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Global Perspective 2011
2011年6月8日掲載

イギリス:ロイヤル・ウェディングにみる心理的経済効果

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年4月29日に行われたイギリスのロイヤル・ウェディングでのT-Mobileの広告およびイギリスの経済効果について概観してみたい。

 4月29日、ロンドンにてウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの結婚式が行われた。キャメロン首相は、この日を国民の祝日とすることを決めた。結婚式場は1997年にダイアナ妃の葬儀が行われたウェストミンスター寺院であった。イギリスでは世紀のロイヤル・ウェディングを記念して多くの記念品が発売されていた。記念切手やコインから冷蔵庫や携帯電話にもロイヤル・ウェディングを記念したプロダクトが販売されていた。王室好きのイギリスではロイヤル・ウェディングブームの活況を呈していた。

 携帯電話メーカーのアルカテルはユニオンジャックに装飾されたロイヤル・ウェディング携帯電話を、14.95ポンド(約2,000円)で販売していた。(期間限定なので、現在は販売されていない)同端末は廉価端末で搭載されている機能は少ないが、メンデルスゾーン「結婚行進曲」イギリス国歌「God
Save The Queen」
などのリングトーンがインストールされていた。(詳細は以下動画参照)

【動画:アルカテルから販売されたロイヤル・ウェディング携帯電話(2011年)】

【動画:ロイヤル・ウェディング携帯電話について報道するドイツのテレビ(2011年)】

 続いて、イギリス通信事業者T-Mobileのロイヤル・ウェディングでのテレビ広告について見てみたい。同社では以前から「Life's for Sharing」をコンセプトとして、多くの人たちがダンスする宣伝広告を実施していた。今回はロイヤル・ウェディングバージョンで、ウィリアム王子やケイト嬢、王室に扮する人たちが、ダンスしてくる宣伝広告を作成した。「East17」という1990年代前半に流行したグループの音楽が、今回T-Mobileの広告に起用され、Youtubeにおいて2011年4月21日時点で120万回再生されたとの報道があった。(2011年6月6日時点で、同動画は約222万回再生されている)

【動画:T-Mobileのウェディング広告(2011年)】

【動画:T-Mobileのウェディング広告のメイキングビデオ紹介(2011年)】

【動画:T-MobileのLife's for Sharingのダンス広告の1つ(2011年)】

 最後に、ロイヤル・ウェディングの経済効果についてみてみたい。
2010年にイギリス調査会社Verdictが発表した今回のロイヤル・ウェディングの経済効果は合計820億円以上になるだろうとの報道があった。調査会社Centre for Retail Researchと通販サイトKelkooによると、5億2700万ポンド(約730億円)経済効果を見込んでいるとの発表していた。
 PwCが2011年4月21日に発表した予測によると、ロンドンを訪問する人々による経済的効果は、1億700万ポンド(約140億円)に達すると推計していた。
情報通信分野の予測を見てみると、テレビで2,000万人以上、インターネット経由では50万人、携帯電話では5.1万人がロイヤル・ウェディングを視聴すると予想されていた。Youtubeは、ロイヤル・ウェディングの専用ページも開設し、ストリーミングで世界中に配信していた。動画再生数も100万回を超える動画も多数ある。

 一方で、調査会社IHS Global Insightはロイヤル・ウェディングでそれほど経済的効果はないのではないかと推測していた。むしろ、祝日が1日増えたことによる経済への打撃を懸念していた。投資会社のエコノミストPhilip Shaw氏も、祝日が1日増えることで労働者が働かないことになり、ロイヤル・ウェディングがイギリス経済にとってマイナスになると、CNNは伝えていた。
 どの程度の経済効果があったのかは今後数値が出てくることを待ちたい。個人的には、経済効果がマクロで見て経済やGDPにマイナスの影響を与えたとしても、イギリス国民が待ち望んでいたロイヤル・ウェディングとそれに伴う消費ブームで活況を呈していた消費者マインドの経済効果の方が大きいのではないか、と考える。「記念だから買おう。せっかくの機会だから行ってみよう。」と財布の紐が緩むことによる経済効果の方が、祝日が増えて労働者が働かなくなるよりも大きいだろう。アルカテルのロイヤル・ウェディング携帯電話ももう購入できない。その時にしか買えないものを買っておこう、と消費者心理を刺激するイベントでの経済効果は大きい。

 イギリスでは2011年のロイヤル・ウェディングに続いて、2012年にはオリンピックを控えている。イギリス国民の消費マインドがオープンになり、更なる経済効果に貢献することを期待したい。

 キャメロン首相はロンドンオリンピック跡地を「ロンドンのシリコンバレー」にすると発表している。今、イギリスはICTの分野においてもホットである。引き続き注目していきたい。

 なお本稿は、T&S2011年4月号での小職執筆の記事「イギリス:ロイヤル・ウェディング記念携帯電話」を元に、T-Mobileの広告活動およびイギリスの経済効果について書き直したものである。

本情報は2011年6月6日時点のものである。

(参考サイト)The Royal Wedding official site

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