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![]() GSMアソシエーション、モバイル・グリーン・マニフェストを発表
2009年11月、欧州の移動通信事業者を中心とする業界団体GSMアソシエーション(GSMA)は「欧州モバイル・マニフェスト(The European Mobile Manifesto)」を発表した(本誌2009年12月号参照)が、それとほぼ同時期に、「モバイル・グリーン・マニフェスト(Mobile’s Green Manifesto)」を発表している。約70ページにわたり、移動通信業界が地球環境保護にいかに貢献できるかをテーマとしてまとめられている。なお前者が欧州地域のみを対象としていたのに対し、後者は世界を対象としている点で、ターゲットが異なっている点には留意したい。
移動通信業界自身の目標と、他の業界への貢献を標榜この文書は、移動通信業界が温室効果ガスの排出をいかにして抑制するか、および移動通信業界が他の業界でのガス排出抑制に果たす役割の重要性という2つの観点から構成されている。この時期に発表したのは、2009年12月にコペンハーゲンで開催された国際会議「COP15」へ移動通信業界としてのメッセージを伝える狙いもあり、文書内にそうした言及がある。 温室効果ガス排出量を1加入あたり40%減少(2020年時点、2009年比)この文書で謳われているマニフェストは、「移動通信1加入(connection)当たりの温室効果ガス排出量を、2020年には2009年比で40%削減する」というものである。これは目標というトーンではなく予測、見通しとして書かれている。なお、この1加入の算出にあたってはM2M(マシン・ツー・マシン)アプリケーション向けのSIMは対象外とされている。 この40%削減は、移動通信事業者のコントロール下にあるエネルギー源すべてを対象とし、具体的には無線ネットワークや建物でのエネルギー消費、輸送による排出ガスなどが含まれるとしている。また、通常の移動通信端末における、待ち受け時および通信時のエネルギー消費を2020年までに40%抑えるため、移動通信事業者は端末ベンダーと協調し、この目標を達成する計画であるとしている。さらに、通信ネットワーク機器のライフサイクルにおけるガス排出量を40%抑えるため、機器ベンダーとも協調するとしている。 こうした目標の達成に向け、GSMAは
他業界への貢献で、自動車台数の30%減に相当するガス排出抑制効果またこの文書では、移動通信を活用した様々なアプリケーションが通信以外の業界で活用されることで、温室効果ガスの抑制に貢献できるとしている。試算では2020年までにCO2排出量を1,150メガトン減らすことができ、これは2009年に世界中で稼働している自動車(約9億台)が排出するCO2のうち2.85億台分に、また英国が2020年に排出するCO2総量の2年分に相当するとしている。 この排出抑制量見積もりの内訳を見ると、電力業界において350メガトン、運輸業界において270メガトン、非物質化(dematerialisation)により160メガトン、となっている。移動通信自体も、個人向けにCO2排出量をモニタリングさせることが可能であり、これにより消費者に対し排出量を抑えるために行動パターンをどう変えるかをアドバイスできる、と指摘している。 政策母体へのメッセージ・・・施策の優先順位この文書には、対象読者はまずは政策決定機関(policymakers)である、との記載がある。彼らへのメッセージとして以下を考慮することが極めて重要であるとしている。
1加入当たりのCO2排出量は、世界平均はNTTドコモの2倍以上この文書にある数値から、日本市場がCO2排出に関して果たしてどうなのかを見てみたい。日本では、たとえばNTTドコモは「CSR報告書2009」において、2010年度のCO2排出量目標を117万トンに設定している。この数値は2010年度で137万トンという見込みから15%抑制するという目標値であり、そのために省電力装置や高効率電源装置の導入を進めているとし、2008年度実績では120万トンである。同社の場合、2009年3月末時点での加入者数は約5,300万(通信モジュール(約150万加入)を除く)であり、1加入あたりCO2排出量は約22.6kgとなる。GSMAの本文書では2009年に世界の移動通信業界全体でのCO2排出量が2.45億トン、加入者数が46億加入となっており、1加入あたりのCO2排出量は約53.2kgとなる。これはNTTドコモの2008年度算出値の2.3倍に相当する。 この2.3倍という数値を評価するには、様々な要因を考慮する必要があるだろう。日本市場を世界から見ると
などは、市場環境として1加入あたりのCO2排出量が少なく済む要因であろう。 一方で
なお、移動通信業界におけるCO2排出量のうち84%が基地局から、16%が端末からのもの、とのグラフが文書内に掲載されており、業界全体としての効果は通信事業者およびネットワーク機器ベンダーでの取り組みに大きく依存している。 「2020年に40%減」は高いハードルか世界的に見れば今後2020年までに、市場は大きく変わるであろう。発展途上国における携帯電話の普及、基地局整備の進展などは、CO2排出量を増やす要因である。一方で、2Gから3GさらにLTEへの移行で周波数利用効率が上がることによる加入者収容効率の向上や、加入者増による基地局の稼働効率向上は、その増分を相殺する要因となるであろう。 GSMAのこの文書では、2009年から2020年にかけて加入者が1.7倍になるも、CO2総量を2009年の水準で維持することで1加入当たり排出量を40%抑える、と見込んでいる。機器ベンダーも環境性能を付加価値とした基地局の製品化などにすでに取り組んでおり、その流れは今後も継続するであろう。また基地局の効率的な運用は通信事業者にとってもメリットがあることから、40%減をもたらす供給側のプレイヤーである通信事業者と機器ベンダーの行動がCO2抑制にプラスの効果をもたらす可能性は高いと思われる。40%減という目標値は、それほど高いハードルではないかもしれない。 業界全体での「ムード作り」この文書をGSMAが発表する意図は、端的にいえば「移動通信業界はこれだけ地球環境に貢献するから、そのために移動通信業界を支援すべし」ということである。とくに「CO2排出40%減」というメッセージはシンプルでかつインパクトが強く、政策担当者だけでなく広く一般向けにも浸透しやすいものであろう。日本の通信業界が、GSMAのこうした活動から学ぶべきところは多いのではないだろうか。 岸田 重行 |
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