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情報通信 ニュースの正鵠
2014年5月1日掲載

実はちっとも悟っていない「さとり世代」の学生に大人たちが伝えるべき情報リテラシー

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
清水 憲人

文教大学で「さとり世代」と呼ばれる学生たちに「情報社会論」を教えている。

「さとり世代」というと「何事にも執着しない悟り切った若者」をイメージするかもしれないが、そうではない。彼らはモノに執着しないだけだ。

より正確に言えば、「有名ブランド品」や「高級外車」など、「記号論的消費」の対象に興味がなく、もっと言えば、そういう消費行動を「みっともない」ことだと考えている(注)。

一方で、さとり世代の学生たちが他の世代よりも、より強く執着するものがある。それは「友人関係」だ。

一般的に彼らは、仲間から孤立することをとても嫌う。そのため「友人が、自分以外のメンバーで遊びに行っていた」ことをTwitterで見つけて傷ついたり、「LINEでメッセージを送ったのに返事がなかなか来ない」ことで不安になったりする。

「友人関係」に限って言えば、「悟っている」どころか、「繊細すぎる」学生の方が多い。

そんな学生たちが、日々の生活のなかで多くの時間を費やしているのが、スマートフォンでの友人とのやりとりだ。

ツールと割り切って有効に活用している学生もいるが、依存症気味の学生もいる。「LINEのメッセージが次から次へと来るので夜なかなか眠れない」とか「暇さえあればTwitterを見てしまう」という意見が昨年くらいから目立ち始めた。

メディアでも最近、若者たちのスマートフォン依存の状況を示唆する調査結果が報じられる機会が増えてきたように感じる。

少し古い話になるが、一年ほど前に参加した情報通信学会のとある研究会で、「情報リテラシーの授業を、高校や大学の必修科目にしたらどうか」という意見が出たことがある。しかし議論はあまり盛り上がらなかった。実際に学生に教えている現役の教員の参加者が「それは無理だ」と反論したからだ。「LINEなどの新しいツールについては学生の方がはるかに詳しいので、とても教員が教えられるものではない」というわけだ。

私もその時にはその意見になんとなく納得したのだが、最近考えが変わってきた。

ツールの使い方に精通していることと、それを上手に使いこなしていることは違う。必ずしも新しいアプリやサービスについて詳しくなくても、大人たちが伝えるべきメッセージはあるのではないか。

学生たちにケータイ/スマートフォンの利用についてのアンケートを取ると、友人とのコミュニケーションばかりに偏った使い方が目立つ。1日に何時間もスマートフォンに向き合っている割には、電子書籍を読んでいる学生はあまりいない、ネット動画を有効活用している学生も多くはない。

「青空文庫で著作権の切れた昔の名作の多くが無料で読める」とか、「TEDというイベントの講演模様がネット上で無料公開されている」という話は、情報として聞いたことはあっても、実際に試してみたことのある学生は少数派だ。

現在の大学生は「最初に買ってもらったケータイがiPhone」という世代なので、スマートフォンの便利さに無自覚だ。一方、ケータイのない時代に育った私には、その便利さがよくわかる。いろんなことができる最新のスマートフォンを所有しながら、LINEやTwitterでのやり取りに明け暮れることは、私の目にはとてももったいないものに映る。

スマートフォンの恩恵を実感できる大人たちは、その有効性をもっと学生たちに伝えていくべきだと思う。

(注)さとり世代の考え方や行動様式は原田曜平さんの「さとり世代」(角川書店;2013年)に詳しい。原田さん自身がまえがきで言及しているように、同書に登場する学生たちは日本全体の「さとり世代」の代表者とはいえないが、非常勤講師として週に一度学生と顔を合わせている私にとっては、「そうそう、こういう学生いるよなあ」と共感できるエピソードが満載だった。

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