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2001年9月掲載 |
アジア通信市場の現状と外資の投資状況(2)第2回目は、アジア通信市場の自由化の状況と外資の投資状況を取上げる。(第1回目はこちら。アジア通信市場の現状と外資の投資状況(1)) アジアの大部分の既存キャリアは、国内と国際通信および携帯電話を一体的に提供している。国内通信は既存キャリアがほぼ独占的に提供しており、国内と比べれば競争が進展している国際通信でも、既存キャリアが依然として60〜90%と高いシェアを維持している。 携帯電話は、最も自由化が進んでいる分野である。香港、韓国、マレーシア、台湾では、新規参入キャリアの携帯電話加入者数が、既存キャリアの加入者数に勝っている。 図表1に示すように、外資の出資比率は10〜33%程度に留まっている。最大の出資比率は、英BTがマレーシアに出資している33.3%である。BTは、アジア市場で最も積極的に出資していたが、本国での事業不振を理由に、マレーシアからの撤退を決め、韓国、シンガポールでも撤退を検討中とされている。外資による投資が進まない理由の1つとして、各国が外資の出資を少数しか認めていないことが考えられる。対象としている9カ国・地域で、外資による全額出資の通信会社を認めているのは香港とシンガポールだけである。東南アジア諸国への投資低迷を打破するためには、大胆な規制緩和で外資の投資意欲を刺激することが必要だ。 (1)中国中国の国内・国際通信は政府直轄企業である中国電信(チャイナ・テレコム、旧郵電部)が提供している。中国電信の競争相手として1994年に設立された中国聯合通信(ユニコム)も一部、市内、長距離通信を提供しているが、巨大な通信インフラとブランド力を持つ中国電信との差が大きく、実質的な競争状態にはなっていない。 2001年3月には鉄道部が設立した鉄道通信信息有言責任公司(チャイナ・レイルコム)が正式に発足した。年内に、鉄道部および一般公衆向けに、国内長距離、市内通信、専用線、データ通信等のサービスを提供する計画である。各サービスの料金等は未定で、大部分のサービス開始は2001年後半になる見込み。 中国の携帯電話加入数は2001年7月末で1億2,060万台となり、米国の1億2,010万を抜いて、世界1位となった。携帯電話事業は、2000年4月に中国電信から分離した中国移動(チャイナ・モバイル)と聯合通信の2社が提供している。2001年3月末のシェアで見ると、中国移動が75.6%(7,581万加入)、中国聯合通信が24.4%(2,450万加入)となっている。 現在、中国は外国資本による電気通信事業を認めていない。2001年末に予定されている中国のWTO加盟に合わせて、データ・サービスは外国企業による50%の保有が認められると見られている。固定・携帯電話事業においても、地理的制限・保有比率を段階的に緩和し、49%まで外資の出資を認める予定である。 これまで米AT&T、NTT、C&W等、多数の外国キャリアが巨大な中国市場への参入を試みてきた。AT&Tは93年から中国進出のためのロビーイング活動を開始し、97年から、インターネット・サービスの合弁企業設立を提案した。しかし、AT&Tが25%、上海電信(中国電信の傘下)が60%出資する「上海シンフォニーテレコム(上海テレフォニー)」の設立が承認されたのは2000年12月であった。通信事業に外資系企業が正式参入するのは初めてというものの、WTO加盟が実現すれば、外資による半数の株式保有が認められるため、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(2001.6.27)は「AT&Tが中国進出のために行った7年間のロング・マーチ(長征)は失望に終る」としている。 (2)香港香港では、C&W HKT(現PCCW-HKT)が独占的に域内(香港特別行政区域内)および国際(域外)通信を提供していたが、1995年7月に、域内の固定通信網(Fixed Telephone Network System:FTNS)免許がハチソン・テレコム、ニューT&T、ニューワールドの3社に付与された。ニューワールドには米Qwest(旧US West)が出資している。2000年1月には、香港通信規制機関OFTAが、域内の固定無線(Local Wireless FTNS)事業で5社、衛星による域外事業で12社に免許を付与している。 2000年8月、C&W HKTは、PCCWに買収された。英C&Wは、香港テレコムの過半数を保有していたが、中国への足掛かりがつかむため、香港の中国返還前から、自社株をチャイナ・テレコム(香港)(中国電信の香港子会社)へ売却してきた。しかし中国の通信市場の開放が予想ほど進展しなかったために方針を転換、C&Wは持株54.2%のうち、35%程度をPCCW社に売却した。C&Wは新会社においても、当面は最大20%前後の株式を保有するが、今後も保有し続けるかは不明。PCCWは香港のインターネット企業である。香港テレコムとPCCWの現株主であるチャイナ・テレコム(香港)、インテル等はPCCW-HKTの少数株主として参加している。 香港では、6社が携帯およびPCSを提供している。最大手のハチソン・テレフォン・カンパニー(HTCL)は、ハチソン・ワンポア・グループの携帯電話会社で約170万の加入者を持ち、cdmaOne、GSM、DSC1800を提供している。HTCLには、ハチソン・ワンポアと米モトローラ、NTTドコモの3社が出資していたが、2001年5月にモトローラが25.1%の持株の全額をハチソンに売却、一方、ドコモは同年5月に、6.37%(37億円)を追加出資したため、現在の出資比率は、ハチソンが74.6%、ドコモが25.37%となっている。 (3)インドネシア国内通信はPT Telkomが独占的に、国際通信はPT IndosatとPT Satelindoの2社が提供している。1999年の国際通信のシェアは、PT Indosatが86.5%、PT Satelindoが13.5%である。PT TelkomとPT Indosatは、相互に主要な関連会社への投資を行うクロス・ホールディングを行っており、PT Satelindoには、PT TelkomとPT Indosatが出資している。 PT Telkom、PT Indosatは国家の代理機関として位置付けられていたが、2000年9月に成立した新通信法で、その特権的存在を否定され、収入の一定割合を免許料として支払うこととなった。さらに、同年7月の大統領令により、各社の独占期間が短縮された。PT Telkomの市内電話市場における独占の終了は2010年末から2002年8月に、国内長距離電話市場では2005年末から2003年8月に、PT IndosatおよびPT Satelindoの国際電話市場の複占は2004年末から2003年8月に前倒しで終了する。自由化政策に沿って、PT Telkom、PT Indosatの株が2001年内に放出される予定である。株式が放出された場合、外資が引受け手になるとの思惑があった。しかし売却後も政府が過半数の株式は国が保有し続ける方針であることや、政情の不安定さから、積極姿勢を示す外資は今のところ見当たらない。 インドネシアは、固定電話網を拡充するために民間および外国資本を活用したKSO事業を行っている。2010年までの15年間で設備の建設、運営を行い、その後、設備移転することを基本に、96年、PT Telkomが担当するジャカルタ、東ジャワを除く5地域に、5つのKSOコンソーシアムが形成された。KSOコンソーシアムへは上限35%で外資の参加が認められており、フランス・テレコム、豪テルストラ、NTT、C&W、シンガポール・テレコム等が出資している。しかし総じて回線の敷設はスムーズには進まず、契約解除やPT TelkomによるKSOコンソーシアムの買収などの動きがある。 インドネシアで携帯電話を提供している事業者は現在、7社あり、そのうち、加入者数で見た上位6社にPT Telkomが、上位2社にPT Indosatが出資している。同国では、1800MHz帯の免許を7社に付与しているが、通貨・経済危機の影響等により、いまだ開業していない。携帯電話事業者には、蘭KPN、独DeTeMobil、米Verizon等が出資している。 PT TelkomとPT Indosatは、クロス・ホールディングを2001年2月に終了させることで合意した。クロス・ホールディングの解消は、通貨危機対処に際して、政府とIMFとの間で合意された競争促進の一部である。携帯業界トップのPT Telkomselは、PT Telkomが42.7%、PT Indosatが35%、残りをKPNが17.3%保有しているが、PT Indosat所有の35%を9.45億ドルでPT Telkomに売却する一方、PT Telkomが保有する国際通信のPT Satelindo株22.5%を1.86億ドルでPT Indosatに売却する。さらにアナログのAMPS方式を採用している3社(Komselindo、Metrosel、Telesera)の合併合意が2001年2月報道されている。 (4) 韓国既存キャリアである韓国通信は、2002年半ばを目処に完全民営化される。併せて、15%程度を戦略的外資に保有させる計画である。韓国政府が保有する40.1%(2001年7月時点)のうち、2001年末までに5%程度を戦略的外資に売却する(15%の残り10%分は新株発行に依る)計画である。さらに2002年6月までに、残りの30数%を内外の株式市場において一般投資家を対象に売却される。 韓国通信は、2000年末で、国内長距離電話の分数シェアは90%、国際では62.5%を維持している。国内長距離および国際通信(一部、市内通信)にはDacomとオンセ通信が、市内通信にはハナロ通信が参入している。 一方、携帯電話では韓国通信の子会社であるKTF(2001年5月にKT M.comと合併したKT Freetelの後称)は、ライバルのSKテレコムにかなりリードを許している。SKテレコムは2002年1月に新世紀通信と合併する予定であるが、2001年6月末時点の2社の合計シェアは49.75%、KTFのシェアは34.47%となっている。新世紀通信には英ボーダフォンが、LGテレコムにはBTが出資している。 (5)マレーシアテレコム・マレーシア(TM)を含めると、主要な固定・携帯事業者は5社ある。人口2,300万の市場規模に比べて事業者数が多すぎると言われている。TMは、既存キャリアとして支配的な地位を保持している。固定通信のシェアは97%程度(携帯通信シェアは18%)。TMは、2001年1月、主要グループ会社を含む事業全体を5つに分割することを表明した。TM本体が固定網を担当するほか、TM Mobile(携帯電話)、TM Multimedia(インターネット関連)、TM ServiceCo(通信サポート、非通信系)、TM International Ventures(海外事業、国際提携)で構成され、これらが本体内にあるCorporate Center(事業展開の戦略、マーケティング、人材、財務の観点から横断的に機能)を介して、有機的に活動する。TMは2000年7月にNTTドコモ、NTTコミュニケーションズとの資本提携交渉が破談になり、いまだに外資の提携相手が見つからない状況だ。NTTグループがTMへの出資を断念した理由として「株式を数割保有しても、経営参加の保証が得られなかったため」(NTT関係者)としている。 携帯事業で第1位のシェアを持つMaxisには英BTが33%出資していたが、次世代携帯電話免許の入札で多額の借金を本国で抱え業績不振に悩むBTは、2001年5月、資本を引上げることでMaxisと合意した。現地資本の株主であるUsaha Tegas Sdn Bhdに33%の持分すべてを売却する。 セルコムは携帯事業で第2位のシェアを持つ。セルコムの親会社であるTRIには、ドイツ・テレコムが21%出資している。第3位のTMに続いて、シェア第4位のDiGiは、ノルウェーTelenorが33%出資しており、2001年6月下旬、外資の上限である61%に引上げる交渉を行っている。61%の上限は2003年までの時限措置であるため、それ以降はマレーシア政府の新たな認可が必要である。 (6)フィリピンフィリピンの総合フラッグキャリアであるPLDTは、傘下にSmart、Piltelを保有している。PLDTには、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が15%出資している。NTTコムはSmartの株式を37%保有していたが、2000年3月、Smart社の持株をPLDTの新規発行株式と交換し、さらにNTTコムがPLDTに追加出資を行った。 PLDTに対抗する勢力としては、グローブが、2001年6月、イスラコムを完全子会社化し、フィリピンの第2勢力としてポテンシャルを広げている。グローブにはSingTelの子会社が、イスラコムにはドイツ・テレコムの子会社が出資している。 1999年の国際通信のシェアで見ると、PLDTが59.2%、グローブが17.6%、デジテルが5.8%、バヤンテルが5.5%である。 フィリピンは、PLDTを始め、民間で通信会社が運営されており、多数の小規模な事業者が参入している。外資も40%上限認められており、積極的に出資している。図表2には主要な事業者を挙げた。 (7) シンガポールシンガポール・テレコムに対抗する事業者として、スターハブが2000年4月から国内・国際・携帯電話サービスを開始した。スターハブにはNTTコムが22%、BTが18%出資している。BTは、マレーシアからの撤退同様、海外事業縮小の一環で、株式売却を検討していると言われている。 シンガポール政府は、通信の完全自由化を2年前倒しで2000年4月に行った結果、多数の設備ベース事業者(FBOs)およびサービスベース事業者(SBOs)が参入している。設備ベース事業者には、スターハブに入札で破れたワールドコムも免許を取得している。 携帯電話は、シンガポール・テレコムの運営するSingTelモバイルとモバイル・ワン(M1)およびスターハブの3社である。 (8)台湾台湾では、中華電信による固定網(国内・国際)の独占が長く続いていたが、2000年3月から、新世紀資通(New Century InfoComm Co.)、東森寛頻電信(Eastern Broadband Telecom Co.)および台湾固網(Taiwan Fixed Network Co.)の3社が免許を取得し、約1年を経て営業を開始した。新世紀にはSingTelが、台湾固網には米ベライゾンが出資している。 台湾では1996年12月に携帯電話事業を民間に開放し、地域免許と全国免許を合せて7社に付与された。しかし99年始めに東栄電信(Tuntex)は和信電訊(KG Telecom)の傘下に入り、現在、携帯電話事業を行っているのは、中華電信も含めて、全部で6社となっている(2001年始めに台湾大哥大(Taiwan Cellular)が泛亜(TransAsia)を買収したが、合併後も泛亜の社名およびブランドは残る)。 外資としては、携帯最大手の台湾大哥大にベライゾンが、和信電訊にNTTドコモが、遠伝電信にAT&T Wirelessが、地域免許の東信電訊には日本テレコムが出資している。泛亜電信に出資していた米SBCは、台湾大哥大による買収に伴い、持株をすべて手放した。 (9)タイ国内通信はタイ電話公社(TOT)が、国際通信はタイ通信公社が提供している(CAT、マレーシア、ラオス向けの国際通信のみTOTが提供)。タイは、両公社の独占権を維持しながら、BTO(Built-Transfer-Operation)方式により民間企業にコンセッション(事業権)を与え、電気通信網の建設・運営を委託してきた。1992年、バンコク首都圏260万回線の建設をテレコム・アジアに、93年に地方部の150万回線をTT&Tに、それぞれ25年間のBTO免許を付与している。チュアン前政権は、2000年にTOTとCATを2006年までに民営化する方針を閣議決定し、2001年2月発足のタクシン政権も、両公社を2002年に上場させる方針を引継いだが、2000年後半に発足するはずだった独立規制機関は人選が停滞、いまだ発足の見通しが立たない。前政権は、運輸通信省から通信の免許・監督などの権限を分離したが、受け皿の規制機関がないため、行政の空白が続いている。 携帯電話は、固定電話と同様、BTO事業として提供されている。AISはTOTから25年間の、TAC、Digital Phone Company(DPC)はCATから27年間のコンセッションを受けてサービスを提供している。 TACには、ユナイテッド・コミュニケーション・インダストリー(UCOM)が40%、ノルウェーのテレノールが30%、TOTが11%出資している。テレノールはUCOMにも24.8%出資している。(日経2000.5.16) DPCは、タイの通信大手シン・コーポレーションが46%、テレコム・マレーシア(TM)が49%、残りをCATとTACが出資していたが、シンがグループ全体でシンガポール・テレコム(SingTel)との関係を強化しており、TMは、2001年7月、持株全株を2億4,500万ドルでシン側に売却することを決定した。シンは、傘下に、SingTelと合弁で携帯シェア第1位のAIS(シン:41%、SingTel:20%)を保有しており、DPCとAISを統合して競争力を強化する考えである。DPCは、発足時にはTMとタイのサマートとの合弁だったが、サマートが事業見直しで、持株をシンに売却していた。 <参考資料>
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<寄稿> 武川 恵美 編集室宛 nl@icr.co.jp |
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