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Global Perspective 2013
2013年8月7日掲載

サイバーセキュリティをめぐる同盟:日本とアメリカ

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年7月24日の日本経済新聞の夕刊1面に「サイバー防衛 日米で:指揮系統や原発想定」というタイトルで以下のように記されていた。サイバースペースをめぐる同盟関係について考えてみたい。

「サイバー防衛 日米で:指揮系統や原発想定」(日本経済新聞報道より)

少し長くなるが2013年7月24日の日本経済新聞の夕刊1面に出ていた「サイバー防衛 日米で:指揮系統や原発想定」は日米でのサイバーセキュリティにおける協力を考えるうえで重要だろうから引用しておく(※1)。(下線筆者)

(以下引用)

日米両政府は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直しで、サイバー攻撃に対する協力強化を打ち出す。米軍と自衛隊をつなぐ指揮系統システムへの防御策が中心で、原子力発電所や空港など重要インフラ防衛も課題になる。サイバー攻撃は、中国や北朝鮮などの関与も取り沙汰される。日米の対処能力を向上し、攻撃側をけん制する狙いがある。
 日米両政府は10月にも外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、ガイドライン改定作業を本格的に始めることで合意する見通しだ。サイバー対策での共同対処は、新たな防衛協力の柱として具体化させていく。

現在のガイドラインは1997年に改定したもので、日本が武力攻撃を受けたときの対応や、日本の周辺事態での連携などを盛り込んでいる。しかし、国際的な課題になっているサイバー攻撃にどのように対処するのか、記述がない。再改定にあたってサイバー対策での日米協力を明確に示すことが、攻撃の抑止にもつながるとみている。サイバー防衛で最も重視しているのが、米軍や自衛隊の指揮系統システムの安全確保だ。執拗な攻撃を受け、ミサイル防衛(MD)システムやイージス艦などの装備運用に万一混乱が生じれば、防衛能力が大きく低下する恐れがある。

自衛隊自身も米軍との共同訓練を含め、サイバー防衛能力を高めていく方針だ。防衛省は来年3月をめどに自衛隊に「サイバー防衛隊」を90人規模で設置し、情報収集やシステム防御などを担当させる。自衛隊の統合幕僚監部の指揮システムで模擬版をつくり、研究目的で使うだけでなく、実戦を想定した大型演習ができるようにする構想も詰めている。

原発の中央制御室が攻撃されれば、原子炉の安全運転に支障が生じる可能性がある。空港の管制システムが混乱した場合、航空機事故の引き金になりかねない。日米両政府は5月、サイバー空間の脅威に関する初の対話を東京で開き、サイバーテロを防ぐ包括的な協力を進めるとした共同声明を発表した。米側は重要インフラ保護にも強い関心を示している。

(ここまで。下線筆者)

「日米サイバー対話 共同声明」(2013年5月)

上記の記事の中にあった日米両政府が2013年5月10日に発表した「日米サイバー対話共同声明」(外務省発表)のポイントは以下の通りである(※2)(参考レポート)。

日米サイバー対話は、以下の取組により、サイバーに関する幅広い協力を深化させ、日米同盟を強化した。

  • サイバーに関する共通の課題についての情報交換及びあり得べき協力の手段についての議論。
  • サイバーに関する国際的な協議の場における共通目的の確認。特に、サイバー空間における責任ある国家としての行動規範。
  • サイバー空間におけるリスク軽減のための実効的な信頼醸成措置の構築及び政府横断的サイバー戦略の実施の支援。
  • 複数のステークホルダーによるインターネットガバナンスによる開放性や相互運用性強化のための支援の確認。
  • 第三国のサイバー能力構築支援に係る協力の調整。
  • 政府や民間部門が重要インフラ保護のためにとることのできる行動・措置の特定。
  • 防衛・安全保障戦略において重要性を増しているサイバー防衛の役割に関する取組及び二国間のサイバー防衛協力上の新たな分野に関する議論。

(出典:外務省 2013年5月)

また、防衛省では日米でのサイバーセキュリティの協力について、日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表(※3)に基づいて以下のように記している(※4)。

  • 日米間においては、平成23年6月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表に盛り込まれたサイバー・セキュリティに関する二国間の戦略的政策協議等を進めるとともに、情報交換の緊密化等の連携を一層強化する。
  • 日米共同訓練においてサイバー攻撃により被害を受けた状況を取り入れる等、日米の共同対処能力の向上を図る。

(出典:防衛省 2012年9月)

同盟国間によるサイバーセキュリティ

アメリカや日本など先進国は国家の様々なインフラをサイバースペースに依拠しており、各国でほぼ同等の能力を保有している。そして同盟国は基本的に価値観を共有している。日米同盟は、世界の民主主義国同士の同盟をみても、異文化圏でしかも異人種の間で結ばれる同盟としてきわめて例外的である、と米国政治学者ケント・E・カルダーは述べている(※5)。それでも防衛同盟において重要なのは、対外的脅威に対する安全保障であり、それはサイバーセキュリティでも同じであろう。「安全を確保するためには自己強化が、それが不可能な場合、同盟の形成が必要になる」、と米国政治学者ケネス・ウォルツは述べている(※6)。サイバースペースは情報通信技術という世界でほぼ標準化された技術で構成されており、そこには多くの未知の脆弱性が潜んでいる。それらを自国のみ、すなわち「自己強化」だけで防衛することは不可能に近いだろう。そこで国家間での協力が重要になってくる。

同盟国間での相互のサイバー攻撃が問題になるということは少ない。国家間でサイバー攻撃が問題になるのは、「アメリカと中国」、「インドとパキスタン」、「朝鮮半島」、「アラブ諸国とイスラエル」、「ロシアと周辺諸国」がほとんどである。つまりサイバースペースも現実の国際関係での国家間対立をそのまま反映している。その点から日本はアメリカとサイバースペース防衛について同盟国同士として協力することができる。そしてサイバーセキュリティにおける同盟国同士の協力は大きな抑止力になりうる。つまり、攻撃を仕掛ける側からする相手にとって「手強い防衛」をしているのではないかという懸念を抱かせることができる。例えば、日本にサイバー攻撃を仕掛けたらアメリカが動いてくる可能性があるから、日本にサイバー攻撃を仕掛けるのはやめようと思わせることができるだろう。また、同盟国同士で協力してサイバー攻撃を仕掛けてくるのではないかという畏怖を敵国に対して与えることができる。アメリカとイスラエルが協力してイランの核施設を標的としたと言われているサイバー攻撃Stuxnetがこの例であろう。

サイバー同盟において重要なのは「弱い環」を作らないこと

サイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけの問題ではない。サイバー攻撃はどこから侵入してきて自国のサイバースペースから情報窃取やシステム破壊を行うかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。そして日本もサイバースペースにおいて「弱い環」になってはいけないのだ。現代社会のインフラはサイバースペースに大きく依拠しており、各国がネットワークで接続されていることから、サイバースペースの中で「弱い環」になることは、現実の国際関係の中でも孤立しかねない。

日本とアメリカの二国間または同盟国同士の多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、マルウェア対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを継続して行っていく必要がある。

*本情報は2013年8月6日時点のものである。

※1 日本経済新聞(2013年7月24日)夕刊1面

※2 外務省(2013年5月10日)「日米サイバー対話 共同声明」

※3 「日米安全保障協議委員会共同発表」(2011年6月)http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/pdfs/joint1106_01.pdf

※4 防衛省(平成24年9月)「防衛省・自衛隊によるサイバー空間の安定的・効果的な利用に向けて」
http://www.mod.go.jp/j/approach/others/security/cyber_security_sisin.html
http://www.mod.go.jp/j/approach/others/shiritai/cyber/

※5 ケント・E・カルダー著、渡辺将人訳『日米同盟の静かなる危機』ウェッジ、2008年 p295

※6 ケネス・ウォルツ著、河野勝訳『国際政治の理論』勁草書房、2010年p220

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