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FCC、ソフトウェア無線の実用化に向けて規則改定

 FCC(米連邦通信委員会)は2001年9月13日、ソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)の実用化に向けてこれまでの規則を改定した。

 SDRとは、無線機内のソフトウェアを外部からのダウンロード等によって変更および追加することにより、その無線機の機能や性能を変更することを可能とする技術のことである。この変更には、バグの修正やバージョンの更新から、送信出力、周波数帯域や変調方式等を変えることによって、まったく別の無線機に変更してしまうものまで含まれている。この技術により、従来ハードウェアに依存していた無線機の仕様をユーザーが容易に変更することが可能となる。

 そのアーキテクチャーは、巷に溢れているパソコンにたとえるとイメージし易い。パソコンは、「ソフトがなければただの箱」と言われるように、ハードウェアにシステム・ソフトウェアおよびアプリケーション・ソフトウェアをロードして初めて稼動することとなる。そして、用途に応じて様々なアプリケーション・ウェアをロードすることにより、ある時はワープロ、またある時はカーナビ、あるいはゲームといった具合に、様々な目的に利用可能となっている。それと同様に、SDRにおいてもシステム・ソフトウェアおよびアプリケーション・ソフトウェアを書き換えることにより、ある時は携帯電話、またある時はトランシーバー、あるいはラジオ受信機といった具合に、様々な無線用途での利用が可能となる訳である。

 これまでのFCCの規則においては、端末の周波数帯、出力、変調方式等を変更する場合は、その度に端末の認可手続きを受ける必要があったため、それらの機能を随時変更することが可能となるSDRの普及を妨げる要因になるとされ、2000年12月に規則の見直しが提案され、これまで議論が続いていた。今回FCCが改定した規則においては、FCCの設備認可を受けているSDR端末であれば、新たに認可を受ける必要無しに(すなわちラベルを貼り直すこと無しに)“パーミッシブ・チェンジ(permissive change)”というプロセスに則りソフトウェアの変更を行なうことが認められている。また、ソフトウェア会社などの第三者が端末の機能を独自に変更することを想定し、“電子ラベル(electronic label)”の導入を認可している。これは、ソフトウェアがFCCの認可を受けたものであるという証である認可番号が、LCDディスプレイ等に表示される仕組みとのことである。

 このようなSDRの登場により、端末を回収せずにソフトのバク修正やバージョン・アップ等が可能となるばかりか、例えばW−CDMA方式の端末をcdma2000方式に簡単に変更できるなど、様々な便益がもたらされるものと思われる。しかし一方では様々な危険性をはらんでいるとする見方もある。例えば、違法なソフトウェアを端末にダウンロードすることにより、送信出力を規定以上に高めたり、許可されていない周波数で通信を行なうといったケースが想定される。FCCもこの点を危惧し、無認可のソフトウェアの利用を防ぐために適切なステップを踏むことを求めてはいるものの、具体的なセキュリティ上の要件については今のところ規定していない。

 SDRについては、1990年代後半より、日欧米において、それぞれ検討が重ねられているが、世界的な取り組みとしては、北米、欧州、アジアの産学官の専門家が参加するオープンな非営利団体としてSDRフォーラムが結成されており、SDRの検討および標準策定等に取り組んでいる。 SDRフォーラムとしては、2005年までに多くの端末ベンダーがコア・プラットフォームとしてSDRを採用することを想定しており、今回のFCCの規則改定に対しては歓迎の意向を示している。今後の動向に注目したい。

木鋪 久靖(入稿:2001.10)
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