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情報通信 ニュースの正鵠
2008年5月掲載

マイクロソフトが米ヤフーの買収を断念? それとも…

グローバル研究グループ 清水 憲人

 5月3日にマイクロソフトは米ヤフーとの買収交渉から撤退することを発表した。この判断は両社にとってどのような意味を持つのか。約3ヶ月もの間、世界中のメディアの注目を集めてきた買収提案を巡るかけひきはこれで終わるのか、それとも第2幕が控えているのか。現時点(5月5日時点)での情報を基に考えてみよう。

1.マイクロソフトは買収を諦めたのか?

 2月1日に総額446億ドル(1株31ドル)で買収提案を行ったマイクロソフトは、なかなか進展しない交渉に業を煮やし、4月5日に、3週間以内に買収提案を受け入れるようヤフー経営陣に通告した。回答期限である4月26日になってもヤフー側は買収提案を受け入れなかったため、マイクロソフトが敵対的買収を仕掛ける可能性も指摘されていた。しかしマイクロソフトはその選択肢を選ばず、買収交渉からの撤退を表明した。マイクロソフトは買収を諦めたのだろうか? 

マイクロソフト3つの選択肢

 上図に示したように、ヤフー買収を目指すマイクロソフトには、大きく分けて3つの選択肢があった。しかし1つめの「敵対的買収」というオプションについては、仕掛けた際の人材流出への懸念、「従業員の退職金制度の見直し」や「グーグルとの検索広告配信での連携模索」などによる買収メリットの低下によって、得策ではないという判断をしたようだ。

 そこでマイクロソフトは「友好的買収」を目指してヤフーと交渉した。交渉の最終段階において買収金額を引き上げ1株33ドルという条件を提示したが、ヤフー側はこれを「過小評価」であると拒否し1株37ドル以上を要求したようだ。1株37ドルという金額は、マイクロソフトにとって対応不可能な条件ではないかもしれないが、条件闘争に付き合うことで負担が増加することを懸念し、買収交渉からの撤退を表明した。

 過去3ヶ月間の買収交渉は結局不調に終わったが、その過程において明らかになったことが2つある。一つは、ヤフー経営陣の独立経営に対する執着。もう一つは対抗プラン提示の難しさである。ヤフーはタイムワーナーやニューズ・コープと交渉を行ったが、結局マイクロソフトの買収提案を上回るプランを引き出すことはできなかった。有力な対抗馬もいないのに、ヤフーの要求に応じて買収条件を引き上げるのは交渉術としては二流である。一旦交渉を打ち切って相手の出方を伺うのが定石であろう。

 すなわち「交渉からの撤退」は、買収の断念ではなく、「条件をこれ以上引き上げない」というマイクロソフトの意思表示とも考えることができる。

2.ヤフー経営陣の作戦勝ち?

 ジェリー・ヤンCEOを初めとするヤフーの経営陣側には、根強い「マイクロソフト・アレルギー」が存在すると報じられている。その評判通り、ヤフー・サイドは提案当初から、マイクロソフトによる買収回避を模索してきたように見える。

 具体的には、退職金制度を見直して「買収後2年以内に解雇された従業員に対して最大2年間分の報酬を追加的に支払う」こととし買収後の負担を増やす作戦に出た。また、功を奏したとはいい難いが、単独での成長可能性についてのアピールも行った。そして、タイムワーナー傘下のAOLとの統合や、ニューズ・コープ傘下のマイスペースとの統合など、他事業者との合併の可能性も模索した。さらに、オンライン広告市場における最大のライバルであるグーグルと検索広告配信で連携を模索していくことも発表した。

 ヤフーは、マイクロソフトに買収されないためなら、なりふり構わず何でもしてきた。そのため、5月3日のマイクロソフトによる買収交渉撤退発表は、一見、ヤフー経営陣の作戦勝ちのように見える。しかし、彼らにとってより難しいのはこれからだ。

 買収提案を受けて30ドル近くにまで値上がりしていたヤフー株価は、買収提案前の水準(20ドル)程度にまで値下がりする可能性がある。すでに一部の株主が買収提案を拒否した経営陣に対し株主訴訟を起こしているが、株価の低迷が長引けば、最終段階で「1株33ドル」まで上積みされたマイクロソフトの買収提案に応じなかった経営陣に対する風当たりが強くなることは必至だ。マイクロソフトの交渉撤退表明は、ヤフー経営陣をさらに厳しい状況に追い込むことになる可能性が高い。

3.今後の展開

 2月1日に発表されたマイクロソフトによるヤフー買収提案は、その後3ヶ月間、世界中のメディアの注目を集め、両社のさまざま動きが報じられてきた。今回のマイクロソフトによる買収交渉からの撤退表明は、この買収劇の第1章に幕を下ろすものといえる。しかしながら、オンライン広告ビジネスにおいて、何らかの手を打たなければならないという両社の経営課題は解決していない。

 今後、ヤフーはマイクロソフトの買収提案以降交渉を進めてきたグーグルなどとの連携について具体化を進めていくことになる。一方のマイクロソフトも、ヤフー以外のプレイヤーとの連携を含めて戦略を検討していく。その意味では今回のマイクロソフトによる買収交渉撤退は、さらに混沌とした業界再編第2章の幕開けということもできる。そして、さまざまな選択肢を検討した結果、最終的にマイクロソフトとヤフーの組み合わせが話し合われる可能性も否定はできない。

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