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InfoCom Law Report
2014年7月22日掲載

米国におけるオンラインプライバシー保護の取組み〜カリフォルニア州のリベンジポルノ法について〜

(株)情報通信総合研究所
法制度研究グループ
研究員 中島 美香

1.はじめに

米国では、SNS利用の拡大により、元交際相手の裸の写真等をインターネット上に流出させる「リベンジポルノ」と呼ばれる嫌がらせ行為の問題が深刻化している(※1)。このような中、最近では米国のカリフォルニア州が、2013年10月1日に、リベンジポルノを禁止する法律を制定している。また、法制定の直後から指摘されていた不備に対応するため2014年2月20日にはさらに改正法案が州議会に提出されている(※2)ため紹介する。

なお、2013年10月1日に制定された現行法【別紙1】及び2014年2月20日に提案された改正法案の現時点における修正版【別紙2】について仮訳しているので、別紙を参照されたい。

2.カリフォルニア州法の概要(※3)

治安紊乱行為(迷惑行為)について

カリフォルニア州法第647条は、元々治安紊乱行為(迷惑行為、disorderly conduct)を禁止する法律である。2013年10月1日に制定された現行法は、州刑法典第15編第2章第647条第(j)項の新設及び第(l)項の改正により、治安紊乱行為としてのプライバシー侵害罪について定めたものである。

当事者間で画像がプライベートなものであることを合意するかまたは理解している状況下で、特定可能な他人の身体の恥部の画像を撮影するかまたは何らかの方法で記録し、それに続いて被写体が深刻な精神的苦痛を被る目的で画像を頒布し、被写体が深刻な精神的苦痛を被る場合。
身体の恥部とは生殖器の一部を意味する。また、女性の場合には、被服に覆われていないか、完全には不透明ではない被服を通して透けて見える、乳輪から下の胸部を含む。

処罰について

6ヵ月以下の潮汐または1,000ドル以下の罰金、あるいは、併科により処罰される(※4)。
2回目以降の違反、または、違反による被害者が犯罪当時に未成年者である場合には、1年以下の懲役、2,000ドル以下の罰金、あるいは、併科により処罰される。

3.背景

2013年10月1日に制定された現行のカリフォルニア州法は、撮影者が被害者自身である場合には罪に問われないため、被害者自身による撮影が少なくないリベンジポルノ被害者を救済することにはならないのではないか、との懸念を生じていた(※5)。現行法と現時点における改正法案を比較すると以下のとおりである。

(表)現行法と現時点における改正法案の比較

(表)現行法と現時点における改正法案の比較

なお、2014年3月25日現在で、全米のほぼ半分の州でリベンジポルノに関する何らかの法案が提出されていると報告されている。各州の法案を見ると、リベンジポルノを覗きや盗撮のような治安紊乱行為やプライバシー侵害罪とするもの(ハワイ州、ニューヨーク州、ウィスコンシン州)のほか、嫌がらせ罪としての規定を試みる州(フロリダ州、メリーランド州、ペンシルバニア州)や、ポルノ罪として位置付ける州もある(イリノイ州、ロードアイランド州)とのことである(※6)。また、「サイバー人権イニシアティブ」という団体は、連邦法におけるリベンジポルノ罪の新設を主張している(※7)。

4.まとめ

リベンジポルノは被害が甚大であるにもかかわらず、法律上被害者を救済する手段がなかったり、救済が非常に困難だったりするだけでなく、リベンジポルノ掲載ウェブサイトの運営者が何らの処罰がなされないとの問題も指摘されている(※8)。そのようななか、米国では各州が立法へ向けて活発に議論をしており動向について注視が必要である。

日本では、リベンジポルノの被害に対しては、名誉毀損罪(刑法第230条)、わいせつ図画公然陳列罪(刑法第175条)、または、被害者が18歳未満の場合には児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ禁止法第2条3項1〜3号)に該当する可能性が指摘されており(※9)、議論の状況は異なることに注意を要する。なお、日本では、2014年6月18日に改正児童ポルノ禁止法が成立している。同法は、性的好奇心を満たすために自分の意思で児童ポルノを所持した者に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。インターネットのプロバイダーやサーバー管理者などに対しては、捜査機関への協力と児童ポルノのネット送信防止などを求めた努力義務を課す条項も新設されている。

※1 内閣府「平成25年度 アメリカ・フランス・スウェーデン・韓国における青少年のインターネット環境整備状況等調査」http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-syogaikoku/2_16.html

※2 国立国会図書館 調査及び立法考査局 海外立法情報課 井樋 三枝子「アメリカにおける性的図画の流布を処罰する州法―リベンジポルノ等の犯罪化に関する各州立法動向―」
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8677795_po_02600003.pdf?contentNo=1

※3 http://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=201320140SB255

※4 カリフォルニア刑法典第19条は、カリフォルニア州法が異なる処罰を定める場合を除き、軽罪(misdemeanor)とされるすべての犯罪は、6ヵ月以下の潮汐または1,000ドル以下の罰金、あるいは、併科により処罰される、とする。
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/displaycode?section=pen&group=00001-01000&file=2-24

※5  http://nation.time.com/2013/10/03/californias-new-anti-revenge-porn-bill-wont-protect-most-victims/

※6 前掲注2に詳しいほか、下記を参照。
http://www.legalnews.com/detroit/1384213
http://www.ncsl.org/research/telecommunications-and-information-technology/state-revenge-porn-legislation.aspx

※7 http://www.endrevengeporn.org/

※8  http://www.law.cornell.edu/uscode/text/47/230http://www.forbes.com/sites/ericgoldman/2013/10/08/californias-new-law-shows-its-not-easy-to-regulate-revenge-porn/
47 U.S.C.230 http://www.law.cornell.edu/uscode/text/47/230
訳については財団法人国際通信経済研究所『米国通信法対訳』(1997年9月)を参照。1996年連邦通信品位法は、ユーザー作成コンテンツを掲載するウェブサイトの運営者は、その内容に関して免責している。

※9 園田寿「『リベンジポルノ』と刑法」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/sonodahisashi/20140108-00031279/

  • リベンジポルノ
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  • 名誉毀損

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