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Global Perspective 2014
2014年6月2日掲載

日本とイスラエル:サイバーセキュリティにおける「バンドワゴン戦略」

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

2014年5月12日、安倍首相とイスラエルのネタニヤフ首相は首相官邸で会談し、共同声明に署名した(※1)。今回の2か国の共同声明では、特にサイバーセキュリティに関する対話実施への期待が表明された。安倍首相は「両国の国家安全保障機関の意見交換開始、および国防とサイバーセキュリティの分野での協力推進で合意した」と発言した(※2)。

毎日新聞Web版(2014年5月13日)にネタニヤフ首相へのインタビュー記事が掲載されていた(※3)。非常に長いインタビュー記事なので、一部を引用して掲載しておく。(下線筆者)

「イスラエル:ネタニヤフ首相単独インタビュー 一問一答」2014年5月14日(毎日新聞Web版)

Q東京五輪のセキュリティー対策に関心が集まっている。イスラエルは前回のロンドン五輪の際、ノウハウと技術を提供した。この問題について安倍晋三首相と協議したか。

A 東京五輪のためにセキュリティー面で積極的に協力する用意があることを伝えた。安倍首相は関心を示していた。実りの多い取り組みになると思う。イスラエルは多くの国と協力し、成功した経験がある。日本にも喜んで協力したい。

Q 協力の詳細について話したか。

A いいえ、現段階では。多くのことについて話をしたので。あらゆる潜在的な協力の可能性について話をした。イスラエルと日本の企業、政府間の協力は非常に大きな経済的機会を生み出せる。私たちは技術の時代に生きている。イノベーションだけが、私たちの製品とサービスの価値を増し続ける唯一の方法だ。日本は科学技術の中心であり、イスラエルも優れた技術力を持っている。私たちが協力することによって、エネルギー、水、農業、健康、情報技術(IT)などの分野で大きな成果を上げることができる。みなさんが持つ携帯電話の中には、イスラエル製の部品が入っているはずだ。また例えば、胃腸の具合を確かめるためカプセル型内視鏡をのむ。これもイスラエル製だ。世界で最もたくさん乳を出す牛は、フランスでもオランダでもなく、イスラエルの牛だ。なぜなら(酪農業が)コンピューター化されているからだ。牛のあらゆる動きが計算されている。さらに、日本にとって非常に重要な分野は、サイバーセキュリティだろう。サイバー攻撃から発電所や個人の銀行口座をどう守るか。イスラエルはサイバーセキュリティ界の中心でもある。私たちは、この分野でも日本と協力したい。グーグル、マイクロソフト、アップルといった会社はすべてイスラエルに研究開発所を持つ。我が国で起きている爆発的なイノべーション革命を享受したいのだ。品質管理などさまざまな面で優れた点を持つ日本企業との協力は、さらなるイノベーションを進行させ、アベノミクスにも貢献できるだろう。

サイバーセキュリティは「バンドワゴン」戦略

イスラエルはサイバーセキュリティの分野においてはアメリカに次ぐ大国である。それは同国が中東周辺諸国から常日頃から多くのサイバー攻撃の標的とされているからである。イスラエル電力公社(IEC)は1時間に1万回ものサイバー攻撃を受けている(参考レポート)。そのような環境にあるイスラエルのサイバー攻撃の検知、防衛対策の技術力は相当に秀でている。

また標的とされ攻撃を受けているだけでなく、自らも相当な攻撃力を保有している。2010年にはイランの核施設を標的とした協力マルウェアStuxnetによるサイバー攻撃はアメリカとイスラエルによって行われたと報じられている。また2012年にはStuxnetに続く強力マルウェアFlameも同様にアメリカ、イスラエルによってイランに仕掛けられたと報じられたことがある(参考レポート)。

一方で、日本はイスラエルほどのサイバー攻撃の被害は少ないだろう、また日本が自らサイバー攻撃を仕掛けているということもない。そのことから日本は決してサイバーセキュリティにおいては大国とは言い難い。

国際関係の中でのサイバーセキュリティにおいては、日本のような国はイスラエルやアメリカのような大国に「バンドワゴン」するのが良いだろう。バンドワゴンは、「勝ち馬に乗ること」や「追従」などと訳されることが多いが、国際政治学における「バンドワゴン」戦略とは力の強い側と組むことによって、その勢力の持つ余分の力や安全の恩恵に与ろうとするものである。中小国にとっては、強国に対抗するより強国に合わせる方が簡単なのである(※4)。サイバーセキュリティにおいてイスラエルは日本よりも遥かに大国である。今後も国際関係のサイバーセキュリティ分野においては「バンドワゴン」の関係は増えていくことが想定される。そうなるとサイバー大国はますますサイバーセキュリティ分野において強大化していくだろう。

テルアビブのハリキヤにある国防省

(出典:筆者撮影)

*本情報は2014年5月15日時点のものである。

※1 外務省(2014年5月12日)「日イスラエル首脳会談」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/il/page4_000469.html
仮訳は以下
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000038473.pdf

※2 Bloomberg(2014年5月12日)「日イスラエル首脳会談:国防やサイバーセキュリティーで協力」
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N5GSWP6JTSER01.html

※3 毎日新聞Web版(2014年5月14日)「イスラエル:ネタニヤフ首相単独インタビュー 一問一答」
http://mainichi.jp/feature/news/20140514mog00m030001000c.html

※4 土山實男『安全保障の国際政治学』有斐閣、2004年(P304)

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