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Global Perspective 2013
2013年6月25日掲載

「ながら歩き」は危険がいっぱい

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

最近、東京で地下鉄やJRに乗車すると電車内やプラットフォームで、「歩きながらの携帯電話やスマートフォンの操作は事故や他のお客様とのトラブルになるのでご遠慮ください」といったアナウンスを耳にすることがある。日本の駅や町にはたくさんの「ながら歩き」の人が多い。本当に危険である。

小学生の「ながら歩き」であわや大惨事

2013年5月27日には、東京のJR四ツ谷駅で携帯電話を操作していた都内の小学5年の男児が中央線快速上りホームから誤って線路脇に転落してしまった。直後に電車が進入したが、車両とホームの隙間に倒れていたため電車との接触はなく、駆け付けた消防隊員に救助され、命を落とすような大惨事には至らなかった。警視庁四谷署によると中央線快速は上下線の計24本で最大43分遅れ、約23,000人に影響が出たとのこと。多くの新聞で報道されていたので目にした人も多いだろう(※1)。

東京都千代田区からの要望書

駅のホームなどで携帯電話やスマートフォンを歩きながら使い、事故やトラブルに巻き込まれる危険性があることから、東京都千代田区は2013年6月19日、JR東日本や東京メトロなど区内に乗り入れている鉄道事業者4社に安全対策を求める要望書を提出したと報じられた。要望書では子供や高齢者も多く利用する駅で事故を未然に防ぐため、ホームの線路沿いにホームドアを設置して転落しないようにしたり、利用者に注意喚起したりするなどの対応を早急に検討するよう求めているとのこと。

以前から東京メトロでは「ながら歩き」の危険性を訴えるポスターをよく目にする。最近では「歩きながらの携帯電話やスマートフォンの操作は事故や他のお客様とのトラブルになるのでご遠慮ください」といったアナウンスを耳にする。それでも駅や町で「ながら歩き」をしている人が減少しているとは思えない。

(図1)東京メトロ駅構内にある「ながら歩き」に対する注意喚起のポスター

(図1)東京メトロ駅構内にある「ながら歩き」に対する注意喚起のポスター

NTTドコモの株主総会でも「ながらスマホ」が話題に

2013年6月18日に開催されたNTTドコモの株主総会においても「ながらスマホ」が話題になったと報じられている。NTTドコモの加藤社長は「今年2月から新たにマナーロゴを作っている。これをメーカーにも使ってもらうなど、地道に活動を行っていく」とコメントした。また坪内副社長は「安心、安全で携帯を利用するということは、ドコモが目指しているものであり、利用者は、周りの方々にも迷惑をかけないというマナーが必要。ドコモでは、2011年からラジオや雑誌広告でマナーについても啓蒙している。新聞広告でも『ながらスマホ』の危険性を指摘している。啓発活動にも力を入れていく」と述べた(※2)。

インドでは「ながら歩き」で死亡事故

「ながら歩き」は日本だけの問題ではない。以前のレポートでも取り上げたが、海外でも「ながら歩き」は問題になっている。

2013年6月にはインドのムンバイで17歳の少女が携帯電話で「音楽を聴きながら歩いていたら」バスにはねられて死亡するという悲惨な事故が発生した(※3)。遺体には両耳にイヤホンがつけられており、携帯電話で音楽を聴いていた形跡があるとのこと。おそらくバスに気が付かなかったのであろう。

この悲惨な事故を受けインドでは携帯電話の広告宣伝で「walk and talk(歩きながら話そう)」というキャッチフレーズがよく使用されているが、これは危険で事故の元だから禁止すべきだという議論も出てきている(※4)。事故で命を落としてからでは遅いのだ。

「ながら歩き」は「わかっちゃいるけど止められない」

アメリカの「Injury Prevention」ジャーナルの調査によると「ながら歩き」をしている人は注意散漫になり、歩くのが遅くなると報告された(※5)。当然と言えば当然の結果だろう。ワシントン州シアトルの20か所の交差点で1,102人の歩行者を対象として調査は実施された。1,102人のうち3分の1(約330人)は道路を歩きながら電話で話しているか、音楽を聴いているか、携帯電話にテキスト(SMS)を入力していたそうだ。3人に1人が「ながら歩き」をしていることになる。

調査結果によると音楽を聴いている人は聞いてない人よりも速足で歩いているが、携帯電話にテキストを入力している人はそうでない人よりも18%も歩くのに時間がかかっている。さらにテキスト入力者(texters)は信号無視や交差点で自動車や歩行者を確認しない確率がそうでない人の約4倍にも達しているとのこと。そして彼らはそのような行為が危険だとわかっていながらも、止めることなく続けるのだそうだ。「ながら歩き」は「わかっちゃいるけど止められない」といった世界なのだろうか。

ちょっと立ち止まって、人の邪魔にならないところで操作すればよいだけなのだろうけど、歩きながら操作できるという利便性の方が勝って、ちょっと立ち止まっての操作が出来ないのか、「ながら歩き」しないと歩けないくらいの依存症になってしまっているのだろう。人間の習性とは恐ろしい。

「ながら歩き」は格好悪い

小学生が駅のプラットフォームから落ちるという事故が東京四ツ谷駅であったが、これは決して他人事ではない。「ながら歩き」をして他人にぶつかってしまい、他人に迷惑をかけることもありうる。最近では自転車に乗りながらスマホの画面を見ている人までいる。自動車の運転席から見ると、自転車でスマホを見ていたり、音楽を聴いている人は自動車に気が付いているのだろうか、とものすごく危険に感じる。

そこまで危険を冒して「ながら歩き」をしなくてはならない程、スマートフォンや携帯電話の画面の中には重要なことがあるのだろうか。駅や町を歩く時に観察してみると、猫背になってスマートフォンや携帯電話の画面を見ながら歩く姿は決して格好いいとは言えない。携帯電話の画面を見ながら歩いている群衆は不気味ですらある。

「Seeing Eye People」

最後にアメリカの「ImprovEverywhere」の「Seeing Eye People」という動画を紹介する。

盲導犬のdogを人(people)に擬えたタイトルで、オレンジのベストを着た「Seeing Eye People」が「ながら歩き」をする人々の「目」となって道を歩く(その姿が盲導犬のようであることからSeeing Eye people)。

「ながら歩き」の人々は彼らについて歩くだけだから、スマートフォンや音楽に集中できるという動画である。滑稽なシーンであるが、「ながら歩き」をしている人がどのように歩いているのかがわかる。格好悪いうえに危険であることが見てとれる。

「人の振り見て我が振り直せ」ではないか。自戒も込めて。

【参考動画】「Seeing Eye People」

(参考)

※本情報は2013年6月25日時点のものである。

※1 日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞などの社会面に多数掲載

※2 ケータイWatch(2013年6月18日)「ドコモ株主総会、“ツートップ”最新状況などが明らかに」
http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20130618_604115.html

※3 Mumbai Mirror (2013) Jun 24, 2013, “Crossing the road? Don’t forget to take off your earphones”
http://www.mumbaimirror.com/mumbai/cover-story/Crossing-the-road-Dont-forget-to-take-off-your-earphones/articleshow/20417706.cms

※4 音楽を聴くことも含まれている。"Advertisements like the one telling people to 'walk and talk' should be banned. Such ads encourage people to talk on their mobile phones while walking. You can burn calories without listening to music or talking on the phone."

※5 Fox News(2013) Jun 24, 2013, “The dangers of texting and walking”
http://www.foxnews.com/health/2013/06/24/dangers-texting-and-walking/

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