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2011年4月19日掲載

フィリピン政府の大震災への取組:緊急時SMS(エリアメール)サービスの開始

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年4月15日、フィリピン政府は大災害や緊急事態時に、パニックを防ぐ為に政府からの「Official Text Message」という情報配信を実施するサービスを立ち上げたとの発表をした。政府は台風、洪水、地震や緊急事態の際に、フィリピンの主要通信事業者の加入者に対してSMSでメッセージを発信することによってパニックを防ぐことを目的としている。

 フィリピンは毎年、台風とそれに伴う洪水による被害者が多い。また地震による被害も多い。2011年3月21日にも地震があったばかりだ。

 SMSの受信料は無料で、1456の番号から送付されてくる。SMSなのでローエンド、ハイエンド問わずほとんどの端末で受信が可能だ。フィリピンは田舎の方ではテレビはないが、携帯電話は持っているという人が多い。プリペイドが90%以上だが、2010年9月時点での携帯電話普及率は約96%と高い。緊急事態が発生した場合、情報が不足し、パニックになってしまうことが一番怖いし、今回の日本での東日本大震災を見ていても、正確な情報伝達が重要であることは言うまでもない。
 またフィリピン人の多くはSMSを頻繁に利用している。余談だが、今回の東日本大震災時にも、フィリピン赤十字社はSMSを活用しての募金で日本を支援してくれた。
フィリピン政府は今回の取組を、"bogus alarmist messages that cause unnecessary panic" (パニックを起こすデマ)からの回避を目的としている。bogusはインチキという意味で、alarmistは人騒がせという意味らしい。

 フィリピン政府「Presidential Communications Operations Office (PCOO)」のHerminio Coloma Jr.氏は、今回の施策によって台風、洪水、地震のような緊急事態でも市民が落ち着いて行動できるようなシステムを提供することによって、パニックを避ける為に正確な情報を市民に伝えることが政府の重要な役割であると述べている。このシステムは、情報がSMSで配信されるので通信事業者の協力なしでは成立しえない。大震災時には相当なSMS配信数が想定されるが、今回のフィリピン政府の施策に対して、フィリピンの通信事業者も非常に協力的である。また大震災時に市民が、政府機関「National Disaster Risk Reduction Management Council」にホットラインで電話できる番号を用意した。フィリピン政府がいつからこのサービスを構想していたのかは表明していないが、今回の日本での大震災を受けてのサービス提供だとすると、官民一体となっての非常に素早い対応だと言える。

 政府は今回の発表の中で、日本での地震や津波、放射能についての事例についても以下のように触れている。フィリピン政府も今回の日本の大震災を受けて、多くのことを学んだのだろう。

After the Japan earthquake and tsunami, the radiation scare, the New Zealand earthquake and all natural and man-made disasters that happened recently, it would be of great service to the public if government can provide an official, quick and accurate statement in times of calamities and disasters.

 日本では、2007年からエリアメール(緊急地震速報)と呼ばれるサービスがある。今回の東日本大震災、その後の余震の際にも関東、東北地方に住む多くの方は受信しただろう。また緊急地震速報以外にも、内閣官房(政府)から「節電のお願い」に関するメッセージも配信された。現時点では日本では受信できる端末が限られている。スマートフォン等の一部の端末には対応をしていない。今回の大震災を通じて、改めてエリアメールの重要性を痛感した人も多いのではないだろうか。今後日本の通信事業者でもスマートフォンでのエリアメールの対応を検討していくと表明している。

 日本には2007年から、このような「エリアサービス」、「緊急地震速報」というサービスがあった。これは通信事業者を問わず、対応可能な端末であれば受信ができる。今後はこのようなサービスの活用事例やシステム構築を海外の震災の多い地域や国に対して技術支援を行うこともできるのではないだろうか。今後このようなサービスが活用されないことが望ましいだろうが、世界にはまだ大震災、台風、洪水が後を絶たない。

 携帯電話は今や生活に不可欠なインフラになっている。伝達手段としての情報通信技術の重要性と、配信される情報の正確性は更に重要であることは言うまでもない。 今回の東日本大震災を通じての情報通信分野における震災時の日本の事例や経験を今後、日本や世界に対して活かしていくことができるのではないだろうか。

 最後になりましたが、今回の被災に遭われた方々には心より御見舞申し上げます。また被災地の早急な復興を祈願します。

(参考サイト)

(参考) 電力の供給確保と無線の活用、通信インフラの弱点に備える

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