ホーム > 情報通信 ニュースの正鵠2012 >
情報通信 ニュースの正鵠
2012年9月10日掲載

「日本は世界で20位」、ワールド・ワイド・ウェブ財団が公表したネット・ランキングの読み方

[tweet]

ワールド・ワイド・ウェブ財団(World Wide Web foundation;以下WWW財団)は先週水曜日、ネットの利活用状況をランキングした「ウェブ指数」を公表した。

図表1 WWW財団が公表したウェブ指数

図表1に示した通り、日本は全体で20位という評価であった。調査対象が61ヶ国なので、「平均よりは少し上」というポジションだ。

このニュースはネット上で大きな反響を呼んでいるが、その多くは「なぜ日本の順位はこんなに低いのだろう?」という戸惑いのようだ。そこで今回は、このランキングの見方を解説してみたい。

WWW財団のウェブ指数は、単なる普及率や、回線速度、料金などの比較ではなく、さまざまな指標を組み合わせて、インターネットの利活用状況や市民生活への影響度などを多角的に評価することを意図して作られた指標である。

算出された日本のウェブ指数を内訳別に見ると、図表2のようになる。 

図表2 日本のウェブ指数の内訳

以下、各項目の見方を説明しよう。

1. インフラ環境指数

大項目の一つ目は「インフラ環境指数」である。これは、当該国においてウェブを利用するために必要なインフラが整備されているかどうかを評価する指標で、「通信インフラ環境指数」と「エコシステム環境指数」に分けられる。

「通信インフラ環境指数」は物理的なインフラが整っているかどうかを判断するもので、「ブロードバンドの普及率」や「パソコン普及率」、「ネット接続サービスの料金」に加え、「電力供給の信頼性」など、合計13項目のデータを元に計算される。この項目について日本は「1ユーザあたりの帯域」や「ネット接続サービスの料金」などで高評価を得て、80点を超える成績を収めた。

一方「エコシステム環境指数」は、教育、法律など、ウェブ利用を推進する制度的な環境の整備状況を表すものである。「政府による検閲の有無」、「サイバー犯罪に対する法制度の整備状況」、「オープン・ガバメント政策への取り組み」など、合計24項目のデータを元に計算される。この項目について日本は「政治的権利」や「コンピュータ・科学技術分野における教育の男女差」などの項目では高評価となったものの、「女性のウェブ利用促進に関する政府の取り組み」についての複数の設問で低評価が続き、65点台にとどまった。

2. コンテンツ・利用指数

大項目の二つ目は「コンテンツ・利用指数」である。この指標は、有益なウェブ・コンテンツが提供されているかどうか、そして実際に利用されているかどうかを測ろうとするもので、「利用指数」と「コンテンツ指数」に分けられる。

「利用指数」はウェブの利用度を測るもので、「インターネット利用人口」に加え「社会的弱者のネット利用状況」も加味され、合計7項目で評価される。日本は「インターネット利用人口」についてはまずまでであったが、「視覚障害者のネット利用」や「聴覚障害者のネット利用」などについて低評価が並び、58.46点と点数が伸びなかった。

「コンテンツ指数」は、有益なコンテンツが提供されているかどうかを測るもので、「ウィキペディアにおけるローカル言語の記事数」、「ニュースの提供状況」、「教育カリキュラムのウェブ上での公開」など、各種情報がウェブで利用可能かどうかが合計24項目で測定される。日本は、「交通情報」、「求職情報」、「ウェブ納税」の項目などで高評価を得る一方、「政府データへのアクセスの容易性」、「政府データを活用したサービスの提供」などが低評価で、73.98点となった。

3. 影響指数

大項目の最後は「影響指数」である。これは各分野へのウェブの影響度を測定するもので「経済への影響指数」、「政治への影響指数」、「社会への影響指数」の3つに分けられる。

「経済への影響指数」は企業活動や経済に与える影響を測定するもので「GDPに占めるICTサービス輸出の比率」、「新サービス・製品開発におけるICTの影響度」、「eコマースに対する信頼度」など8項目で評価される。日本は「ウェブを利用したビジネスの創造」では高評価を得たが、「ウェブの農業分野での利用」についての評価が低かったことなどもあり69.15点にとどまった。

「政治への影響指数」は政治活動や政府に対する影響を測定するもので「政治的動員におけるウェブ利用」、「ウェブを利用した選挙活動」、「ウェブを利用した市民参加」、「ICT活用による政府の効率化」の4項目で評価される。日本は「ウェブを利用した市民参加」以外の3項目がすべて低評価で、42.62点という低スコアを記録した。

「社会への影響指数」は医療、教育、その他社会活動に対する影響を測定するもので「公衆衛生情報伝達におけるウェブ利用」、「ウェブを利用した教員研修」、「SNSの利用状況」など5項目で評価される。日本は「ウェブを利用した教員研修」が高評価で、影響指数のサブセグメントのなかでは最高点の74.99点を付けた。

4. 総合指数を含めた全体的な評価

上述した各項目の指数をベースに総合指数を計算するわけだが、その際、大胆な重み付けが行われている。各項目のウェイトを図表3に示したが、評価の6割は「影響指数」によって決定されているのだ。

図表3

従来のインターネット・ランキングで上位の常連であった日本や韓国が、10傑にも入らないのは、そもそも評価項目のなかで通信インフラのウェイトが極めて小さいからだ。また、「インフラ環境指数」や「コンテンツ・利用指数」を算出するための情報はたくさんあるが、「影響指数」を計算するための情報は数が少なく、一つ一つの項目の影響度にも大きな違いがある。

さらに、算定のベースになっているデータのかなりの部分が、アンケート調査に基づくものであることにも留意すべきだ。

ウェブ指数の算定に利用された85項目のうち、51項目はWWW財団が実施したアンケート調査に基づくものである(残りの34項目はITUや世界銀行などの既存のデータを活用)。

こうしたアンケート調査の結果を、横並びで比較するのはなかなか難しい。以下に、二つほど例を示そう。

まず一つ目。先ほど「利用指数」のなかで「聴覚障害者のネット利用状況」が考慮されていると説明したが、それは以下のアンケート調査結果を数値化したものだ。

質問 「聴覚に障害を有する人が、どの程度効果的かつ有効的にウェブにアクセスすることができますか?(10段階評価。ウェブにアクセス出来ない場合は1、完全にアクセスできる場合は10)」

この設問に対する日本の回答は「3」。最高点は「9」で米国とアイスランドの2ヶ国。インドネシア、バングラデッシュなどかなりの国が最低点の「1」を付けている。

「ネット動画の音声をテキスト表記に切り替えるサービスが主要ウェブページの何パーセントで提供されているか」というデータであれば客観性があるが、上述の質問項目では答える人の意識によって回答は左右され得るのではないだろうか?

次に事例の二つ目。「経済への影響指数」の評価項目のなかに、「犯罪行為」という項目がある。これは以下の設問に対する解答を数値化したものだ。

質問 「ウェブはあなたの国における犯罪行為をどの程度容易にしていると思いますか?(10段階評価。ウェブによって犯罪行為が大いに容易になったと思う場合は1。ウェブは犯罪行為を容易にしていないと思う場合は10)」

この設問に対する日本の回答は「8」。つまり、さほど容易になっていないという評価だ。ちなみに、最高点の「10」をつけたのがエチオピアとジンバブエ、最低点の「1」を付けたのはナミビア、ナイジェリア、シンガポール、ベトナムであった。

これらの国々の間で、ウェブ犯罪の状況にどの程度の差があるのかは知らないが、10点と1点に分かれるほどの違いがあるのだろうか?

このように、WWW財団が公表したウェブ指数は、回答者の主観によって結果が左右される可能性を持つアンケート調査にかなりの部分を依拠しており、こまかく見ていくと突っ込みたくなる要素はたくさんある。

とはいえ、インターネットが普及してきた現在「インフラの整備状況よりも、むしろどのくらい活用されているのかによって評価すべきだ」という考えは支持できる。疑問符をつけたくなる項目がある一方で、なるほどと感じる項目もある。数値の客観性の面で改善の余地は多々あると思うが、ウェブ利用について新たな評価軸を導入する野心的な試みとして注目しておきたい。


▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。