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Global Perspective 2014
2014年2月28日掲載

「ブラジルー欧州」直結の海底ケーブルはサイバースペースにおけるアメリカ依存から脱却できるのか?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

2014年2月24日、ブラジルと欧州連合(EU)が「ブラジルーポルトガル間」を直接結ぶ新たな海底ケーブルを敷設することに合意に達したことが報じられた(※1)。新海底ケーブルはポルトガルのリスボンとブラジルのフォルタレザとを結ぶ予定で、ブラジル国有の通信事業者TelebrasとスペインのIslaLink Submarine Cablesが共同で建設する予定で、建設費は総額1億8500万ドルで、2015年には運用開始する予定である。

アメリカを経由しない「ブラジルー欧州」直結の海底ケーブル

一見ただの海底ケーブル敷設のニュースのように見えるが、従来ブラジルと欧州を結ぶケーブル(データ通信用)はアメリカを経由していることが多いが、今回はブラジルーポルトガル(欧州)を直接結ぶことになり、アメリカを経由しない。一部の古いケーブルで南米と欧州の直通ケーブルが存在し、音声通信の一部には使われているようであるが、ほとんどがアメリカ経由である。ブラジル、欧州ともに通信分野におけるアメリカへの依存度を下げ、アメリカ国家安全保障局(NSA)などによる諜報活動の懸念を回避することが狙いとされている。

特にブラジルでは2013年、アメリカ国家安全保障局(NSA)がルセフ大統領のメールを傍受していたとの報道を受け、予定していた2013年10月の大統領のアメリカ訪問を延期したこともあるほど、アメリカに対する警戒心が強い(関連レポート)。今回のブラジルと欧州の海底ケーブル敷設についても、ルセフ大統領は「我々はプライバシーや人権、国家の主権を尊重しなければならない。また、ビジネスがスパイ活動のターゲットになることも望んでいない」とインターネットの中立性を強調した。

サイバースペースでの「アメリカ外し」は増えるのか

今回の合意を受けて、中国CCTVは欧州とブラジルの「サイバーセキュリティでの協力拡大」と報じている(※2)。アメリカと中国はサイバースペースにおける様々な局面で対立することが多いから、ブラジルと欧州が新たな海底ケーブルでアメリカを経由しないことは中国のメディアとしては歓迎であろう。

しかし、今回の「ブラジルー欧州」で直結の海底ケーブルが敷設され、アメリカを経由しないからといって、サイバースペースにおけるアメリカの力がすぐに衰退することはないだろう。今でも世界のサイバースペースの覇者はアメリカである。

一方で、今後もこのようなアメリカに依拠しない二国間、多国間のサイバースペースにおける協力が進展していく可能性は高い。特に欧州ではすでにそのような動きが見られる。アメリカの今後の動向に注目である。

【参考動画】

*本情報は2014年2月27日時点のものである。

(参考)

※1 ZDNET(2014), 25 Feb,2014 “We're building undersea cable to thwart US spying, say Brazil and Europe”
http://www.zdnet.com/were-building-undersea-cable-to-thwart-us-spying-say-brazil-and-europe-7000026743/

※2  CCTV(2014), 25 Feb,2014 “EU, Brazil to enhance cyber security cooperation”
http://english.cntv.cn/20140225/100553.shtml

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