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![]() 世界の通信企業の戦略提携図(1999年11月9日現在) |
10.グローバル競争時代のキャリアー評価ITUテレコム99の開会日(99.10.10)に、英国の出版社Emapの「世界コミュニケーション賞(WorldCommunicationAwards)」授与式が行われた。同社がコンサルタント会社RenaissanceWorldwideに委託したユーザアンケート『優勝キャリアー(Winning Carriers)調査』に基づき、ベスト・キャリアーにグローバル・ワン(Global One)、ベスト・ニュー・キャリアーにイクアント(Equant)、ベスト無線キャリアーにフランステレコム(FT)が選ばれた。WCA情報を伝えるコミュニケーションズ・ウィーク・インターナショナル誌No.233(99.10.25)の報道は、前回調査(メガコンペティションは今第10 回参照)と違って、標本数や評価結果の詳細が省略されているが、総合評価項目は9項目と前回の6項目より多い。各項目の優先順位はサービス品質(平均順位2.78)・信頼性(2.84)・料金(3.85)・客扱い(4.66)・地理的展開(4.97)・サービス範囲(5.40)・柔軟性(5.81)・技術力(6.43)・革新性(6.85)で、各キャリアーの評価点の項目別平均点はサービス品質(4.07)・信頼性(3.80)・料金 (3.26)・客扱い(2.96)・地理的展開(2.94)・サービス範囲(2.57)・柔軟性(1.99)・技術力(1.93)・革新性(1.62)であった。調査対象キャリアーの項目別平均点からの偏差を示す「キャリアーランキング表」がWCAの根拠である。表によれば革新性、技術力、柔軟性など将来向き項目の評価が低く、サービス品質、信頼性、料金など伝統的評価項目が重視されている。革新性とは次世代通信網のことで、中心はIPネットワーキングと承知するユーザが、キャリアーの評価軸を現在のサービスの核となる項目においていることが分かる。グローバル競争時代においても、ユーザは現行サービス体制中心にキャリアーを評価している。 企業の通信ニーズと顧客サービス要求の詳細質問については、通信ニーズ変化の駆動要因として、「グローバル化」は8項目のなかばで、上位は「新技術/新サービス」や「電子商取引導入」、ラストは「ユーザ企業や取引先の組織改革」が挙げられている。顧客サービスに求めるもの7項目のトップは 「問題発生時の素早い対応」、2番目は「第一着手を正しく」で、「新ソリューションの提案」は最後、「問題発生の頻度」ラスト前であり、ユーザはソフト販売攻勢に飽いて力量あるパートナーを求めているのである。 コルト・グループ(Colt Telecom Group)やMCI WorldComのISP子会社UUNetをさしおいて、ベスト・ニュー・キャリアーにイクアントが選ばれたのは、先述(マンスリーフォーカスNo.1)の通りSITA再編成への評価としてうなずけるが、グローバル・ワンのベスト・キャリアーはMCI ワールドコムのスプリント買収発表後の今では違和感を持つ向きもあろう。3社合弁からスプリントが抜けた後、FTは!00%子会社にしても良いと言うがDTの出方もあり、資本の調整は困難である。しかし、事業運営の視点から見たグローバル・ワンは、現在40カ国80都市に展開し1,400アクセスポイントを通じて3万ユーザにサービスを提供しつつ、2002年赤字解消に向け努力中のキャリアーであり、50億ドルとも100 億ドルとも言われる資産と従業員の資質は大いに評価されて良いと思われる。 なお、今回のWCAでは、ベスト卸売キャリアー賞がグローバル・テレシステム(Global TeleSystems)に、技術先見賞がアビネット・コミュニケーションズArbinet Communications(Arbinet Communications)に、企業家賞がワールドオンラインのニナ・ブリンク(Nina Brink)に、ベスト電子商取引賞がスタンプス・ドット・コムに、革新的サービス賞がテレ・デンマークの「デュエット(Duet)(固定/移動網統合通話サービス)」に、ブランド浸透ベストキャンペーン賞がSonera(テレコム・フィンランドの民営化会社)に、それぞれ授与された。 |
11.ヨーロッパを目指す米国キャリアー米国キャリアーはヨーロッパの通信資産をしっかりと狙っている。米国における通信再編成が最終段階に向かっているのを見届けながら、欧州通信再編成を睨むと言う構図である。実際、グローバル・クロッシング(Global Crossing)は99年10月11日に英国の国際光同期伝送網(Synchronous Digital Hierarchy)事業者レイカル・テレコム(Racal Telecom plc.)を16.5億ドルで買収する合意に達したと発表した。グローバル・クロッシングのR.アヌンチアタCEOは、フロンティアーの買収交渉、しかもUSウェストのクエスト買収とからむ複雑な調整をしながら、英国の第3キャリアーであるエナジス(Energis plc.)と争いレイカル・テレコムを獲得するのは骨が折れたと言う。レイカル・テレコムは97年創立で、国鉄線路沿いに光ファイバケーブルを敷設して英国初のDWDM(高密度光波長分割多重)伝送路を構築した中堅キャリアーである。近くMPLS(Multi Pro-tocol Label Switching:最先端のレイア3スイッチング方式)を導入するなど、IPネットワーク投資に積極的で、それが買収意欲をそそったと思われる。
一方、AT&T撤退後のAT&Tユニソースサービス(AUCS)は、欧州フレーム・リレー・サービス/インターネット・ビジネス・サービス市場のリーダーとして、インフォネットの傘下に入ることになっていたが、99年4月覚書に 関し欧州側株主の意見が一致しなかったため、AUCS Communications Serー
vicesとしてインフォネットの管理下で3年間現行サービスを継続することになった。ヨーロッパ側の条件が整わないと米国側も買収できない例である。
ベスト卸売キャリアー賞を授与されたグローバル・テレシステム(GTS)のH.B.トンプソンCEOは、MCIワールドコムなどがヨーロッパの卸売事業について未だ持ち出しになっている時GTSは既に次のIPサービス開発段階に進み、10万社確保した客先の構内にウェブ・ホストと高速ネットワーキング設備を設置中であることを誇り、「皆我が社を見習うべきだ。偶然の発見をする才能がなければM&Aはできない。金融機関にリードされた投資が多すぎる」と授賞式で語った。 年率20〜30%で成長するヨーロッパの卸売通信市場には、ヴァイアテル(Viatel)のような小規模米国長距離通信事業者も参入して汎欧キルケ網建設を始め、98年9月にはそれを拡大するキャリアー1(スイス)およびメトロメデイア・ファイバー・ネットワーク(MFN)(米国)との合弁事業を興し、99年8月には米国の長距離通信事業者デスティア(Destia Communications,Inc.)を買収すると言う大西洋を越えた積極的展開の例もある。 欧州キャリアーの大きな動きは、ドイツテレコムがテレコム・イタリア買収でオリベッティに敗れた後、移動通信分野に移っている。ドイツテレコムが英国第4位のOne 2 Oneを買収すると(8月6日発表)、マンネスマンが英国第3位のOrangeを買収する(10月21日発表)とドイツ勢が活発な一方、フランステレコムは英国ボーダフォンのEプルス持株(17.2%)を入手して(10月4日発表)ドイツ第3位のEプルスに対する足掛かりを得た。マンネスマンのOrange買収についてボーダフォンが敵対的買収を仕掛け、成功したらフランステレコムに転売するとの噂が流れるほど、欧州移動通信は熱気をはらんでお り、再編成はまだまだ続きそうである。 |
(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文) (入稿:1999.11) |
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