2011年7月28日掲載

2011年6月号(通巻267号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

サービス関連(通信・オペレーション)

LTE World Summit 2011で語られたLTEコア帯域としての1.8GHz帯

[tweet] 

 LTEは4Gネットワークの通信方式として世界のほぼ全域で展開される計画があるが、各国で多数の周波数帯域でのLTE展開が計画されており、どの周波数帯域がLTEコア帯域になるかについては依然として不確実性が高い状況にある。こうした中で、欧州主要通信事業者を中心として800MHz帯、2.6GHz帯に次いで1.8GHz帯をLTEコア帯域としたい意向が明確になり始めた。

LTE帯域の不調和

 世界各国で既にLTEの商用化が進んでいるにもかかわらず、依然としてLTE帯域の不調和は通信事業者にとって最大の懸念となっている。3GPP−LTEのサポート帯域を見ると、20以上ものFDD帯域と11以上ものTDD帯域が存在する。このように特定のLTEコア帯域が存在しないことで、LTEの普及の妨げになる恐れがある。北欧のテリアソネラを筆頭として、通信事業者主導でLTEコア帯域を選定しようとする動きは2010年のLTE World Summitで既に見られた。しかし、ほぼ全てのプレイヤーが周波数の調和を望んでいるにもかかわらず、実態は逆に断片化の進行に向かっている。そのため、2011年の5月中旬にアムステルダムで開催された同カンファレンスでも引き続き、どの周波数帯域をLTEコア帯域とすべきかといった議論が交わされた。

 LTE向けとされる周波数帯域は上述の通り、従来の通信方式と比較しても多数ある。さらにチャネル幅やFDD/TDDモードといった観点を加えれば、その組み合わせは実に多様なものになる。これについて楽観的に捉えれば、各国・各社ごとに異なる周波数状況に対応できるだけの柔軟性が確保されているとも言え、LTEのこうした特性が世界のほぼ全域で展開される大きな理由の1つとなっている。

 一方で、この「柔軟性」が通信機器や端末のサプライチェーンにとっては大きな障害になる可能性もある。通信機器、端末、チップを供給するベンダー各社が通信事業者の求める仕様を策定するにあたり、どの帯域に対応する製品を開発すれば良いかが不透明なためである。もっとも、この点については昨年のLTE World Summitで中国の華為技術を始めとしたベンダー各社が基本的に全てのLTE帯域に対応する製品を供給すると発表していた。しかし、対応する周波数帯域が多いほど通信機器や端末の開発コストは上がり、小売価格にも反映する他、端末の小型化が難しくなる。さらに、3Gネットワークによる音声通話のサポート(CSFB : Circuit Switch Fall Back)を当面継続しなければならないこともあって、ベンダー各社にとってLTEコア帯域の不確実性は頭痛の種になっている。

 通信機器や端末がどの程度調達できるかはLTE普及のペースと規模に直結するため、通信事業者はLTE帯域の不調和から派生するこの課題についても懸念を持っている。

LTEコア帯域としての1.8GHz帯

 2010年5月に終了したドイツの周波数免許オークションでは800MHz帯、1.8GHz帯、2.0GHz帯、2.6GHz帯が対象となったが、800MHz帯周波数免許の落札額が突出して高騰(同オークション全体の落札総額約44億ユーロのうち、800MHz帯周波数免許の落札額合計は約36億ユーロ)し、800MHz帯への関心の高さが浮き彫りとなった。これは電波の特性上、低い周波数での帯域であるほどネットワーク構築コストの圧縮に繋がるためである。

 また、現時点で2.6GHz帯は北欧、ドイツ、香港など一部の国・地域でしか免許付与されていないが、同帯域はデジタルデビデント帯域(アナログTV跡地、700〜800MHz帯)よりも先に利用可能になると見られている。英仏などの欧州主要国でも、デジタルスイッチオーバー(アナログTV放送からデジタルTV放送への移行)のスケジュールから、800MHz帯よりも早く2.6GHz帯が利用可能になる模様である。

 こうした状況から、大半の通信事業者は800MHz帯をLTEコア帯域の第一候補としていると考えられるが、LTE展開のスピードを重視する通信事業者(テリアソネラなど)は可用性の観点から、まず2.6GHz帯を利用する傾向がある。

 2011年のLTE World Summitでは、800MHz帯、2.6GHz帯に加えて1.8GHz帯をLTEコア帯域に推す動きが顕著に見られた。同カンファレンス初日のキーノートで登壇したドイツ・テレコムのBart Weijermars氏は、上述した800MHz帯と2.6GHz帯の世界的状況を踏まえ、1.8GHz帯をLTEコア帯域とすべきと主張した(図1参照)。1.8GHz帯をLTEコア帯域にしようというイニシアティブにはドイツ・テレコムの他、GSMA、フランス・テレコム、テリアソネラなどが参画している。

【図1】ドイツ・テレコムのプレゼンテーション・スライド
【図1】ドイツ・テレコムのプレゼンテーション・スライド
出典:ドイツ・テレコム

 同カンファレンスでは上記の通信事業者の他、香港のCSL、UAEのエティサラット、ギリシャのコスモテ(コスモテのプレゼンテーション・テーマは「1.8GHz帯LTEエコシステムの推進(“Developing the Ecosystem for LTE in the 1800MHz Band”)」)なども1.8GHz帯の有用性を主張すると共に、各国規制当局に対して1.8GHz帯の既存部分のリファーミングと遊休部分の早期割当を求めた(図2、3、4参照)。

【図2】CSLのプレゼンテーション・スライド
【図2】CSLのプレゼンテーション・スライド
出典:出典:CSL
【図3】エティサラットのプレゼンテーション・スライド
【図3】エティサラットのプレゼンテーション・スライド
出典:エティサラット
【図4】コスモテのプレゼンテーション・スライド
【図4】コスモテのプレゼンテーション・スライド
出典:コスモテ

1.8GHz帯がLTEコア帯域として主張される理由

 1.8GHz帯がLTEコア帯域として強く主張される理由には、主として以下の6つが考えられる。

  • 1.8GHz帯はGSMで利用中の周波数帯域であり、世界各国で広く利用可能な状態である。
  • 世界各国で利用されている周波数帯域であるため、ローミングが容易である。
  • アンテナや鉄塔など既存の通信設備を活用できる。
  • 1.8GHz帯はリソースが比較的豊富である(図1参照)。
  • 1.8GHz帯対応端末は量産される可能性が高い。
  • 欧州委員会において1.8GHz帯(および900MHz帯)のLTEへの利用を認可する動きがある。

 こうした理由から、早期にLTEサービスを開始したいが、2.6GHz帯が利用できない、あるいは2.6GHz帯ではネットワーク構築コストがかかり過ぎると判断する通信事業者には1.8GHz帯は有望なLTEコア帯域として映ると考えられる。ドイツ・テレコムのBart Weijermars氏は1.8GHz帯のリファーミングについて、800MHz帯および2.6GHz帯周波数免許オークションの開催を待つよりも「魅力的」であると語っている。

周波数帯域別のLTEカバレッジ

 また、テリアソネラのTommy Ljunggren氏は、800MHz帯と2.6GHz帯だけでは通信事業者の周波数需要を満たせないと主張している。どの程度の周波数帯域が使えるかは各国規制当局の周波数政策にもよるが、この主張の背景にはデータ・トラフィックが急増しているということがある。テリアソネラは各周波数帯域を人口密集地とルーラル地域とで使い分け、それぞれのカバレッジとキャパシティを確保する計画を打ち出している。LTEでは具体的に、都市部は1.8GHz帯、2.6GHz帯で、ルーラル地域は800MHz帯でカバーする予定である(図5参照)。

【図5】テリアソネラのプレゼンテーション・スライド
【図5】テリアソネラのプレゼンテーション・スライド
出典:テリアソネラ

  この他、エティサラットは2.6GHz帯でLTEサービスを開始し、1.8GHz帯で屋内カバレッジと広域カバレッジに併用する一方、800MHz帯を広域カバレッジに利用する計画を紹介している(図3参照)。

  このように、周波数帯域ごとに対応するカバレッジを分ける通信事業者がほとんどである。LTEは世界のほぼ全域においてマルチバンド(およびマルチモード)で展開されるのが確実で、低中高3つのLTEコア帯域を組み合わせることでコスト、カバレッジ、キャパシティのバランスを取るという狙いがある。概略は以下の通りである。

  ●低帯域(700/800MHz帯)→特にルーラル地域の広域カバレッジ

  ●中帯域(1.8GHz帯)→中〜大規模都市のカバレッジ(GSM/LTE)

  ●高帯域(2.5/2.6GHz帯)→人口密度の高い大都市中心部のホットスポット的カバレッジ

  なお、このようにLTEコア帯域を使い分ける構想については、LTE対応の通信機器および端末を供給する華為技術のプレゼンテーションでも紹介されていた(図6参照)。

【図6】華為技術のプレゼンテーション・スライド
【図6】華為技術のプレゼンテーション・スライド
出典:華為技術

まとめ

 どの周波数帯域がLTEコア帯域になるかについては依然として不確実性が高い状況にあるが、LTEコア帯域として800MHz帯、2.6GHz帯に次いで1.8GHz帯が有力候補となるトレンドが形成されつつある。LTEコア帯域がこれら3帯域に収束していけば、通信事業者が懸念する通信機器や端末のサプライチェーンの不透明感も緩和するものと考えられる。

  周波数帯域を巡る動きはLTE展開のペース、規模、エコシステムを大きく左右する要素であるため、今後の動向を注意深く見守っていきたい。

小川 敦

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。