同社は琴演奏アプリ「i琴」を開発したことなどで有名な会社。佐々木さん曰く「画面の小さいiPhoneではおもちゃの域を出なかったが、iPadを使えば本物の琴と遜色のないものができる」という。そして、「iPhone向けのi琴アプリを単に大画面化するのではなく、本物の琴を作るくらいの意気込みで一から開発している」と仰っていた。

 大画面化で楽器演奏アプリが本物の楽器に近づくのではないかという直感は、アプリ開発会社を率いる佐々木さんにとっては、明確なビジネス・チャンスとして映っているようだ。

写真 iPhone向けアプリの「i琴」。iPad版は日本での発売時期に間に合うように現在急ピッチで開発中
 iPhone向けアプリの「i琴」。
iPad版は日本での発売時期に間に合うように現在急ピッチで開発中

 iPhoneと比べて格段に大きなスクリーンを持つiPadの登場は、ユーザー層の拡大にも貢献しそうだ。

 iPhoneのユーザーはこれまで、30才前後の比較的ITリテラシーの高いビジネス・パーソンが中心と言われてきた。一方でiPadは、子供から大人まで、さまざまな層のユーザーが関心を示している。「会社で購入したら、パソコンには無関心だった年配の上司が興味津津で操作していた」とか、「自宅に持って帰ったら、教えたわけでもないのに子供が遊んでいた」などのエピソードがメディアで報じられている。実際、YouTubeなどの動画共有サイトで「iPad」関連動画を検索すると、「iPadを操作する1歳の赤ん坊」などの映像がいくつもヒットする。楽器アプリや、お絵かきアプリを入れておけば知育玩具として十分使えそうだ。中には「iPadのピアノ・アプリで遊ぶ猫」という映像もあるので、「ペットのおもちゃ」という用途もあり得るかもしれない。

 「画面に触れることで直感的に操作できるユーザー・インターフェース」と、「9.7インチという余裕のあるスクリーン・サイズ」の組み合わせは、これまでスマートフォンやパソコンとは縁遠かった人たちに、デジタル・エンターテイメントを経験してもらう格好のデバイスをもたらすことになりそうだ。

 「大きなiPhone/iPod Touch」という表現は当初、どちらかと言えばネガティブな意味、すなわち「画面が大きいだけで、特に新鮮味のない製品」というニュアンスで使われていた。しかし、実機を手にして感じたことは「大きなiPhone/iPod Touch」が持つポテンシャルは、想像以上に大きいということだ。

※iPadについては、アップルの製品発表時にもコラムを書いていますのでそちらもご覧ください。→「iPadの登場で見えてきた、家庭用情報端末の未来形」

 


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