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Global Perspective
2011年3月11日掲載

イギリス(1):ICTの現状〜市場としての魅力

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年3月4日、駐日イギリス大使館は、「英国モバイル・コンテンツ&スマートフォン ビジネスフォーラム ―英国からグローバル展開の機会を探る―」というイベントを開催した。イギリスにおけるモバイルコンテンツ動向、スマートフォン市場の動向、BBCの戦略、モバイル広告などについて4名が講演を行った。
ロンドンオリンピックを2012年に控えたイギリスのICT分野の状況に注目していきたい。今回はその中で、イギリスICT市場の魅力について紹介する。

イギリスICT市場の魅力

 オープニングリマークスではデヴィッド・フィットン駐日英国公使から以下の点についてからイギリスのICT市場として魅力が語られた。

  • イギリスではモバイルインターネット利用者が急増していること。
  • ロンドンオリンピックに向けてICT分野への取組に注力していること。
  • 英語が通じてマルチカルチャルな環境であるイギリスは、日本企業にとってもビジネスチャンスが多い。また欧州、新興国へのアクセスが良いことが強調された。

 たしかにイギリスは英語が通じるし、欧州大陸、新興国へのアクセスもよく、様々な文化が混在している。そもそもイギリス人の定義が何かわからないだろう。イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから構成されている。さらにロンドンを訪問したことがある人ならわかると思うが、インド人、東洋人、アフリカ系など多種多様な民族が混在している。ここではそれについては論じないが、このような「1つの言語でマルチカルチャー」という地の利を活かしていくことは非常に重要だろう。また日本企業にとっても英語でビジネスが遂行できるのは大きなメリットになるであろう。

(1)「スマートフォン標準」=「インターネット標準」+「テレコム標準」
 モバイル・コンテンツ・フォーラム常務理事の岸原孝昌氏の講演。
「英国モバイル・コンテンツ&スマートフォン市場視察レポート:最新状況と海外展開の可能性について」
ポイントとして以下が挙げられた。

  • 日本と比較して、イギリスではパケット定額制が普及していない。(全体の12.9%)
  • イギリスでは、その代わりにWi-Fiを活用(併用)してのリッチコンテンツが利用される傾向がある。
  • スマートフォン時代のキーワードとして「端末×OS×地域(キャリア)」と指摘し、グローバル展開においては脅威と機会が併存するが、コンテンツをこれらに合わせ最適化し、ユーザベネフィットの向上を実現させることが重要。
  • スマートフォン時代のイギリスのポジショニングとして、「インターネット標準」と「テレコム標準」が交わるのがイギリスの特徴である。
  • イギリスではスマートフォンの比率が34%。
  • Black Berryが若年層を中心に非常に人気がある。(無料で利用できる「BlackBerry Messenger」が若年層で流行していることが要因)
  • コンテンツ、アプリ購入時の決済代行サービスの仲介代理業者が13社ありユーザが選択できること。
  • アイテム課金などのフリーミアムモデルをはじめ、アプリダウンロード後の課金に注目が集まっている。特にサブスクリプションモデルは注目されている。

 今後、日本のコンテンツプロバイダーがイギリス市場への進出に期待していきたい。またそれらを支援するモバイル・コンテンツ・フォーラムにも注目していきたい。また日本では法人やビジネスマンを対象と思われているBlackBerryがイギリスでは若年層に人気が高いことは注目に値する。

(2)日本企業にとってのビジネスチャンス
 英国貿易投資総省デジタルテクノロジー&コンテンツ セクター・チャンピオンのトニー・ヒューズ氏の講演。
「英国モバイル・コンテンツ&スマートフォン産業とキービジネス分野の現状:日本企業にとってのビジネスチャンス」
ポイントとして以下の点があげられた。

  • 50%がプリペイドユーザ
  • 81%のアプリダウンロードは無料のアプリ
  • スマートフォンが急成長している。イギリスは他欧州諸国よりもハイエンド端末が売れている。
  • クリスマス商戦での携帯電話売上のうち36%がスマートフォンで、そのうち15%がBlack Berryだった。
  • 2011年2月の販売売上ベスト5は以下の通りで、HTC社のスマートフォンも売れているようだ。
    1. HTC Desire
    2. HTC Desire HD
    3. HTC Wildfire
    4. Black Berry Curve 8520
    5. Samsung Galaxy S
  • 欧州で一番Wi-Fiのホットスポットが多い。ロンドンオリンピックに向けてWi-Fi整備に積極的に投資している。
  • 1日の平均ブラウジング時間が107分で、そのうち32分がモバイルでのブラウジングである。
  • 欧州の他国よりも動画、音楽のダウンロードが多い。
  • SNSの人気が高く、Facebookはイギリス人口の半分の約2,900万人が利用している。モバイルでのSNS利用も急増している。
  • モバイル利用者のうち34%がモバイルゲームをやっている。
  • モバイル広告市場では注目しているのは、ロケーションベースサービス。位置情報を利用したサービスがさらに拡大すると予想。
  • NFC対応端末によるクーポンや決済サービス、モバイルコマースにも注目している。

 現在、イギリスではロンドンオリンピックに向けて様々なNFCサービスのトライアルが実施されている。NFCや「おサイフケータイ」は日本が世界に先駆けてビジネスとして実施してきた分野だ。この分野においては日本の過去の経験やノウハウを活かしてのビジネス展開ができるのではないだろうかと考える。またロケーションベースサービスの分野に関しても日本ではNTTドコモの「iエリア」が登場してきた時からあらゆるサービスの提供をしてきた。この分野においても日本企業のノウハウを活用できるのではないだろうか。
ヒューズ氏によると、「技術的な才能のある人がイギリスにはいる。ゲーム開発拠点もイギリス各地にある」とのこと。ロンドンオリンピックを前にして積極的にICTの活性化に注力しているイギリス市場において日本企業は日本で培ったノウハウや経験を活かす良い市場なのではないか。今後の日本企業の積極的なイギリス進出に期待したい。

 なお、英国貿易投資省は、以下の活動を支援する政府の専門機関である。詳細はサイトで確認頂きたい。
a) イギリスへの進出あるいはイギリスにおける事業拡大を希望している外国企業
b) 対外貿易に携わっているイギリス企業

次稿では、BBCの戦略とモバイル広告について考察を行いたい。

(参考サイト)
駐日英国大使館:http://ukinjapan.fco.gov.uk/ja/
英国貿易投資総省:http://www.ukti.gov.uk/
イギリス(2):ICTの現状〜BBCの戦略とモバイル広告
イギリス(3):駐日イギリス大使館の取組と「イギリス版シリコンバレー」構想


*本情報は2011年3月7日時点のものである。

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