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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<海外>

「欧州連合における電気通信の自由化」

(96.08)


 英国を除く欧州諸国においては、電気通信の自由化は遅れている、というのがわが国での一般的な見方であった。しかし、欧州連合レベルで競争導入政策が次々と実施されてきており、世界貿易機関(WTO)における基本電気通信交渉において、欧州の自由化オファー(提案)は日本のオファーよりもドラスティックな内容であると評価されるまでになっている。
 本論文において、欧州における自由化の流れを概観する。

  1. 電気通信政策の誕生(1980年代前半)
  2. 電気通信政策の確立(1986年〜1992年)
  3. 電気通信政策の発展(1992年〜)


1.電気通信政策の誕生(1980年代前半)
 欧州域内では長い間PTT(電気通信主管庁)による独占が一般的であり、電気通信の自由化の萌芽が見られ始めたのは1980年代前半のことであった。この時期には、自由化よりも調和化(欧州統一市場に向けた動き)に重点を置いた勧告がいくつか発出された。
2.電気通信政策の確立(1986年〜1992年)
 欧州は、この時期に入り政策の対象を規制関連事項及び自由化まで拡大した。しかし、自由化の対象とされたのは付加価値サービスと端末機器のみであり、インフラと基本サービス(音声電話など)については依然としてPTTによる独占的な提供が容認されていたことを銘記しなければならない。
図:欧州連合の主要な電気通信政策文書(39k)

2-1: 電気通信サービス・機器の共同市場発展に関するグリーンペーパー(87年6月)
 EC委員会は87年6月、「電気通信サービス・機器の共同市場発展に関するグリーンペーパー」(以下、電気通信に関するグリーンペーパー)を発出した。
 グリーンペーパーは諮問文書であり、それ自身は法的拘束力を持たない。グリーンペーパー公表後諮問が実施され、EC委員会(欧州委員会)がその結果をコミュニケーションとして公表する。その後、グリーンペーパーの中で規定される方針に基づいて指令など様々な法的文書が発出される。
 特に、この「電気通信に関するグリーンペーパー」は、現在に至るまでの欧州のすべての電気通信政策の根幹をなすものとして、非常に重要な意味を持つ。本グリーンペーパーの提言内容は表1のとおりである。
 本グリーンペーパーは、このほか、電気通信市場の状況の見直しを5年後に実施することを規定している。

2-2:アクション・プログラム(88年2月)
 「電気通信に関するグリーンペーパー」で明らかにされた方針の実行に向け、EC委員会は88年2月、「アクション・プログラム」を採択した。具体的な施策とそのスケジュールが本プログラムで明示されている。

2-3: 電気通信サービスの市場の競争に関する第90条指令(90年6月)
 「アクション・プログラム」を受け、EC委員会は90年6月、「電気通信サービスの市場の競争に関する第90条指令」(以下、サービス自由化指令)を採択し、電気通信分野で初めて、強い法的拘束力を持つ「指令」という形態で政策を具体化した。
3.電気通信政策の発展(1992年〜)
 93年1月の市場統合、同年11月の欧州連合発足と平行して、電気通信政策もこの時期にドラスティックな変革期を迎えた。自由化の対象として基本サービスおよびインフラストラクチャーが新たに加えられ、汎欧州網の一角をなすものとして情報通信基盤の整備の重要性がより一層強調されるようになった。
3-1:
コミュニケーション 「電気通信サービス分野における状況の見直し」(92年10月)
理事会決議「電気通信分野における状況の見直しと同市場の更なる発展の必要性」(93年6月)
 「電気通信に関するグリーンペーパー」での規定に基づき、EC委員会は92年10月、コミュニケーション「電気通信サービス分野における状況の見直し」(以下、状況の見直し)を採択した。EC委員会は、欧州の電気通信市場の成長を促進するために、4つの政策オプションを提示した。
 EC委員会は、(4)の政策が望ましいとした上で公的諮問を実施した。
 諮問期間終了後、各界からの意見を取りまとめ、EC委員会は翌93年4月、コミュニケーション「電気通信分野における状況の見直しに関する諮問結果」を採択した。EC委員会は、「状況の見直し」における提案を翻し、98年までに基本音声電話サービスを全面的に自由化するという政策を打出した。その後、6月の電気通信閣僚理事会において、詳細な検討がなされた結果、多少の変更を経て理事会決議「電気通信分野における状況の見直しと同市場の更なる発展の必要性」が採択された。本決議により、基本音声電話サービスの自由化期限が原則として98年1月1日に設定された。

3-2:
「電気通信インフラとCATV網の自由化に関するグリーンペーパー(第1部)」(94年10月採択)
「電気通信インフラとCATV網の自由化に関するグリーンペーパー(第2部)」(95年1月採択)
「状況の見直し」を受けて、「電気通信インフラとCATV網の自由化に関するグリーンペーパー」(以下、インフラに関するグリーンペーパー)が作成された。この時点でようやく、インフラの自由化期限が98年1月1日に設定された。基本音声電話サービスの自由化と同様、ネットワークが発展途上の国およびネットワークの規模が小さい国に対して猶予期間が設けられている。

3-3:
「CATV網の自由化に関する第90条指令」(95年10月最終採択)
「電気通信の完全な自由化に関する第90条指令」(96年3月最終採択)
 95年に入り自由化のスピードを加速した欧州委員会は、「インフラに関するグリーンペーパー」を受け、96年にかけて標記の指令を次々と採択した。これらの指令により、次のような自由化期限が法的拘束力を持つものとして制定された。

98年1月1日をもって、欧州の電気通信市場は完全に開放されることになる。

注:EC/EUの表記について
1993年11月1日にマーストリヒト条約が発効したことにより、従来のEC(欧州共同体)はEU(欧州連合)へと発展吸収された。本稿では、マーストリヒト条約発効以前の事象については「EC」および「EC委員会」、発効以後の事象については「EU」および「欧州委員会」の名称をそれぞれ用いる。

(海外調査第一部:光山 奈保子)

(入稿:1996.08)

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