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Global Perspective 2012
2012年1月11日掲載

ハイチ大地震から2年:モバイル送金への期待

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年1月12日にハイチでM7.0の大地震が起きてから、2年が経つ。東日本大震災の17倍以上となる約25万人以上の死者が出て、いまだに多くの国民が路上や仮設住宅で暮らしているとのことだ。被害総額は約77億5000万ドル以上といわれている。
今回はハイチでのモバイル送金の動向についてみていきたい。

Digicel Haitiのモバイル送金:"Tcho Tcho Mobile"

 2010年11月22日に、ハイチ最大手の通信事業者Digicel Haitiは、Scotia Bankと提携して、ハイチで初めてモバイル送金サービス”TchoTcho Mobile”のローンチを発表した。ハイチでは人口の10%以下しか銀行口座を持っていない。 "Tcho Tcho Mobile"では、銀行口座を持たなくとも、身分証明書と100グールド(約2.5ドル)のデポジットがあれば誰でも開設できる。1日20,000グールド(約500ドル)の送受金が可能だ。またNGO団体World Visionも"Tcho Tcho Mobile"に協力しており、ハイチで働いているスタッフの給料などを"Tcho Tcho Mobile"を活用して取引している。Digicel Haitiは、同社のブランドと240万の顧客(ローンチ当時)を活かして"Tcho Tcho Mobile"を生活のインフラにしていけるとコメントしている。

 Digicel Haitiがモバイル送金をローンチする前哨として、2010年6月8日にビルゲイツの運営する財団The Bill & Melinda Gates Foundationとアメリカ国際開発庁(United States Agency for International Development:以下USAID)は、ハイチでのモバイル送金の導入と普及に向けて1,000万ドルの支援を発表している。
地震で大きな被害を受けたハイチでモバイル送金によって、被災者への生活援助やハイチ国民が貧困から抜け出すための導入を狙っている。ハイチでは地震によって、銀行やATMの3分の1以上が崩壊した。モバイル送金によって、家族や友人、人道的支援組織、慈善団体などがハイチの人々に援助金や送金が簡単に行き届くことが可能になる。そして長期的には、安全で手軽な金融サービスとしてのモバイル送金が普及することで、貯蓄の増加と生活の向上が期待できるとコメントしている。
ハイチでモバイル送金を6か月以内に構築し、一定の目標を果たした企業に対して250万ドルを出資するとしていた。
そして5か月後の2010年11月にDigicel Haitiがモバイル送金"Tcho Tcho Mobile"をローンチした。これを受けて、2011年1月10日に、USAIDとThe Bill & Melinda Gates Foundationは、約束通りDigicel Haitiに対して250万ドル提供することを発表した。

Voilaのモバイル送金:"T-Cash"

 続いてハイチ2番目の通信事業者Voilaのモバイル送金の取組みを紹介する。2010年11月17日、ハイチUnibankとVoilaはモバイル送金"T-Cash"を発表した。
"T-Cash"はNGO団体MercyCorpsの協力を得ている。2011年5月のUSAIDのブログによると、2011年初頭からUSAIDはMercyCorpsと協力してハイチの人々にモバイル送金で毎月50ドルをSt. Marcエリアに住んでいる5,500人に送金しているとのこと。人々は50か所以上ある店舗で、主要産物である米、豆、オイル、とうもろこしを購入することができる。既に10万以上のモバイル送金でのトランザクションがあったとのことだ(2011年5月時点)。

ハイチでのモバイル送金

 ハイチでのモバイル送金の2陣営を簡単に図示する(図1)。

(図1)ハイチでのモバイル送金
  Tcho Tcho Mobile T-Cash

通信事業者

Digicel Haiti

Voila

銀行

Scotia Bank

Unibank

NGO

World Vision

MercyCorps

システム構築

YellowPepper (*1)

More Magic (*2)

(出所:各種資料より筆者作成)

*1:Yellow Pepperはラテンアメリカの大手システムベンダーでモバイル送金のシステム構築に強い。
*2:More Magicはアメリカのモバイルを中心としたシステムベンダー。

 ハイチにおけるモバイル送金は、これから本格的に普及していくフェーズであろう。アフリカを中心とした新興国では銀行口座を持たないで携帯電話で送受金する「モバイル送金」が一般的であり、生活のインフラになっている。
USAIDもハイチのモバイル送金の事例を受けて携帯電話を活用したモバイル送金が新興国向けの新たな援助策の1つであるとコメントしている。彼らはアフリカをはじめとした新興国でのモバイル送金の普及による経済の活性化が人々の生活向上に貢献したことを見てきた。ハイチにおいてもモバイル送金が人々の生活と経済の早期復旧と向上の起爆剤になることを期待しているのだ。
またハイチにおいてはモバイル送金が開発援助だけでなくNGOによる積極的な活動も特徴の1つである。周囲で利用している人がいることや利用促進に向けて指導する人たちがいることによって、人々の生活に違和感なく溶け込んでいくことだろう。
今後、ハイチにおいてモバイル送金が人々の貧困からの脱却と経済発展に貢献することが期待される。最後にハイチの早期復興を祈願するとともに犠牲者のご冥福をお祈り申し上げる。

ハイチ携帯電話事情

 最後にハイチの携帯電話事情を簡単に見ていきたい。
 携帯電話加入者は約486万人。携帯電話加入率は、約50%(2011年9月)
(固定電話普及率は約4%と昨年より減少)

1. Digicel Haiti
・シェア約69%
・ジャマイカDigicel の100%子会社

2. Voila
・シェア約 24%

【参考動画】
Digicel Haitiの提供する”Tcho Tcho Mobile”の広告(2011年)
ジャマイカにも送金できることが特徴的である。

【参考動画】
Voilaが提供する”T-Cash”の広告(2011年)

【参考動画】
MercyCorpsのハイチでのモバイル送金への取組み紹介ビデオ。
震災後のハイチの様子とNGOの積極的な取組みが伝わってくる。

(参考記事) ハイチ大地震から1年と携帯電話を用いた募金

*本情報は2011年1月6日時点のものである。

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