2014年1月24日掲載

2013年12月号(通巻297号)

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サービス関連(通信・オペレーション)

日本のインターネット企業の業績と動向(2013年末)

インターネット業界の変動は非常に激しい。昨日まで頂点にいた企業があっという間に転落してしまうこともよくある。また昨日までは誰も知らなかった企業がひとつのコンテンツやサービスを契機にあっという間に頂点にいくこともある。本稿ではグリー、DeNA、mixi、LINE、ガンホー、コロプラといった日本を代表するインターネット業界の6社を事例として取り上げ、最近のインターネット業界、ソーシャルゲームの動向について見ていきたい。

最近の各社の業績

まずは最近の各社の業績動向を整理しておく。

最近の各社の業績

(出典:各種公開情報を元に筆者作成)

現在の業界にまつわる環境

まずは現在の業界にまつわる環境を見ていきたい。インターネット業界は動きが非常に激しく、先が読めない業界である。特にゲームは好き、嫌い、流行に左右されるため、事業の主軸がゲームの場合は常に自転車操業を迫られる。フィーチャーフォンからスマホがモバイルのプラットフォームの中心になった。それに伴ってゲーム開発のコストはスマホでは相当にかかるといわれている。また利用者獲得のために、テレビ広告などの宣伝も必要になり、それらは相当なコストになっている。ただし、コロプラのようにテレビCMを開始してからダウンロード数が一気にあがるゲームもあるので、広告宣伝費を削減することは難しい。業界としては今後も成長するだろうが、どこの企業が覇権を取るか不明で予測不能な業界である。

グリー、DeNAが窮地に陥っている理由はなんだろうか?
2012年の規制強化はどの程度影響しているのか?

ゲームに売上を依拠している企業はユーザーの移り気に左右されてしまう。例えばDeNAの「モバゲー離れ」が最近では著しい。2012年5月「コンプガチャ」が違法であるとの判断を受けてソーシャルゲーム業界全体でコンプガチャを取り下げる対応が行われた。そのため2012年の決算までは「コンプガチャ」の影響はあったと想定される。しかし、この業界は動きが早いからいつまでも「コンプガチャ」の影響だけが原因とはいえないだろう。実際に両社ともに2012年6月には新しいガチャを開発・提供した。グリーは『ドリランド』や『モンプラ』、DeNAは『怪盗ロワイヤル』や『ワンピースグランドコレクション』など、月商十数億円レベルの主力タイトルに導入した。「コンプガチャ」が違法とされなくともユーザーは飽きていたかもしれない。つまり、「コンプガチャ」に代わるユーザーを惹きつける魅力的なコンテンツ、プラットフォームが無くなってしまったことの方が影響として大きいのだろう。

また、世の中のスマホへのシフトに乗りきれなかったことも大きな要因であろう。

  • ユーザーの観点:
    フィーチャーフォンからあっという間にスマホにシフトし、スマホで様々なゲームが増えて選択肢が増えた。
  • 提供会社の観点:
    フィーチャーフォンと異なり、スマホ向けゲーム、アプリの開発コストは高い。さらに利用してもらうためにテレビCMなどに大量のコストを投入せざるを得なくなってきている。

また、スマホが普及してくると、ゲームアプリを独占的に配信するアップルやグーグルが新しい支配者として登場してきた。今では彼らがゲームソフト開発会社から販売手数料を集めている。そうなるとスマホ向けゲーム販売でグリーやDeNAのプラットフォームに頼る必要性がなくなってくる。つまり手数料をアップル/グーグルとグリー/DeNAの二重に取られて開発会社に入る取り分が減ってしまうため、それなら最初からアップルやグーグルが提供しているプラットフォームに提供するようになる。

また、スマホはフィーチャーフォンと比較するとゲーム以外にもソーシャルメディア、動画など多くのアプリが楽しめる。つまりユーザーからするとゲーム以外にも無料で楽しめるコンテンツ、サービスが多く存在することから、いつまでもゲームに固執する必要はなくなったのかもしれない。

これからの生き残り策はどのようなものがあるのか

コンテンツを常に開発し提供を続けて「当たり」を見つけていくしかない。この業界は一発のヒットで逆転出来る可能性を秘めている。但し、ゲーム開発費はかかるから、「どこまで費用をかけるか」とのバランスになる。

例えば、ソフトバンクがフィンランドのSupercellという企業を買収すると発表した。Supercellは大きな資本を手に入れることになる。このように大きな資本力を持った企業をバックにつける(傘下に入る)ことも重要であろう。Supercellは2年前に設立されたスマホ・タブレット向けのゲームを開発する新興ベンダーの1つで、これまで提供したゲームは「Clash of Clans」と「Hay Day」の2つだけである。しかも双方のゲームは従来iOS版しか提供しておらず、Android版は「Clash of Clans」を2013年10月に提供開始したばかりである。そうであるにも関わらず、Clash of Clansは世界139カ国のApp Storeで売上1位を記録した。すなわち「一発屋企業ベンチャー」で今後どうなるかわからない企業を買収したのがソフトバンクなのだ。

ゲームは開発コストが高く競争が激しいが当たれば大きい。一方でLINEが提供したスタンプは開発コストが安いうえにユーザーは購入しやすい。このような安いコストで開発して、利回りが大きいコンテンツを提供できるかどうか、そしてそれらを流通させるプラットフォーム(ユーザー基盤)を抱えられるかどうかが重要になる。

「フィーチャーフォン向けの収益が急速に下がる一方、スマホ向けを伸ばしきれなかった」と多くの会社はいうが、それではスマホユーザーはどこに行ってしまったのだろうか? プラットフォームとしてのグリー、DeNA、mixiの役目が終了したのかもしれない。現在、若者を中心にLINEが新たなプラットフォームになっているのだろう。

海外展開をすればうまくいくのか?

売上を伸ばすためには海外展開が重要といわれているが、インターネットコンテンツ(特にモバイル)にお金を支払ってまでコンテンツを購入するのは日本人と韓国人くらいではないか。海外ではモバイルでインターネットコンテンツ(ゲーム、音楽、動画、画像など)にお金をかける習慣はあまりみかけられない。また新興国では海賊版のコンテンツやソフトも非常に多い。日本ではiモードに代表されるようにコンテンツプロバイダーのビジネスモデルが確立したため、ユーザーも携帯電話での課金、デジタルコンテンツをお金を払って買うことに慣れている。海外ではそのような習慣はほとんどないから、モバイルでお金を払ってコンテンツを利用することに抵抗がある人が多いと考えられる。特に新興国や若者は「無料じゃなければ使わない」という感覚が多いうえに、似たようなコンテンツや海賊版が登場してしまうと、すぐにそちらを利用してしまう。そのような海外の習慣を克服するのは難しいため、インターネット企業にとって海外展開は日本人が想定している以上にハードルが高いと考えられる。インターネット企業が中国に拠点を設置したが閉鎖が相次いでいるのは、このような背景が大きいのではないか。

今、元気なガンホーやコロプラは今後どういう展開が予想されるのか。

ガンホー

 ガンホーが絶好調なのは「パズドラ」に依拠するところが大きい。売上高が前年同期比で約10.5倍の746億円、営業利益が44.3倍の451億円となるなど、「パズル&ドラゴンズ」などのヒットで破格の増収増益となった。同ゲームは2,100万ダウンロードを達成したといわれている。今後は「パズドラ」と同等、あるいはそれを越えるようなゲームを出せるかどうかが鍵になる。ゲームは「飽きられる」のも早いから、現在「パズドラ」で掴んだユーザーに対して、「次の一手」(第二のパズドラ)を打てるかどうかもカギ。これが無ければ、ユーザーは移り気だから、すぐに見向かれなくなってしまう。ユーザーは「パズドラ」(ゲーム名)を知っていてもガンホー(企業名)を知らないことが多いから、認知度が高い「パズドラ」(ゲーム名)という名前をどう使うかも鍵になると思われる。

またソフトバンクが買収したSupercellの海外での知名度とブランドを活用して海外への展開をどのように行うのか、注目される。実際、ガンホーとSupercellは2013年6月にパズドラとClash of Clansとのコラボレーションキャンペーンを実施していた。

コロプラ

 コロプラは「位置ゲー」と呼ばれる「位置情報と関わりのあるゲーム」で有名で、元々好決算だったが、さらなる好調の要因はテレビCMを開始した「魔法使いと黒猫のウィズ」の大ヒットが1番大きい。リリースしたばかりの「蒼の三国志」も既に月商1億を突破しているとのことで、「プロ野球PRIDE」含めてランキング上位に入っている数が多い。またヒット率も高い。このようにスマートフォン向けゲームでヒットを飛ばし、時流に乗るベンチャー企業のコロプラは2013年7〜9月期の決算は売上高が前年同期比3倍、営業利益が同3.7倍の好業績をたたき出している。

しかし、今やスマホ向けゲーム会社としてすっかり有名になったコロプラであるが、実は開設以来、もう3年目になる「コロプラおでかけ研究所」というシンクタンクがある。「位置ゲー」と呼ばれる同社のゲームに日々蓄積されていく携帯電話やスマートフォンの位置情報を統計処理し、「人の移動」に関する様々な傾向を解析している。2013年7月にはKDDIの位置情報データを活用したビッグデータの実証実験(観光支援や地域振興に活用する観光動態分析)を開始した。2013年10月には第二弾として実証実験を事業化(スマートフォン利用者から取得した位置情報を使った観光地の動態調査レポートを提供する)まで推し進めると発表した。多数のスマホから取得した位置情報のビッグデータを匿名化して、観光地エリアへの流入経路や交通手段、観光地での人の滞在状況などを解析する。分析結果を、交通環境整備や観光施設の充実などに役立ててもらうことが狙いだ。レポートを有償で提供する対象は、公共性を持つ官公庁や地方自治体、公共団体、観光協会などに限っているが、東日本大震災で被害が甚大だった宮城県、岩手県、福島県の3県にはレポートを無料で提供している。位置情報データは、KDDIが許諾を得た利用者のスマホから取得したもので、匿名化する加工を施した上でデータ解析をコロプラに委託した。レポートでは観光客の動態が、性別や年齢層別で周遊や滞在の傾向、時間帯ごとの人口や流出入の状況が分かるようになっているという。解析に当たっては、KDDIがコロプラと契約を結び、スマホユーザーを特定したり第三者にデータ解析を委託したりしないなどを義務付けているとのことだ。またコロプラはテレビ広告も積極的に行っている。実際にテレビで広告を行うことによってダウンロード数が伸びていることから、今後もテレビでの広告宣伝には注力することだろう。

株式会社コロプラ決算発表資料より

(出典:株式会社コロプラ決算発表資料より)

LINEの好調の要因と課題とは

好調の要因

  • 気軽で使いやすいことが若者に支持された。また電話帳情報の取得は一部では評判が悪いが、そのようなことを気にしない(特に若者)ユーザーにとっては、知り合いもLINEを利用したことがわかるため、その相手にLINEでコミュニケーションができるようになる。
  • スタンプがかわいくて楽しい。スタンプはデフォルトでいくつかプリインストールされているが、毎回同じスタンプだと相手も飽きるので、ついつい購入してしまう。または企業が提供しているスタンプを利用してしまう(これによって企業はそのユーザーに対して、お知らせなどを送信できる
     ようになる)。
  • メールの代替プラットフォームとして成長した。MNP(モバイルナンバーポータビリティ)でユーザーが携帯電話会社を変更する、つまりメールアドレスが変わった場合、かつては友人や知人に新しいメールアドレスを知らせなければならなかった。しかしLINEの場合、IDは変わらないのでそのまま利用できる。すなわちユーザーがMNPで携帯電話会社を変更しても、友人への連絡は不要である。これも利便性の1つだろう。
  • 法人からもお知らせ通知のプラットフォームとして活用されている。
  • 多くのゲームも提供している。

課題

  • 同様の新サービスが登場してきて、ユーザーが一斉に新サービスの方に移行してしまう可能性が存在していることが課題であろう。
    「一寸先は闇」なのがこの業界だ。

mixiの戦略とは?

mixiは突然の足跡機能の削除などユーザーからの批判があるなど、戦略があるようで、見えにくい会社であった。現在でも同社の戦略は見えにくい。同社のつまずきの最大の要因はFacebookやTwitterにユーザーを奪われたことにある。SNSは基盤となるユーザーの数が重要であり、その数が減少しているのは致命的だった。一度離れたユーザーを取り戻すのは相当に大変である。立て直し策として多くのアプリや「ノハナ」(フォトブックサービス)を提供しているが、mixiというユーザー基盤(プラットフォーム)がもっとしっかりしていれば、それらの普及ももっと順調だったのではないだろうか。LINEが順調なのは、無料で登録したメッセンジャーを利用しているユーザーに対してゲームやらカメラなどのアプリを提供できる。「ついでに利用」というところから普及していくことが可能であるが、ユーザーが去ってしまったプラットフォームでは、そのような展開も難しいだろう。

また同社ではスマホ向けアプリやサービス提供が遅かった。2013年5月にはスマホアプリを2本から50本にすると宣言していたが、その時点でスマホのアプリが2本しかなかったのは時代を読めていなかったのではないだろうか。mixiの主要ターゲットである若者は「ネットはスマホで」という市場環境を読めていなかったのかと思うと残念である。

また同社は外部事業への積極投資も新社長の方針の1つで、7月1日に投資子会社「アイ・マーキュリーキャピタル株式会社」を設立したので、キャッシュがあるうちに投資会社になるのも1つの手かもしれない。同様にDeNAも2013年11月にベンチャー投資推進室を新設した。今後、インターネット企業は投資や買収なども強化していくことが伺える。

まとめ

インターネット業界は栄枯盛衰が激しく事業からの撤退も多い業界である。それでも今回紹介した企業の多くは「なんだかんだともう10年以上事業を展開」している。現在正念場である企業は昨日までは勝者だった、現在栄華を極めている企業も10年の積み重ねがあった。そして新たに登場した企業でも「一発当てるチャンス」がある業界である。各社が市場環境に合わせて多くのサービスを試行錯誤しながら提供してきた。これからも国内外の市場環境に合わせて提供していくことだろう。重要なのは「何をいつ出すか」でその何(コンテンツ、サービス)を開発、展開していくためのリソース(資金、人材、アイディア)である。そしてこの業界は人と資本(お金)の流動性が非常に高い業界であり、業界の新陳代謝も激しい。今後もこの業界では多くの企業が登場、撤退することがあるだろう。しかし、たとえ1つの会社として永続できなくとも、インターネット業界全体として成長していくことが重要である。そしてそのインターネット業界が人と資本を惹きつけられる業界であり続けることが重要である。

株式会社コロプラ決算発表資料より

※コロプラは2003年から社長の馬場氏が個人でゲームを開発、提供していたが2008年に法人化した。
(出典:各種公開情報を元に作成)

本情報は2013年11月30日時点のものである。

佐藤 仁

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