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Global Perspective 2014
2014年4月10日掲載

相変わらず舌戦の米中サイバー戦争

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

2014年3月28日にアメリカのヘーゲル国防長官がサイバースペースでの取組みについて語ったことについては本稿でもお伝えした。「アメリカ:2016年までにサイバー部隊6,000人に増強」を参照頂きたい。その中で、ヘーゲル国防長官は「サイバースペースを軍事化していくことはない」と述べた。それに対して、中国外務省は2014年3月31日に、アメリカのサイバースペースでの姿勢に対して、言動一致をしていくことを要求すること表明した(※1)。

それに関してロイターが『米国の「サイバー作戦自制」発言、中国が言行一致求める』という記事で配信した(※2)。短い記事なので引用して紹介する(下線筆者)。

中国外務省は(2014年3月)31日、サイバースペースでの軍の活用を自制するとしたヘーゲル米国防長官の発言を歓迎した上で、米国に対し言行一致を求めた。 4月に中国を訪問するヘーゲル長官は3月28日、国防総省は米政府のネットワーク外でサイバー作戦を展開することを控えるとの方針を示し、他国にも同様の措置を促した。

米国と中国はサイバー攻撃をめぐって対立しており、国家機密にかかわる政府のウェブサイトがハッカー攻撃を受けたと互いに非難している。中国外務省の洪磊報道官は、ヘーゲル長官の発言について中国は非常に注目していると述べるとともに、インターネットは発展の促進と市民の生活向上に利用されるべきとの見解を示した。

記者会見で「インターネット上で平和を維持し、サイバー戦争を回避することは中国と米国双方の利益にかなう」と指摘。「米国が真剣になって発言内容を政策と行動に移し、オンラインスペースで中国と平和的でオープン、かつ安全で協力的な関係を築くことを望む」と語った。

なお、以下は中国外交部が発表した英語版でのコメント英語である(下線筆者)。

Q: US Defense Secretary Chuck Hagel said on March 28 that the US "does not seek to militarize cyberspace" and hopes to make it the catalyst for freedom and prosperity. The US Defence Ministry will maintain an approach of restraint to any cyber operations outside of US government networks and urge other nations to do the same. What is China's comment?

A: China has noted the statement by the US. We always believe that information and communication technology should help promote the all-round development of society and economy as well as people's well-being of all countries. To preserve peace of the cyber space and prevent it from becoming a new battlefield serves the common interests of the international community. China hopes that the US can translate relevant remarks into concrete policies and actions and work together with the international community to build a peaceful, secure, open and cooperative cyber space.

常に舌戦のサイバースペースをめぐる攻防

米中はサイバースペースをめぐっては常に舌戦を繰り広げている。「サイバー攻撃はアメリカから来ている」、「サイバー攻撃は中国から来ている」とお互い自国が被害国であることを主張しており、両国ともに自国から攻撃をしていることを公式に認めたことはない。今回のヘーゲル国防長官のコメントに対する中国外交部のコメントもその舌戦の一環であろう。

サイバースペースを構成する情報通信技術は多くの脆弱性を抱えており、その未知の脆弱性を突いた攻撃がサイバー攻撃である。常に自国のサイバースペースに脆弱性がないかの確認を行うことがサイバースペースの防衛であり、敵のサイバースペースの脆弱性を探り、発見したら、そこから敵のサイバースペースに侵入するなど攻撃をしかけるのがサイバースペースにおける攻撃である。これの繰り返しがサイバー戦争であり、その本質はプログラミング戦争である。サイバー攻撃からの防衛の重要性は訴えるにしても、決してどちらも自国がサイバー攻撃を行っているとは言わない。現代社会はサイバースペースに依拠して国家の運営は行われていると言っても過言ではない。そのような状況の中で、サイバー攻撃をしていることを明らかにすることは、相手国に無断で侵入していることを宣言するようなことであり、両国とも公式にそのようなことを明言することはないだろう。サイバースぺースをめぐっては米中間においてはこれからも舌戦が繰り広げられるに違いない。舌戦とはすなわち広報活動であり、巧みな情報発信力が求められる。高校生のスピーチのような内容ではサイバー戦争の舌戦を戦い抜くことはできない。

*本情報は2014年4月3日時点のものである。

※1 中華人民共和国外交部, Foreign Ministry Spokesperson Hong Lei's Regular Press Conference on March 31, 2014
http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/t1142811.shtml

※2 ロイター(2014年3月31日)
米国の「サイバー作戦自制」発言、中国が言行一致求める
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA3004G20140401

英語での記事は以下
Reuter(2014), 31 Mar 2014,  “China hopes U.S. matches words with policy on cybersecurity”
http://www.reuters.com/article/2014/03/31/us-china-usa-internet-idUSBREA2U0G420140331

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