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Enterprise Evolution
2009年7月掲載

クラウドコンピューティングの潮流(4):
クラウドに関する団体についての動向〜国内編

 前回は、海外におけるクラウドコンピューティングの標準化に関する団体の動向について取り上げた。今回は、国内での動向を取り上げる。

 ただし、国内の場合は、海外のように一般企業が中心となっている事例は少ない。むしろ、総務省や経済産業省といった政府主導の取り組みが目立っている。そこで、本稿では総務省と経産省の動向を中心に、国内での動向を整理する。

国内におけるクラウド関連動向

 国内におけるクラウド関連の動向としては、主に以下のようなものがある。

発表等時期 取り組み名 取り組み概要
 総務省の取り組み
2008年4月 ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度 SaaS事業者による安全性や信頼性にかかわる情報開示の促進を目的として実施
2008年10月 地方公共団体ASP・SaaS活用推進会議 電子自治体の普及促進を目的として、地方公共団体がASP・SaaSを活用する際の課題を検討するために設置
2009年5月〜 クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会 海外のデータセンターと比較して国内データセンターが優位性を保つための政策等を検討
2009年7月 ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン 総務省とASPICが設立した「医療・福祉情報サービス展開委員会」において、医療情報を取り扱う際の安全性や利用促進を目的として作成
2009年7月〜 スマート・クラウド研究会 クラウドの活用方法、標準化や相互運用性の確保、クラウドネットワーク技術などの検討
 経産省の取り組み
2008年1月 「SaaS向けSLAガイドライン」公表 利用者とSaaS提供者間で認識すべきサービスレベル項目や確認事項等を定める
2009年3月 中小企業向けSaaS活用基盤(J-SaaS) 主に中小企業を対象に様々な種類のSaaSサービスをワンストップで提供
 一般企業の取り組み
2009年5月 アップエクスチェンジコンソーシアム セールスフォース・ドットコムのプラットフォームであるForce.com上で開発を行っている企業が情報共有等などを行っている

 以下では、それぞれの取り組みについて、簡単に解説を行う。

総務省の取り組み

 総務省は、上で紹介した代表的な事例からもわかるように、積極的にSaaSやクラウドの普及にかかわる活動を展開している。

 その中のひとつである「ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度」は、財団法人マルチメディア振興センターが審査・認定を行っているもので、SaaS事業者による安全性や信頼性にかかわる情報開示を促進するものである。

 本制度の概要や審査基準などの詳細については「ASP・SaaS情報開示認定サイト」に譲るが、総務省とASPICが設立した「ASP・SaaS普及促進協議会」において公表された「ASP・SaaSの安全・信頼性に係る情報開示指針」に基づいて審査が行われている。

 2008年5月から始まったこの制度では、既に71のサービスが認定されている。ちなみに認定第一号は本稿第2回の記事でも取り上げた株式会社セールスフォース・ドットコムである。

 この他「地方公共団体ASP・SaaS活用推進会議」で発表された第一次中間報告資料や、「ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」を見ると、それぞれの利用シーンに合わせた課題の整理やSLAについての言及が為されている。

経産省の取り組み

 経産省の大きな取り組みとしては、「SaaS向けSLAガイドライン」の他に、「中小企業向けSaaS活用基盤」、いわゆるJ-SaaSがある。

 J-SaaSは、主に中小企業を対象に、財務会計や経理、給与計算、販売管理、グループウェアなどの機能をSaaSとしてワンストップで提供することを目的としている。現在は、16社が22のアプリケーションを提供している。

 J-SaaSは、経産省が決めたSLAガイドラインに準拠して運用されており、その状況を「サービス稼働状況履歴」というページで、ポータル自体の稼働状況に加え、各サービスの稼働状況を公開している。

一般企業の取り組み

 総務省や経産省以外の取り組みとして、今回はNPO法人である「アップエクスチェンジコンソーシアム」を取り上げた。

 このコンソーシアムは、セールスフォース・ドットコム社のプラットフォームであるForce.com上でアプリケーションを開発している企業が中心となり、技術情報の交換や販促を目的としたセミナーなどの開催を行っている。

 現在は、以前より帳票サービスなどを提供しているウイングアークテクノロジーズなどを含め、11社が参加している。

まとめ:ユーザの進化を促す取り組みを

ここまで見てきたように、国内では総務省や経産省を主導とした取り組みが積極的に行われている。ただし、取り組み開始からの期間が短いこともあり、具体的な成果が見えてくるには、しばらく時間がかかる可能性がある。

 今後は、現在進行中の取り組みの結果などを受け、他の取り組みとの整合性を保ちながら、SaaSやクラウドの利用促進に関する、積極的な活動が行われることが期待される。

 同時に、最後に紹介した「アックエクスチェンジコンソーシアム」のように、今後は一般企業による取り組みが増えていくことも期待される。

 従来のシステム関連の団体の動きを振り返ると、政府や製品提供企業主導の取り組みだけではなく、例えばSAPユーザが自ら運営するコミュニティである「JSUG」のように、ユーザ主導の取り組みが、利用促進や使いやすさの向上に大きな役割を果たしている。

 コンシューマ向けのサービスであるtwitterは、twitter自体の使いやすさの進化に加え、ユーザの使い方も進化したことによって、現在のように多くのユーザを獲得したと考えられる。

 同様に、エンタープライズ向けのサービスにおいても、ユーザ側の使い方の進化が、更なるサービスの向上につながる契機となるはずである。

 そのような機会を生み出すきっかけとして、今後、様々なステークホルダーの取り組みが活性化されていくことに期待したい。

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