ホーム > 情報通信 ニュースの正鵠2013 >
情報通信 ニュースの正鵠
2013年10月7日掲載

意外と知られていない検索の話

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
清水 憲人

先週、INTERNET Watchに「20代女性の検索利用がGoogleに流れ始めた? Yahoo!を逆転したとの調査結果」という記事が掲載された。ステージグループが実施した検索サービスに関する調査によると、20代女性ユーザーにおいて、わずかだがGoogleの利用がYahoo!を上回ったというのだ。

この記事はINTERNET Watchの9月30日から10月6日の一週間のアクセス・ランキングで第5位に入った。また、本稿執筆時点で、フェイスブックの「いいね」が224件、ツイッターの「RT」が156件、はてなの「ブックマーク」が78件、グーグルの「+1」が76件と、この種のニュース(アンケート調査結果の報道記事)としては、ソーシャル・メディアの反応も大きい。

「20代女性」という特定の属性に限った話ではあるが、Yahoo!検索の利用をGoogleが上回ったというニュースはインパクトがあったようだ。

しかし、この記事には言及されていない重要な情報が一つある。それは、「Yahoo! JapanはGoogleの検索エンジンを採用している」という事実だ。

Yahoo! Japanは当初、アメリカのYahoo!(Yahoo Inc.)の検索エンジンを採用していた。しかし、Yahoo Inc.が検索エンジンの自社開発をやめたことを受けて、2010年以降は、Googleの検索エンジンを採用している(注1)

もちろん、同じ検索エンジンを採用しているとはいえ、細部のカスタマイズに違いがあるため、検索結果がまったく同じになるわけではないし、「検索サイト」として、YahooとGoogleのどちらがより多く利用されているのかという情報には価値がある。しかし、検索エンジンという視点でみれば、3年前から日本の検索市場はGoogleのほぼ独占になっているのだ。

この手の話、つまり、「業界内では周知の事実であるが、一般消費者にはあまり知られていない情報」というのは結構ある。

「検索のパーソナル化」は、おそらく、その代表例だろう。

2009年12月以降、Googleの検索結果はパーソナル化(personalize)されている(注2)。パーソナル化というのは、検索履歴などをもとに、検索結果を、そのユーザーが好むであろう順番に入れ替えて表示することである。

したがって、同じワードで検索しても、表示される結果は人によって異なってくる。たとえば、「韓国」という単語で検索をした場合、「韓流ドラマにはまっている人には、ドラマ関連の情報を上位に表示し、領土問題に関心の高い人には竹島の領有権に関する情報の優先順位を上げる」といった具合だ。

ユーザーが興味を持っているであろう情報をあらかじめ上位に表示してくれるというのは、親切な機能と言える。しかし、リスクもある。それは、使えば使うほど情報が偏っていく可能性があるということだ。

例えば、ある人が、原発問題について、「原発反対」「即時停止すべき」といった論調の記事やブログを中心に読んでいたとする。すると、そのユーザーが次の機会に「原発」というワードで検索をかけた時には、それら反原発の情報が掲載されているサイトの優先順位が上がる。そして、上位に表示された反原発のサイトをクリックすると、それらのサイトの優先順位がさらに上がる。それを繰り返していると、いつの間にか、「上位に表示されるのは反原発の情報ばかり」という事態に陥る可能性がある。もちろん「反原発」を「原発推進」と読み替えても事情は同じだ。

検索のパーソナル化にはメリットもあるので、それ自体が悪いわけではない。しかし、「多くのユーザーがそのことを認識していない」となると問題だ。

先週、ある大学で情報通信産業のトレンドについて講義を行った。その際、挙手によるアンケートを行ったところ、大半の学生が「誰が検索しても結果は同じだと思っていた」と答えた。聴講していた約300名の学生のなかで、「検索結果が人によって異なって表示されることを知っていた」と答えたのは、わずかに1人であった。

ネット・サービスのパーソナル化がもたらす危険性は、イーライ・パリサー氏の「閉じこもるインターネット」などで指摘されて以降、業界関係者の間では広く認識されている。しかし、一般消費者の間での認知度はけっして高くない。

当人は、ネットで幅広く情報を集めたつもりになっていても、実は「ネット企業が気を利かせて揃えたあなた好みの情報」ばかりを見せられている可能性もある。このことは、もっと広く知られるべきであると思う。

【参考】イーライ・パリサー氏が「閉じこもるインターネット」の中で指摘した問題のエッセンスは、2011年5月のTED講演で語られています。

(注1)ちなみに、アメリカのYahoo!は、検索エンジンの開発を中止して以降、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」を採用している。

(注2)厳密にいうと、「従来はGoogleアカウントにログインしている場合のみパーソナル化されていたものが、2009年12月以降、ログインしていない場合もパーソナル化されるようになった」。

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。