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「中国の携帯電話産業の動向」

 2001年6月末の最新統計によると、中国の携帯電話加入者数は、1億1,700万を数え、世界最大の携帯電話保有国となった模様である。本稿ではこれを機会に中国における携帯電話産業の動向について、種々の側面から紹介する。

■WTO加盟問題と規制緩和
中国はWTOへの加盟に向けて1999年4月、米中間首脳会談で中国の電気通信サービスについて、外資参入を含む段階的な市場開放について合意した。携帯電話については、地理的制限を5年以内に撤廃、外資参入を4年以内に上限49%まで認めるというものであった。これに先駆けて、中国はモトローラ及びルーセントとの間でCDMA方式の導入に関する協定を締結するなど市場開放を強くアピールしていた。その後、WTO加盟は人権問題、台湾問題、米中間貿易不均衡の問題が再燃したことにより遅延していたが、2001年11月、カタールでの閣僚会議を前にしてワシントンでの交渉が活発化しているようである。中国の意欲は強く、最近、中国聯合通信は15億ドルに上るCDMA設備供給契約を、クアルコム、ルーセント、モトローラ、ノーテル、エリクソンと締結した。また、中国移動通信はモトローラと5億ドル以上に上る設備供給契約を締結している。

■外資の導入
外資参入は従来、法的には全面的に禁止されてきているが、実質的には次のように香港を通じての資金調達が実行されている。

 中国聯合通信は、「中・中・外: China-China-Foreign partnership(国内資本と外資が合弁会社を設立し、これと中国聯合通信が業務提携を行い、営業開始後の利益を分配するもの)」方式といった便法を採っていた。1999年、これが政府から禁止されたため、香港子会社であるChina Unicom (Hong Kong) Group Limitedの傘下にChina Unicom Limitedを設立し、中国聯合通信から主要12省・市の携帯電話事業運営、ページング事業運営を移管することにより、同社株式の一部を2000年6月、香港及びニューヨーク証券取引所に公開し、約7,200億円の資金調達を行っている。その際、ハチソン・ワンポアが約450億円分を引き受けている。

 中国移動通信も、従来は香港子会社China Mobile (Hong Kong)が本土の6省の事業運営を行なっていたが、2000年11月、さらに親会社から7省・市の携帯電話ネットワークを約3兆7,000億円で買収した。これにあたって約7,400億円に相当する新株を公開し、そのうち約2,800億円分をボーダフォン・グループが引き受けている。

■通信事業法の整備
従来中国では電気通信事業法に該当する法が存在しておらず、外資への開放を前にその起草を急いでおり、その過渡的なものとして2000年9月、「電信条例」が制定された。

 この条例により、通信事業は、固定電話並びに携帯電話などの基本電信事業とそれ以外の付加価値事業に区分され、基本電信事業者については51%以上が国有であることが求められている。また、基本電信事業者は主管庁である情報産業部の免許が必要とされる。

 しかしながらこの条例は電気通信規則のごく原則的な事項のみを定めたもので、通信市場がどのように開放されていくのか、その具体は今後出される関連細則の公表を待たねばならない。なお、政府によれば、外資規制関連規則が公布されるのはWTO加盟が実現した以降となる模様である。

中国の携帯電話加入数推移(各年末及び2001年6月末の最新統計)

■マーケット並びに移動通信事業者
中国の携帯電話加入数は、上図に示すように1995年以来年間100%程度の成長率で増加を続けており、情報産業部発表の2001年6月末統計によれば1億1,700万を数え、米国の統計数値が不明ながら、2000年末の状況から推定すると米国を抜いて世界1位の座に到達したものと思われる。しかしながら13億人の人口に対する普及率は9%に過ぎず、さらなる潜在マーケットは海外からも注目の的である。

 また停滞する日・EU経済、また、2000年まで高い成長率を示していた米国並びに新興アジア諸国(韓国、台湾、シンガポールなど)が2001年は低成長が予想される中、中国は大きな影響を受けず、2001年も7%台の成長が続くものと予測されている点も中国が注視される所以である。特に電気通信の分野では2000年度は9.8%という高い成長率を示している。

 事業者別に見ると、1994年に設立されたNCCである中国聯合通信がこの半年間ほどで急激な成長を遂げ、2001年6月末時点で3,000万の大台に乗せたことが注目される。中国政府はNCCといえども国有の企業であり、この成長が確認されるまでは、民間への第三の免許付与はあり得ないとしているが、この勢いを見ればWTO加盟後の近い将来これが実現されるかもしれない。

 また、中国移動通信は2001年6月末で8,630万の加入者を擁し、ボーダフォンの加入者数規模に肩を並べた。(本誌2001年7月号参照)2001年末には世界最大の事業者となるものと思われる。

 方式的には、中国移動通信が保有する約360万加入がアナログである以外は全て現行加入者はGSM方式であり、アナログ方式も2001年内には全てデジタル化される予定である。

 なお参考までに、中国は1999年末で7,000万の加入者を抱える世界最大のページング大国であり、鈍化はしているものの加入者層の違いから未だ増加傾向にあると見られている

■3Gへの取り組み(技術標準の開発)並びに国産化への動き
 上述のように先進諸国では携帯電話の飽和が懸念される中で、残された巨大マーケットに向けた世界のメーカの取り組みは一段と強まっている。

 3Gにおいては、W-CDMAとCDMA2000の草刈場となるとの見方が大勢であったが、その中で中国自身もシーメンスとの共同によりTD-SCDMA方式を開発しており、2000年12月の発表では2001年当初これら3方式のトライアルが実施され比較検討されることとなっていた。このトライアルは遅延しているが、最近の報道では諸外国のメーカが参加して2001年9月に実施される予定である。なお、TD-SCDMA方式はCDMA方式に時分割技術を加えそのタイムスロットを上り、下りで分割することにより、実質的に上り、下りのチャネルを一本化し、周波数を有効に使用できるため、特に大都市部で有利であるとしており、音声アプリケーションの試験は既に終了しているとのことである。TD-SCDMAは大事業者である中国移動通信の標準として採用される可能性も大きい。

 一方、中国聯合通信は1999年にcdmaOneの導入を計画していたが、米中間関係の一時的悪化、また人民解放軍の所有するCDMA網の中国聯合通信への委譲計画が一時棚上げされたこともあり導入計画は遅延していた。その間に2GでのCDMA方式導入が取り止めになり、3Gとしての導入、すなわちcdma2000-1x〜3xに乗り替ったようであり、人民解放軍ネットワークの委譲も2001年1月に解決したことから一挙にその方向に動いている。前述の15億ドルに上る発注もその著れであり、早期のWTO加盟を目指す政府にとっても好都合であろう。

 なお、これらの標準以外にも中国の無線通信会社リンクエア・コミュニケーションズ (LinkAir Communications:本社:北京及び米サンタクララ)が2000年5月、LAS-CDMA(Large Area Synchronized CDMA)方式を発表している。この方式は現行の2G/3Gの標準規格と互換性を保ちながらIMT-2000が設定した最大通信速度2Mbpsをはるかに凌ぐ5.53Mbpsへと高めるところにある。2000年8月、情報産業部は今後の中国の無線通信方式の標準規格として採用しており、将来的には4Gへのつなぎとして、3Gに重畳する形態で導入される可能性もある。(本誌2000年7月号参照)なお、ごく最近同社は、上海におけるトライアルを数週間内に開始すると発表した。これらの動きに対応して諸外国のメーカは着々と資本、技術投下に向かっている。

 これまで、政府レベルへの圧力のみに終始していたとされるクアルコムは2001年7月、通信事業者並びに製造メーカへの技術提携に向けて北京にリサーチセンターを設立した。またエリクソンは2001年5月、2006年までの5年間に総額51億ドルを投入する計画であることを発表した。

 さらに刺激的な動きとしては、中国/台湾の協力関係が進んでいることである。2001年5月、両国は3Gシステムを共同で開発するための協力協定を締結した。緊張の続く両国政府にもかかわらず、その合意のもとに民間ベースで進められるものである。TD-SCDMAシステムのためのコア・ソフト、アプリケーション・ソフト、マイクロチップの開発などが対象となっており、これまで、端末製造に優位な台湾と基幹技術を開発した中国が協力することはシナジー効果を生むであろうこと、また言語が共通であり作業分担がし易いことも重要なファクターであろう。

■携帯電話機製造基地としての中国
中国の携帯電話端末市場は9割以上が外国メーカのもので占められており、ノキア・エリクソン・モトローラが三大メーカであり、ジーメンス・フィリップス・松下通信・NECがそれに次いでいる。2000年に中国で製造された5,200万台のうち国産メーカ製は353万台があり、シェアは成長しているものの未だ6.7%に留まっている。

 政府は過当競争を避けつつ国内メーカの育成を図るため、「生産指定企業」認定制度を設けるとともに、これらへ資金援助を行っている。政府は2003年までに国産比率を50%とする目標を定めている。

 一方、中国は開発・製造コストが低いため、端末ビジネスが悪化した海外メーカの製造基地局と化しつつある。フィリップス、エリクソンが端末の直接製造から撤退する中、OEM供給するメーカの製造分を併せて、中国における現地生産率を高めようとしている。

佐久間信行(入稿:2001.8)


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