ホーム > レポート > Hyper Asia >
ハイパーアジア
2000年4月掲載

シンガポールの通信市場、自由化

  シンガポール政府は2000年4月1日、これまでほとんど認めていなかった情報通信市場への新規参入を認めるなど、大幅な自由化を実施した。シンガポールの固定電話は、シンガポール・テレコムが独占していたが、本年4月から、スターハブが参入し、さらに2002年4月からは、参入企業数や外資の出資上限を撤廃する通信市場の完全自由化を予定していた。しかし、1月に、完全自由化も、スターハブの参入時期と同じ、2000年4月に前倒しすると発表。日経(2000.1.22)、日経産業(2000.3.23、4.3、4.7)、読売(2000.4.2)が、自由化に関する一連の記事、シンガポールの情報通信政策およびスターハブの事業計画見直しを取上げていた。

■シンガポールの通信市場自由化−料金引下げ競争が激化

4月1日に通信市場が自由化されたシンガポールで、料金の値下げ競争が激化している。独占の特権を失うシンガポール・テレコムは、国際通話料金を半額に引下げた。新規参入のスターハブは国際・携帯電話に低価格料金を導入して加入者獲得を狙う。米MCIワールドコムなど外資やインターネット事業者も参入の意向を示しており、今後は値下げが本格化しそうだ。
(日経産業 2000.4.3)

 スターハブは、NTTコミュニケーションズ(22%)、ブリティッシュ・テレコム(BT、18%)、Singapore Technologies Telemedia(34.5%)、Singapore Power(25.5%)が出資している。→詳細は、ハイパーアジア「シンガポールの基本電気通信免許、NTT・BT連合が取得」参照
 スターハブの落札が決まった1998年4月には、スターハブ及び政府系のシンガポール・テレコムによる複占体制が予定されていた。しかし政府はめまぐるしく変化する通信業界で2社状態を長く温存すれば、国全体の競争力が低下すると懸念。今年1月、企業数や外資出資比率に制限なく、新規参入を受け入れる完全自由化の時期を2002年4月から今年4月に前倒しすることを決めた。
 4月1日からサービス開始したスターハブは格安通話料金に匹敵する料金を導入。さらに低価格の「バリュー」サービスを5月に始める。同社は携帯電話料金では着信側の課金を廃止。99年12月に参入したインターネット接続事業では同国初の無料接続を提供、話題を呼んだ。
 一方、迎え撃つシンガポール・テレコムは、5月以降はシンガポール−米国間を59%割引くなど、大幅に値下げする方針で詳細を詰めている。
 シンガポールの通信コストは、香港など自由化で先行した市場と比べ割高だった。香港ではケーブル・アンド・ワイヤレスHKTなど4社が固定電話を提供している。

国際通話料金の比較(単位:セント)


シンガポール発 香港発
シンガポール・テレコム スターハブ ケーブル&
ワイヤレス HKT
〜2000.3 2000.4〜
日本 58 29 33 13
米国 40 20 21 5
香港 47 24 23
シンガポール 18

*各社で最も安い時間帯・サービスの1分当り料金、米ドル換算(日経産業 2000.4.3)

 価格競争は、参入業者の急増で一層激化する見込み。政府の自由化前倒しを受けて、3月末には58社が通信免許を獲得。MCIワールドコムや豪テルストラ、地元ケッペル・グループ連合など5社は、多国籍企業をターゲットに光ファイバー網敷設や海底ケーブルの獲得を計画している。また、これまで6社だったインターネット接続事業者は20社となる。

■シンガポール、情報通信を産業の柱に

シンガポール政府が高速インターネットを使ったマルチメディア事業の育成に乗りだした。情報通信政策「インフォコム21」の一環で、1億5,000万シンガポール・ドル(約90億円)の準備金を設定、高速ネット業者に助成金を提供し、新規参入を促す。参入業者の増加により、サービス価格の低下、高速ネットサービスの一般への浸透を加速させるのが狙い。
(日経産業 2000.4.7)

 シンガポールでは国家情報化計画「シンガポール・ワン」の下、高速網が完成しているにも関らず、数社のISPに限られるため、利用料が高く、サービスの質が低いといった不満が根強く、一般への浸透が遅れていた。
→詳細はハイパーアジア「シンガポール・ワン」参照

 シンガポール政府は、まず既存のISPにシンガポール・ワンの高速回線を再販することを認める計画である。この結果、インターネット接続事業者や、通信自由化で新規参入する通信会社も既存の回線を利用して、高速ネット・サービスを提供できるようになる。
 準備金1億5,000万シンガポール・ドルの大半は、高速ネット接続のインフラ整備費の助成に充てる。残りはマルチメディア・コンテンツ制作会社の誘致や、携帯機器の高速ネット接続技術の開発支援に充てる。
 シンガポール政府は、情報通信分野を産業の柱の1つに育成する方針で、通信自由化策、人材育成策などを打ち出している。日本の場合、1996年度の情報通信産業の国内総生産(名目)に占める割合は、8.8%であった(「通信白書」平成10年版)が、シンガポールでは、その割合を現在の5〜6%から2005年までに倍増する目標だ。

■スターハブ、家庭向け光ファイバー網敷設を中止

スターハブは、家庭への電話線敷設を中止し、事業計画を大幅に見直す。本年1月に政府が発表した通信自由化の前倒し政策に対応、最低2年は寡占が続くとされていたスターハブは、戦略の見直しを迫られていた。スターハブは、自前の電話線を敷設する代わりに既存事業者の電話網を利用し、その分の投資は、広帯域通信など付加価値の高い通信サービスの開発に回す。
(日経産業 2000.3.23)

 97年の入札当初は、自前の通信設備整備が条件だったため、スターハブは、2003年までに全国を網羅する家庭向け光ファイバー通信網の敷設を計画していた。10年間で26億シンガポール・ドル(約1,600億円)を投資するが、うち10億シンガポール・ドル(約600億円)は投資済みで、基幹網はすでに完成している。
 新規計画では、自前の光ファイバー網を各家庭へ延ばす計画を取りやめる。代わりに、既存事業者の電話線やケーブルの使用、自社の基幹網から無線で家庭に接続する方法などを検討している。

*1シンガポール・ドル=約61円

NTT西日本 企画部 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。