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情報通信 ニュースの正鵠
2014年12月25日掲載

2014年情報通信業界の十大ニュース

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
清水 憲人

2014年も残りあとわずか。いつものように、個人的に印象に残った情報通信業界の出来事を振り返りつつ、年末を締めくくりたい。

第10位 インド市場への注目

5月にインドの首相に就任したナレンドラ・モディ氏は外資の誘致を通じて経済成長を推進する政策を進めている。フォルクスワーゲン、シスコ、アマゾン、ポスコなど、世界の名だたる企業が投資を加速させており、インドへの直接投資額は政権発足後半年間で2割以上増加したと報じられている。調査会社eMarketerのデータによれば、インドのインターネット人口は2014年現在2億1,560万人で中国、米国に次ぐ世界第3位だが、2016年には米国を抜き、2017年には3億人を超える見通し。アリババの上場で膨大な含み益を得たソフトバンクは、インドのeコマース企業やタクシー配車プラットフォーム企業などに出資しており、今後数年間で1兆円規模の投資を行う予定。

第9位 普通の人はアクセスできない“ダーク・ウェブ”の存在

インターネットには、普通に利用している限りはアクセスできない裏の世界もある。そこは“ダーク・ウェブ”と呼ばれている。ダーク・ウェブでは、通信を匿名化する技術を用い、違法薬物、盗難クレジットカード番号、武器、マルウェアなどが取引されている。4月にはそうしたダーク・ウェブの世界を検索できる“Grams”というサービスが登場するなど、使い勝手も向上してきている。当然のことながら各国の治安当局は、ダーク・ウェブを利用した犯罪の摘発に動いている。11月には欧州(ユーロポール)と米国(FBI)が連携して、400を超えるダーク・マーケット・サイトを一斉摘発するという出来事もあった。

第8位 携帯端末市場における勢力図に変化

2014年の世界のスマートフォン市場では、中国のシャオミー(小米)が躍進した。調査会社ガートナーのデータによれば、2013年第3四半期に1.5%だった同社のシェアは2014年第3四半期に5.2%に拡大している。これはサムスン、アップル、華為に次ぐ第4位である。シェアトップは引き続きサムスンだが、最近は、シャオミーを初めとする新興ベンダーに押され気味であり、業績悪化のニュースが目立ち始めた。一方、4月にノキアの買収を完了したマイクロソフトは、11月に発売したスマートフォン“Lumia”の最新作を“Nokia Lumia”ではなく、“Microsoft Lumia”というブランドで発売した。かつて携帯電話業界のトップベンダーであったノキア・ブランドはスマートフォンの分野から消えていくことになる。

第7位 インターネット・ガバナンスを巡る議論

10月下旬から11月上旬にかけて韓国釜山でITU全権委員会議が開かれた。インターネット関連の国際会議では、近年、インターネット・ガバナンスに国やITUが積極的に関与すべきだと考える勢力と、従来通りの仕組みを維持したいと考える勢力の対立が鮮明化してきていた(例:2012年12月のWCIT-12)。今回の全権委員会議は、4年に一度だけ開催されるもので、ITU憲章及び条約を改正することができることから、その行方が注目されていた。結果的には、大きな議論を呼ぶような提案は採択されず、欧米主要国や日本の関係者は安堵した。しかし2015年1月にITUの事務総局長に就任する中国の趙厚麟(Houlin Zhao)氏は、インターネット政策への積極関与を支持していると指摘されており、今後の動向が注目される。

第6位 ゲーム実況が流行

YouTubeに動画を投稿して広告で稼ぐ“YouTuber”の存在が日本でもメジャーになりつつあるが、世界では数億円稼ぐ猛者も現れている。今年注目を集めたのはPewDiePieの名前でゲーム実況を投稿するスウェーデン人のフェリックス・シェルベリさん。ウォールストリートジャーナル等が報じたところによれば、2013年の年収は4億円に上るという。またTwitchのようにゲーム実況に特化した動画サイトも人気を集めつつある。Sandvine社が公表したレポートによれば、Twitchへのアクセスは2014年上半期の北米固定インターネット・トラヒックの1.35%に達しており、トップ10入りも近いと見られている(現在の10位はHuluで1.58%)。

第5位 ネット関連企業の大型買収

フェイスブックは2月にWhatsapp(メッセージング・サービス)、4月にOculus VR(ヘッドマウント・ディスプレイ)を買収すると発表した。買収金額は190億ドルと21億ドルで、2012年に買収したInstagramの10億ドルを抜いて、フェイスブックのM&A史上1位と2位の規模である。またアップルが5月に発表したBeats Electronics(30億ドル)、アマゾンが8月に発表したTwitch(9.7億ドル)も、それぞれアップルとアマゾンにとって、史上最高額の買収案件となった。グーグルもNest Labsを含む数多くのM&Aを実施した。

第4位 IOT社会におけるセキュリティへの懸念

8月に米国ラスベガスで開催されたセキュリティカンファレンス“Black Hat USA 2014”において、セキュリティの専門家が「最もハッキングされやすいクルマ(most hackable Cars)」のリストを発表し注目を集めた。近年自動車の情報化の進展が急速に進んでいるが、それに伴い、車載通信システム経由で外部からクルマの制御系システムに侵入される懸念を指摘する声も目立ち始めた。自動車をはじめ、今後、さまざまなモノに通信機能が搭載され、いわゆる「モノのインターネット(IOT)」化が進むと考えられているが、人命に関わる製品の情報化では、より一層セキュリティへの配慮が求められる。

第3位 世界市場を席巻する米国企業への風当たりが強まる

検索サービスではグーグル、eコマースと電子書籍ではアマゾン、SNSではフェイスブック、スマートフォンではアップル。世界の情報通信市場では多くの分野で米国企業が圧倒的な強さを見せている。そうした状況に対する批判は数年前からあったが、2014年は風当たりが一層強まった。フランスでは6月、オンライン書店が書籍を無料で配送することを禁止する法律「反アマゾン法」が可決された。11月には欧州議会が、インターネット企業の検索エンジン事業を他のサービスから分離させることを検討するよう欧州委員会に求める決議案を採択し「欧州議会がグーグルに事業分割を求めた」と報じられた。またカナダでは競争当局が、アップルと携帯電話事業者が交わした契約のせいでカナダの携帯電話価格とサービスの料金が高止まりした可能性について調査を行っている。

第2位 インターネットのマネタイズ方法を変えるいくつかの試み

米国の大手通信事業者AT&Tは1月に“Sponsored data”という新たなサービスを発表した。モバイル端末からウェブサイトに接続する際の通信料金をウェブサイト側が負担するもので、いわば「インターネット版のフリーダイヤル」。ISPの収益モデルを変える可能性を持つ仕組みである。一方、グーグルは11月に“Contributor”とよばれる実験的な枠組みを発表した。インターネット・ユーザが、自分の支援したいサイトに寄付金(月額1〜3ドル)を支払うと、広告が表示されなくなるというものである。こちらは、ウェブサイトの収益モデルを変える可能性のある動きとして注目される。現状では、多くのウェブサイトがその収益を広告に依存しているが、それを変えるきっかけになるだろうか。

第1位 ネットワーク仮想化(NFV/SDN導入)に向けたキャリアの取り組み

NTTコミュニケーションズは1月にバーテラ・テクノロジー・サービシーズを買収し、同社が保有するネットワークの仮想化技術を活用したサービスを5月に提供開始した。また2月末にバルセロナで開催されたモバイル・ワールド・コングレスではスペインのTelefonicaがネットワークの仮想化計画“UNICA”を発表するなど、各社の取り組みが注目を集めた。昨年“Domain 2.0”プラグラムを発表しネットワーク仮想化に向けた強い意欲を明らかにしたAT&T、クロアチアの子会社で実験的ネットワークの導入を進めるドイツ・テレコム、アルカテル・ルーセントと一緒にネットワークの仮想化に取り組む中国移動など、2014年はグローバル・キャリアのネットワーク仮想化に向けた取り組みが目立つ一年となった。ネットワークの仮想化は通信事業者に対し、サービス提供の迅速化/柔軟化とともに、コスト削減効果をもたらすものと考えられている。一方で、ほとんどのネットワーク機能がソフトウェアで実現されるため、ネットワーク機器ベンダーのビジネス・モデルも変貌を迫られることになる。

◇◆◇

世界のインターネット人口は現在約29億人。世界人口を72億人とすると普及率は40%に達している。先進国ではほとんど行き渡っているため、今後の拡大は新興国が中心となる。10位に挙げた「インド市場への注目」や、8位の「携帯端末市場における勢力図の変化」は、そうした市場構造の変化を反映したものと言える。

インターネットの使い方も多様化してきている。ゲームをしている様子を動画共有サイトで放送することで数億円もの収入を得ることができるなど、10年前には想像もつかなかった。ダーク・ウェブ用の検索サービスというのも、一般人の想像力を超えている。

5位にはフェイスブック、アップル、アマゾンがそれぞれ史上最高額の買収を行ったことを挙げた。今年のM&Aは、金額が大きかっただけでなく、従来の買収案件とは毛色が異なっており、各社の戦略が少し変わり始めていることを示唆しているように思える。引き続き業績を拡大する米国のネット関連企業だが、3位で紹介したように、欧州などで風当たりが強まっている。「一人勝ち」になりやすいインターネットの分野において、成功企業はこうした軋轢との付き合い方を学んでいく必要があるのかもしれない。

1位と2位には、いずれも今後、業界のビジネス・モデルを変える可能性がある動きをランクインさせた。

インターネットの一般ユーザへの普及が始まったのは1990年代半ば。とくにWindows95が発売された1995年が一つのターニングポイントと見られている。そういう意味で2014年は、「インターネット普及開始20周年」にあたる年だったということもできる。今年の十大ニュースは20周年に相応しく、業界の構造変化を示す出来事が並ぶことになった。

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