ホーム > 情報通信 ニュースの正鵠2012 >
情報通信 ニュースの正鵠
2012年4月27日掲載

“Girls Around Me”騒動を契機に考える、ソーシャル・メディア時代のプライバシー

[tweet]

3月終わりから4月初めにかけて、ロシアのi-Freeイノベーションズが開発した位置情報サービス“Girls Around Me”というiPhoneアプリが大きな注目を集めた。

これは、フォースクエアの位置情報とフェイスブックのプロフィール情報を組み合わせて、ユーザの周囲にいる“女性”の情報を端末上に表示させるアプリである(機能としては、“男性・女性の両方”、あるいは“男性だけ”を表示させることもできるが、ネーミングやパッケージ・デザインが示している通り、明らかに“男性向けナンパ・アプリ”として作られている)。

数ヶ月前から発売されていたアプリだが、3月末に、アップル製品に関するニュースサイト“Cult of Mac”に取り上げられたことで、多くのユーザの知るところとなった。

冒頭「注目を集めた」という表現を使ったが、反応の多くは「気持ち悪い」といった類のネガティブなもので、各種メディアでもさんざん批判された。

「フォースクエアの位置情報も、フェイスブックのプロフィールも、ユーザ自身が自発的に公開している情報なので、それらを活用してサービスを提供することが、一概に悪いことだとは言い切れない」という意見もあるが、仮にオープンな情報でも、組み合わせ次第でユーザに嫌悪感を催させる場合もある。

ちなみに話題に上ってから間もなく、フォースクエアは「このような使い方は当社のAPIポリシー違反である」として、位置情報データへのアクセスを遮断したため、Girls Around Meはすでに過去のアプリとなっている。

この騒動に代表されるようなオンライン・プライバシー問題に対処するため、米国政府は今年、プライバシー・ガイドライン策定に向けた取り組みを開始する予定である。検討に先立ち、ホワイトハウスは、今年の2月に公表したプライバシーに関するレポートの中で、「消費者プライバシー権利章典」という7項目の原則を提示した。これは、ガイドラインを制定する際のベンチマークとなるものである。

この権利章典を読むと、3つ目に「コンテクストの尊重」という項目があり、企業は、個人情報の取り扱いに際し「当該データを消費者が公開した際のコンテクストに合致した方法で取り扱わなければならない」と記されている(同レポート15ページ参照)。

つまり、公開された個人情報であっても、その個人が意図していなかったような用途で利用することは、プライバシーの侵害にあたる可能性があるということだ。

しかしながら、こうした原則やガイドラインが、将来にわたって消費者のプライバシーを保護し続けてくれるかどうかはわからない。

というのも、ネットの情報と個人をマッチングさせる技術は急速に進化しており、本人が望むかどうかとは無関係に、いずれすべての情報がひもづけられてしまう時代がくるかもしれないからだ。

米国の公正取引委員会(FTC)が3月に公表したプライバシーに関するレポートでは、「スーパーマーケットなどに設置されたカメラで撮影し、顔認証技術を用いて個人を特定し、その人のソーシャル・メディア上のプロフィールから趣味・嗜好を判断したうえで、最適な広告を表示するデジタル・サイネージ」が将来登場する可能性が指摘されている(同レポートの45ページ)。

つまり、カメラで顔を撮影してそれをネット上の顔写真データと照合すれば、カメラの前にいる人が誰なのかがわかるということだ。もちろん、「カメラの映像とネット上の顔写真データを照合する」というのは、口で言うほど簡単ではないが、ビッグデータの処理技術の進歩によって、そう遠くない将来において実用的なマッチング方法になる可能性がある。

ネット上で公開済みのデータが相互に関連づけられるのはもちろんだが、「それらの情報が、道行く人々の姿にオーバーレイして表示される」時代が来る可能性もあると考えておいた方が良いだろう。


▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。