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2003年5月掲載

米中韓、動乱の通信市場の全貌

米国

破錠相次ぐADSL、
 ケーブルテレビが優勢

米国 中国 韓国
ケーブルテレビを中心にブロードバンド化が進む米国、ADSL中心の韓国、そして、携帯電話網が急速に発展する中国の現状をリポートする。

■ADSLはマイノリティー

 日本のADSL(非対称デジタル加入者線)市場では、ソフトバンクBBなどのADSL事業者と通信事業者が「より速く、より安い」サービスを競って提供し、熾烈なシェア獲得合戦を繰り広げている。
 一方米国では、2000年3月にITバブルが弾けた影響もあって、地域電話会社のライバルと目されていた大手DSL(デジタル加入者線)事業者がいずれも経営破綻してしまった。その結果、ADSL市場におけるシェアは地域電話会社が95%を占めている。
しかし、ブロードバンド市場が地域電話会社の独壇場となっているのかといえば、そうではない。米国では、ケーブルテレビ事業者の提供するケーブル・モデム・サービスのユーザーが916万回線で、ADSLの440万回線を大きく上回っている。(02年6月時点)。「ブロードバンド」という市場全体でみればADSLはむしろマイノリティーである。
 それでは、ADSLとケーブル・モデムは、伝送速度や料金水準で激しい競争を展開しているのか? 実は、そうなってはいない。
 米国最大のケーブルテレビ事業者であるコムキャスト社のホームページを見ると、「ケーブル・モデムはDSLの約2倍の高速サービス」との謳い文句が目に入る。同社のサービスは伝送速度が「最大1.5Mbps」である。大手地域電話会社ベライゾンのADSLが「最大768kbps」なので確かに2倍ではあるが、「8Mbps」「12Mbps」という数字を見慣れた日本のユーザーからすると「高速」には見えない。
 また米国のブロードバンド・サービスの料金は、2000年に月額40ドル(約4,800円)程度になったあと、若干値上がりした。
現在ではADSLで月額50ドル(約6,000円)から、ケーブル・モデムで月額45ドル(約5,400円)からというのが、コンシューマー向け料金の相場である。月額30?程度の料金も見かけるが、それらは速度が384kbps程度と低速だったり「最初の6ヶ月間だけ」あるいは「年間契約が必要」などの条件が付いている。
 バブル崩壊後の米国通信業界では、「いかに利益をあげるか」が各社の緊急課題となっており、シェア獲得最優先の競争はすっかり鳴りをひそめている。そのため、既存サービスの料金値上げが行われることも珍しくない。

■IP電話は普及せず

 ブロードバンド回線上で提供されるIP電話は、ほとんど普及していない。ボネッジという会社が、DSL回線やケーブル・モデム回線に接続して利用できるIP電話機器を販売して注目を集めているものの、利用者数はまだ1万5,000ユーザーにとどまっている。また料金水準は「月額40ドルで市内通話、国内長距離通話がかけ放題」という程度のものである。従って、ブロードバンド・サービスの料金と合計すれば月額90ドル(約1万8000円)もかかってしまう。
 日本のようにIP電話をADSLの販売促進ツールとして利用するのではなく、それ自体で採算のとれるレベルに設定すると、この程度の料金水準になるのかもしれない。

週刊エコノミスト 5/13日号に掲載

政策研究グループ 清水 憲人
shimizu@icr.co.jp
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