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「移動通信に利用される様々な番号およびその不足の現状」

 近年の電気通信市場の急速な拡大に伴い、米国においては電話番号の不足が深刻化しており、北米における電話番号の管理を行なっているニュースター(NeuStar Inc.)の見積りによると、現在想定されている番号需要予測の下では、米国の電話番号は2012年に枯渇するとされている。番号の枯渇を先延ばしするため、FCCおよび各州規制機関が主体となり、各事業者への番号付与を10,000番号単位から1,000番号単位に変更したり、事業者に付与されたものの利用されていない電話番号を共用のプールに返還し、他の事業者が利用可能とする方策(番号プーリング)が導入され始めている。(米国における電話番号不足の現状およびその対策については本誌1月号に詳述)

 移動通信サービスで利用されている番号としてユーザーが認識しているのは、いわゆる「電話番号」のみであるが、それ以外にもそれぞれ別の目的のために複数の番号が加入者、端末およびSIMカードに対して付与されており、中には電話番号同様、その枯渇が懸念されているものもある。代表的なものを以下に示す。

  • MDN(mobile directory number):携帯電話に対して付与される電話番号。MSISDN(Mobile Station ISDN number definition)とも言われている。
  • ESN(electronic serial number):AMPS、TDMAおよびCDMA携帯電話を識別する番号。GSM携帯電話を識別する番号としては、IMEI(international mobile equipment identifier)が用いられている。
  • MIN(mobile identification number):AMPS、TDMAおよびCDMAの加入を識別する番号。GSM加入(SIMカード)を識別する番号としては、IMSI(international mobile subscriber identity)が用いられている。将来的にはTDMAおよびCDMA加入も同様にIMSIにより識別されることとなる。

 ESNは不正利用を防止する目的で各端末に付与されている32ビットの2進数であり、そのうち8ビットが製造事業者コード・プレフィックス(manufacturer-code prefix)、残りの24ビットがシリアル・ナンバーとなっている。すなわち、28=256通りの製造事業者コードそれぞれに対して224 ≒1,700万個のシリアルナンバーが確保されていることになる。しかし、256個の製造事業者コードのうち半数以上はすでに利用されており、残りの製造事業者コードもこのまま何も手を打たなければ今後の5〜10年で利用し尽くされると見られている。また、各製造事業者に対して1,700万個のシリアル・ナンバーを与えると、大規模な製造事業者は良いとして、小規模な製造事業者は数百万個のコードを無駄にしてしまうこととなる。よって、ESNの割り当てが必要とされる端末の数はキャパシティの約43億を遥かに下回るにもかかわらず、このリソースには枯渇の危機が忍び寄りつつある。

 このESNの枯渇を回避するための方法として検討されているものの1つが、製造事業者コードの桁数を拡大し、現在各製造事業者に割り当てている約1,700万よりも細かい単位でESNを割り当てるというものである。仮に、製造事業者コードを8ビットから14ビットに拡大すると、製造事業者コードの数は64倍に拡大され、同リソースの寿命が飛躍的に延長されることとなる。その他のソリューションとして検討されているものには、10年以上前に割り当てたESNの再利用や、自由なサイズのブロックによりシリアル・ナンバーを付与することを可能とするために、製造事業者コードを廃止するものなどがある。

 MINは北米の加入者を識別するための10桁の番号であり、物理的には100億の番号が利用可能となっている。しかし、北米においてはこれまでMINとMDNに同一の番号を用いており、北米の電話番号に合致する、0および1以外の数字で始まる80億個のMINを海外のキャリアが利用不可能としてきた。よって、海外のキャリアは米国にローミングする際に用いる国際ローミングMIN(IRM:international roaming MIN)として、残りの約20億の番号をシェアすることを強いられており、すでにその半分が消費されてしまっている。よって、MINにも枯渇の危機が訪れようとしていた。

 タイミング良くこの窮状を救うことになりそうなのが番号ポータビリティの導入である。すなわち、MDNが事業者を跨り移動することになると、これまでのようにMINとMDNに同一の番号を利用することが不可能となる。よって、MINとMDNとが完全に分離されることにより、数十億個のMINが新たに利用可能となる。MINの後継として用いられることになるのが、既にGSM等で利用されているIMSIである。IMSIには15桁の桁数があるため、各事業者に対して10億個のグローバルでユニークな番号を付与することが可能である。

 北米の番号計画(北米におけるMDNの構成、桁数等)は約60年前の1940年代に定められたものであり、MINおよびESNは、移動通信の揺籃期である1980年代に開発されたものである。その当時は、わずか20年後の携帯電話市場の爆発的な拡大を想定することができなかったのであろう。IMSIは最も新しい識別コードであり、当面枯渇の心配はないものと思われているが、果たしてさらに60年が経過したときにはどのような時代が訪れているのだろうか?興味深く見守りたい。

木鋪 久靖(入稿:2001.8)


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