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Global Perspective 2013
2013年5月24日掲載

インドネシア:メッセンジャーアプリのユーザ獲得競争

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

日本では若者を中心にメッセンジャーアプリの「LINE」が大人気である。全世界で「LINE」のユーザ数は1億5,000万を超えた。メッセージやスタンプ、写真などを友人らと送受信したり、無料通話でコミュニケーションを行っている。

日本ではあまり馴染みがないが世界には「LINE」以外にも多くのメッセンジャーアプリがある。メッセンジャーアプリはそのアプリをインストールしているユーザ間でのメッセージ、通話が無料で行えるため、スマートフォンの普及とともに世界中で利用者が拡大している。それに伴ってメッセンジャーアプリ提供各社もユーザ獲得に躍起になっている。今回はインドネシアでのユーザ獲得に向けた動向を見ていきたい。

インドネシアにおけるコミュニケーション

(携帯電話の普及)
 インドネシアの人口は約2億3,440万人である。携帯電話の加入者数は約2億8,080万で、普及率は120%である。携帯電話の加入者数はSIMカードの販売数であり、1人で複数枚のSIMカードを保有していることが多いため普及率は100%を超えているが、必ずしも全員が携帯電話を持っているというわけではない。特にインドネシアでは携帯電話利用のほとんどがプリペイド方式であるため、通信事業者は1年中、街中でキャンペーンを行っているので、新しいSIMカードを次々に買う人が多い。地方や貧しい人が多い地域でも携帯電話は普及しており、SIMを販売している店やキオスクは存在している。

(図1)インドネシアでのSIMカード販売

(図1)インドネシアでのSIMカード販売 (図1)インドネシアでのSIMカード販売

(筆者撮影)

(携帯電話端末)
 携帯電話端末は、かつてはNokiaの人気が高かった。Blackberryが登場してからはBlackberryがビジネスマンを中心に大人気となり、インドネシアはアメリカに次ぐBlackberryのユーザが多い国になった。そのため「Blackberry messenger」の人気も高かった。今でもBlackberryを利用している人は多いが、サムスンやソニーのAndroid OSのスマートフォンやiPhoneなど多種多様なスマートフォンの登場によってBlackberryの勢いは以前ほど強くはない。iPhoneよりはAndroidの端末の方が人気はある。また中古の携帯端末が多く、学生や若者は中古の携帯電話を購入して利用している。
 さらにインドネシアでは地場メーカーの携帯電話、スマートフォンも多く流通しており、機能面においてはNokiaやサムスンとも遜色のない端末も多く存在している。

(図2)インドネシアの中古携帯電話販売店

(図2)インドネシアの中古携帯電話販売店 (図2)インドネシアの中古携帯電話販売店

(筆者撮影)

(世界4位のFacebook利用者)
 かつてインドネシアはアメリカに次ぐ世界で2番目にFacebook利用者が多い国だった。現在ではインド、ブラジルにその地位を奪われて世界4位になったが約5,000万人の利用者がおり、そのほとんどが携帯電話からアクセスしている。また規模を問わず多くのインドネシアの企業がFacebookページを開設したり、Twitterで情報発信を行っている。
 一方でFacebookに飽きてしまい、アカウントは持っているがアクセスが減ってしまったという若者も多い。

(世界5位のTwitter利用者)
 Twitterも人気があり約3,000万人が利用している(世界5位)。首都ジャカルタはTwitter発信の都市ランキング1位である。多くの若者がTwitterで情報発信をしたり、有名人のフォローをしている。ユドヨノ大統領もTwitterで情報発信を行っており、約220万のフォロワーがいる。
 AKB48の姉妹グループであるインドネシアの「JKT48」のメンバーも積極的にTwitterで情報発信を行っており、メンバーには10万〜20万のフォロワーがおり、研究生でも5万程度のフォロワーが存在し、彼女らのつぶやきをフォローしている。「JKT48」は現地では若者を中心に大人気で、テレビなどでよく見かける(参考レポート)。

インドネシアでメッセンジャーアプリが拡大している背景

インドネシア市場においてメッセンジャーアプリ利用者が拡大している要因として以下3点がある。

(1)スマートフォンの普及
 世界的なスマートフォンの普及はインドネシアでも同様である。スマートフォンの普及に伴って多くの人がメッセンジャーアプリを利用し始めている。インドネシアでは新品以外にも中古品が多数流通しており、さらに地場メーカーから廉価ながらも高品質な端末が販売されている。さらに現在はAndroidを中心としたスマートフォンが主流だが、つい最近まではBlackberryが圧倒的なシェアを誇っており、「Blackberry messenger」を利用する人が多かったため、新たに登場したメッセンジャーアプリを抵抗なく受け入れやすかったのだろう。

(2)SIMカードの氾濫
 インドネシアでは通信事業者が年中キャンペーンを行っており、1人で何枚ものSIMカードを保有している。つまり、それだけ電話番号が頻繁に増える、変わるのである。ショートメッセージ(SMS)は電話番号にメッセージを送付している。そのため、SMSを送信したのに、もうそのSIMカード(電話番号)を利用していない、ということも多くある。SIMカード(電話番号)を頻繁に変えると家族や親しい友人には、新しい番号を伝えるが、たまにしか連絡しない友人、知人などとは連絡ができなくなることが多い。その点、メッセンジャーアプリであれば、基本的にはIDなのでSIMカード(電話番号)が変わることによるメッセージ不達は防ぐことができ、良好な人間関係を維持できる。

(3)Wi-Fiの普及
 多くの人がメッセンジャーアプリはWi-Fiで利用している。セブンイレブンのようなコンビニや、ファーストフード店の多くは無料または安価でWi-Fi接続が可能であり、Wi-Fiに接続してメッセンジャーアプリを利用していることが多い。通信事業者もWi-Fiサービスを多く提供しており、現地通信事業者Indosatが提供している「Super WiFi」は専用のSIMカードを挿入するとWi-Fiエリアでは自動で接続できる仕組みになっており、SIMカードが氾濫している市場で新たな差別化としてユーザ獲得を行っている。

Wi-Fiエリアでの利用が多いため「LINE」でメッセージを送信しても、日本のようにすぐに「既読」にはならない。またWi-FiであればSMSのように1通いくら、というお金の心配をしなくてもよいので、Wi-Fiエリアに来て、時間やお金を気にせずメッセージ、スタンプ、写真を送付している。

余談だが、インドネシアの公共バス「Trans Jakarta」のKotaとBlok Mを結ぶ路線(コリドア1)では「女性専用席」が前方にある。男性はそこには入れない(女性は男性側の方に入れる)。家族で乗車し女性専用席が空いていると、そこに女性が行くことが多い。そして狭いバス車内ながらも離れ離れになってしまった男性と女性が「LINE」などでメッセージのやり取りをしていることをよく見かける。

(図3)Indosatが提供する「Super Wi-Fi」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(図3)Indosatが提供する「Super Wi-Fi」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(筆者撮影)

インドネシアでも急拡大しているメッセンジャーアプリ

ここでは、メッセンジャーアプリを提供している企業のインドネシアでの広告などを見ていきたい。各社がユーザ獲得に向けて躍起になっている。現在筆者はジャカルタにいるが、町には至るところに広告、ビルボードが出ているし、RCTIというエンターテイメントを中心に放送しているテレビでは頻繁に広告を見かける。

メッセンジャーアプリはどれだけ多くのユーザを囲い込むかが重要である。アプリ間同士での通話、メッセージは基本的に無料であるため、そこで収益を上げることは難しい。ユーザを獲得し、付随するゲームやスタンプなどのコンテンツで収益を上げる必要がある。「LINE」でも売上はゲーム課金が約50%(約29億1,000万円)を占め、スタンプ課金が約30%(約17億4,000万円)である。

(WhatsApp
 現在インドネシアで最も人気があるメッセンジャーアプリは「WhatsApp」だろう。欧米を中心に人気があり、世界でも一番利用者が多いだろう。インドネシア人は中東、マレーシア、シンガポールなどに出稼ぎに行っていることが多い。彼らとのコミュニケーションのプラットフォームとして「WhatsApp」はよく利用されている。
 「WhatsApp」は2011年初期から携帯電話メーカーNokiaと提携してサービス提供を行ったり、現地通信事業者と提携してキャンペーンを行っている。またビジネスパーソンが仕事上でのコミュニケーションに利用していることも多い。

【参考動画】
インドネシアでの「WhatsApp」の広告(Nokiaインドネシア、2011年)

(図4)「WhatsApp」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(図4)「WhatsApp」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(筆者撮影)

(LINE)
 日本でも御馴染の「LINE」も学生や若者を中心に人気がある。スタンプや写真を多く送ったり、「LINE POP」や「LINEバブル」といったゲームを楽しんでいる。筆者がインドネシア大学を訪問した際にも、ほとんどの学生が「LINE」を利用していた。インドネシアでは「LINE」も「WhatsApp」に次いで存在感があるメッセンジャーアプリである。(参考レポート)。

【参考動画】
インドネシアでの「LINE」のテレビ広告(2013年)

(WeChat)
 中国のTencentが2011年1月から提供する「WeChat」は全世界で約4億人のユーザ(月間アクティブユーザー数は1億9,00万人)がおり、多くのインドネシア人も利用している。

(図5)「WeChat」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(図5)「WeChat」の宣伝ビルボード(ジャカルタ)

(筆者撮影)

【参考動画】
インドネシアでの「WeChat」のテレビ広告(2013年)

(Kakao Talk)
 韓国の「Kakao Talk」はインドネシアで韓国のタレント「BIGBANG」を活用して宣伝を行っている。テレビ広告も多く、町でも動画を放送して宣伝を行っている。

(図6)「BIGBANG」が出ている「Kakao Talk」の宣伝動画を放送(ジャカルタ)

(図6)「BIGBANG」が出ている「Kakao Talk」の宣伝動画を放送(ジャカルタ) (図6)「BIGBANG」が出ている「Kakao Talk」の宣伝動画を放送(ジャカルタ)

(筆者撮影)

【参考動画】
インドネシアでの「Kakao Talk」のテレビ広告(2013年)

インドネシアでまだまだ続くユーザ獲得競争

メッセンジャーアプリの拡大のためにはユーザに認知してもらい、メッセンジャーアプリをインストールしてもらうことが重要である。友人や知人が誰も利用していないアプリをインストールする人はほとんどいない。日本人が「LINE」を利用しているのも、友人、知人が利用しているからである。まずは多くの人に認知され、インストールをしてもらい、利用されることによってユーザ基盤を固めることが重要である。

インドネシアでは上記4社が激しくユーザ獲得に向けた宣伝活動を行っている。日本のように「LINE」が圧倒的なシェアを占めている市場とは異なり、競争が激しい。ユーザ側からしても、インストールすればアプリ間での通話、メッセージは無料なので、多くの人が複数のアプリをインストールし、相手や利用目的に応じて使い分けている。現時点では「WhatsApp」が頭一つ分リードしている感があるが、一寸先は闇である。

人間の数だけコミュニケーションが存在し、それらを支えるプラットフォームであるメッセンジャーアプリの需要は高い。2億人以上の人口を抱えたインドネシアは平均年齢が28歳と若者が多い国であり、経済成長しており、スマートフォンの普及率も高い。各社ともインドネシアでのユーザ数は公開していないが、メッセンジャーアプリを提供する企業はインドネシア市場を制することは非常に重要であることから積極的にキャンペーンを行っている
 今後、どのメッセンジャーアプリがインドネシア市場を制するのか、もしくは新たなアプリが登場してくるのか。さらにはSMSからメッセンジャーアプリへ移行していくと通信事業者の収益にどのような影響を与えるのか。引き続き注目していきたい。

*本情報は2013年5月20日時点のものである。

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