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スマートフォンが姿を現しはじめる
〜シンビアンが次世代携帯電話プラットフォームの最新版を発表〜

 英シンビアン(Symbian)が2000年11月6日、次世代携帯電話用ソフトウエア・プラットフォーム「Symbian 6.0」を発表した。 ペン入力やキーボード入力にも対応するなど、電話の枠をこえた高機能端末であるスマートフォンがより現実的な形で姿を現した。以下で、最近のスマートフォン開発の動向および携帯端末市場動向についてまとめる。

 1998年に設立されたシンビアンは,携帯電話メーカー大手4社(フィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソン、米モトローラ、松下通信工業)と、携帯情報端末メーカーの英サイオン(PSION)の合弁会社。シンビアンは,サイオンのソフトウェア開発子会社であるサイオンソフトウェアを母体としており、サイオンのOSであるEPOC OSをスマートフォン用のOSのデファクト・スタンダードとなることを目的としている。また、ノキアやエリクソン、モトローラとしてはそれにあわせてWAPもデファクト・スタンダード化させたい意向が見え隠れする。

 同社が披露したSymbian 6.0は、ペン入力やキーボード入力に対応するなど一段と高機能化していた。音声通話、データ通信、ブルートゥース、WAPなどこれまでも様々な機能を盛り込んでいるが、特に今回はSSLなどの搭載でセキュリティ機能が強化されており、さらにJavaも搭載されることとなった。また世界中での普及を目指すため複数言語表示機能も備えているという。シンビアンはこれら機能を備えたプラットフォームを用いて具体化される2つの参照デザインも発表している。

 ・クリスタル(Crystal):カラー画面とキーボードを搭載した携帯電話用。
 ・クオーツ(Quartz) :PDAと電話機が融合した端末用。

Symbian 6.0搭載機は、いよいよ2001年前半に市場に登場する予定である。

 シンビアンのプラットフォームの中核、EPOC OSは当初からモバイル・デバイスを意識したGUIベースのOSである。ワープロや表計算などのアプリケーションを実行でき、またウェブブラウジング、電子メールなどインターネット接続も可能であるが、こうした携帯情報機器向けのOSはシンビアンだけではない。マイクロソフトのWindows CEやパームのPalmPilotなどの米国勢をはじめiモード搭載のTRON OSなど競合がひしめきあっている。最近では米国などではPDC市場が急速に進展しており、この活況ぶりから携帯情報機器向けOS市場は現状これら競合他社のOSのほうが圧倒的シェアをほこる。しかし、この状況が一変する可能性が出てきている。単なるデータ通信機能を備えたPDAの時代を経て、iモードに代表されるインターネット携帯電話と高度に融合した次世代PDA・スマートフォンという大きな市場が見え始めたからだ。

図表1

1.PDA→ワイヤレス機能付加のアプローチ:次世代PDA
 PDA業界としては近年のインターネット接続ニーズの高まりから何とかしてインターネット・アクセス機能を手に入れたかった。そしてここに来て移動通信がいよいよブロードバンドの領域に近づきつつあるため、ワイヤレスによるインターネット接続を取り込むことが重要な戦略の1つとなりつつある。実際パームやハンドスプリングなどが開発中の製品はいずれもワイヤレス機能搭載となっている。ハンドスプリングの「VisorPhone」(2000年9月発表)はGSM対応の携帯電話モジュールである。またこのモジュールのスピーカー部分から音声を聞き、Visorの内蔵マイクに話しかけて利用する。またパームも、「Palm・」より無線対応機能が標準搭載されることとなった。さらにBluetoothへも対応し、PalmからBluetooth対応携帯電話に無線で接続し、電話をかけることなどを可能にするという。さらにインターネットに無線アクセスが可能なPalm・向けのポータルサイト「MyPalm」サービスを12月25日から開始する予定であり、今後のロードマップの大きな柱としてワイヤレスを掲げ始めている。 2.移動通信端末⇒PDA機能付加のアプローチ:スマートフォン
 移動通信はいよいよ次世代IMT−2000に突入していく。高速・高品質の移動通信網の登場により、ありとあらゆるコンテンツやサービスを受ける事が可能となる。よって現行の携帯電話端末のような簡素な機能だけではネットワークの良さを活かしきれない。そこでより進化した携帯電話端末の登場が待ち望まれている。この未来の携帯電話の1つがスマートフォンと呼ばれる携帯電話である。スマートフォンはWebブラウザ搭載のPDAと携帯電話を掛け合わせた以上の機能を持つ。基本的にはカラー・ディスプレイ搭載で、かつ携帯電話であるがゆえにあらゆる機能を片手で操作可能な小型端末となる。

 いずれのアプローチにせよ、無線機能を有する小型携帯情報端末を志向しており、そういった意味で両陣営とも互いの領域といかにうまく溶け込みあっていけるかが勝敗のポイントとなるであろう。つまり陣営を越えたアライアンスをスムーズに行っていく戦略も重要となってきたのである。この戦略で先行しているのは移動通信からのアプローチを図るシンビアン陣営である。シンビアンはそもそも多種多様な技術的バックグラウンドを持つ企業が集まった合弁企業である。無線インターネット・アクセスにおいてはノキアなどWAPの主要陣営を抱えており、また今後のモバイル端末のキー・テクノロジーともいえるブルートゥースにおいてもその技術開発の中核を担うエリクソンがシンビアンの主要株主となっている。さらに今後の小型デバイスの重要なプラットフォームとなるJavaの搭載も発表した。これら業界標準技術を積極的に取り入れながらデファクト・スタンダードとなるべくオープンなOSとしてのポジションを極めて順調に確立してきた。

図表2

 またデファクトを狙うためには強力な販売戦略による自規格の浸透も重要となる。この点においてもシンビアンは優位に立つ。シンビアンに出資する電話端末メーカー4社はいづれも世界の携帯電話端末メーカーのトップ・クラスの企業であり、その多くが2000年中にEPOC搭載の携帯端末を市場に投入する予定となっている。実際、既に欧州では展開が始まっているエリクソンのスマートフォン「R380」が2000年12月には米国でも発売される。ノキアもスマートフォン「9210 Communicator」を2001年上半期にいよいよ投入する。その他既に10数社にライセンスされている模様で、EPOCの搭載機台数が躍進することはほぼ間違いなさそうだ。一方マイクロソフト陣営もスマートフォン「Stinger」のプロトタイプをようやく完成(2000年8月)させたものの、製品化は2001年中旬になる見込みである。これらの要因から、スマートフォン市場は今後急速に進展していくのはもちろんのこと、EPOCがいよいよその地位を大いに高める可能性が高い。

 しかし、スマートフォン陣営にも悩みはある。それはIMT−2000商用化が世界各地で大幅に遅れる可能性が出てきたためである。特に携帯情報端末市場の雄である米国の遅れは深刻で、スマートフォンの普及が阻まれる可能性が大きい。

 さらに、携帯端末OS開発メーカー共通の悩みも存在する。パームにしろEPOCにしろそもそもPDAを想定したOSである。これらOSが今後移動通信の機能を追加し発展していくためには、移動通信の世界では重要な要件である電話や映像処理などのリアルタイム処理を実現していかなければならない。これまでのPDAの利用用途ではあまり存在しなかったリアルタイム処理を、簡素なソフトウェアでいかに実現していくかが各社共通の検討課題となっている。

 このような状況から、これまで競合状態にあると思われていたOS市場自体に変化の兆しが生まれてきた。例えば、競合関係にあるパームとシンビアンが1999年10月、無線テレフォニー分野において提携している。また同月にはシンビアン陣営であるノキアが競合パームとワイヤレス・インターネット機能の取り込みのため提携した。さらに1999年12月にはシンビアン陣営であるエリクソンがインターネット・アクセス実現のために競合関係にあるマイクロソフトと合弁事業を設立している。そして2000年9月にはシンビアン陣営モトローラがスマートフォンの共同開発で競合パームと提携した。これらの動向の背景には、互いに良い部分を吸収し、互換性をもたせながら携帯端末という市場全体を大きくしていきたいという思惑が働いているようである。

 2003年には携帯電話市場全体の10%をスマートフォンが占めるという予想もあり、この急拡大するスマートフォン市場においてシンビアン、マイクロソフト、そしてパームは激しい競争を繰り広げる事になりそうだ。

 

図表3

竹上 慶(入稿:2001.1)


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