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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「インターネットビジネスの虚像と実像III」

(96.12)

先月の「インターネットビジネスの虚像と実像II」の続編です。
  1. イントラネットの可能性
  2. ウォールストリートの現実
  3. 統合の時代

5.イントラネットの可能性
 米国企業文化の申し子であるイントラネットの普及も、日本ではハードルが多く普及は簡単ではないだろう。日本企業は、いまなお情報の戦略的利用よりも、「近代」の継続である生産性の向上を最も追求するという機能主義にある。そのために、今日まで汎用性の高いパソコンLANよりも、自社の業務スペックに沿った独自仕様の企業内情報システム・工業用ロボットにより膨大な投資を続け、構築してきた。事実日本企業のパソコンLANの普及率は、米国企業と比べて非常に低く8:1もの格差がある。

 さらに所詮データベースの共有、社内情報の共有でしかないイントラネットは、それ自体、企業全体の生産性を大幅に向上するものではない。また、既存システムとイントラネットとの相互接続は容易な作業ではない。日本企業のインターネットサーバー設置率も約6〜7%程度であり、オフィススペース、全社員パソコン保有などの企業文化やビジネススタイルが米国とはまったく異なっている。 SISやグループウェア、ボイスメールらが日本企業に十分に浸透しなかったのを考えれば、それらの姿を変えたともいえるイントラネットの本格的な活用には非常に時間がかかるだろう。まして企業間取引、エクストラネット、かつてのCALSなどへの進展は、学問上の理論としては正しいが、商習慣などでの日本企業の実態が追いつくには遠い世界であり、日本企業のドラスティックな自己改革が本当に起こりうるかは疑問である。むしろ日本的スタイルにあったイントラネットのアプリケーションが本当に必要とされている。

6.ウォールストリートの現実
インターネット・ビジネスの将来を考える上で、最も指標としてわかりやすいのは、インターネット関連株への投資状況である。しかしウォールストリートの神話は崩れつつある。

ニューヨークの債券・株式市場は史上最高の様相を呈し、米国経済の復活を支えている。ハイテク・ベンチャー株への投資ブームは、まさに市場全体をけん引してきた。マイクロソフト、サンマイクロなどの大手企業の平均株価は、ここ数年あがり続けている (図1:マイクロソフトの株価推移)

良く知られているように95年8月に28ドルで公開したネットスケープは、初日に58ドルをつけ最高87ドルに達した。さらに、ヤフーやサイバーキャッシュなどインターネット関連株は同じ神話を繰り返した。インターネット・ビジネスでは、一度成功するとネットワークを経由して世界規模に市場が広がり、巨大なマネーが転がり込む。株価の好調を受けて、ミューチュアルファンドが拡大し、個人も預貯金や耐久消費財の購買よりも財テクに走りだした。96年4月に13ドルで公開したヤフー株は、同月43ドルまで上げ、電子マネーのサイバーキャッシュにいたっては、96年2月に17ドルの公開価格が6月に最高64ドルまで上げ市場は熱狂した。これはかつてのNTT株を思わせる。今年6月までは、ほとんどの投資家がインターネットの未来を信じて疑うことはなかった。

 しかし、ネットスケープを除けば、買われていた企業に株価ほどの実体的な価値がないことに気付き、投資家が現実を直視するのに多くの時間は要さなかった。今年3月より、ニューヨークの債券株式市場は、雇用統計を中心とした政府発表の統計数値に揺れ動いていた1[吉澤1][吉澤2]。景気動向を示す失業者数が予想を超えて減少していた場合、市場に金利引き上げの懸念が広がり、全体的には高値ながらも揺れ動き株が売られた。しかし、大統領選もあり通貨当局は金利を据え置き続けたため、ますます株価は景気動向と雇用者統計の発表に過敏になっていた。これも手伝って、第2四半期で各社の業績が改善されず、赤字を拡大しつづけていることが発表された7月頃から、インターネット関連株価は総崩れを始めていた(図参照)。

 図表にあげたように、最も代表的なインターネット関連ビジネスの業績と株価の推移を追跡してみると、実にウォールストリートの過大な期待が消滅し、株が売られ続けたかが明らかである。これは日本のマスコミに、ほとんどまともに採り上げられなかったが、最高時と比較してヤフー、インフォシーク株で約1/3、サイバーキャッシュ株で約2/5、ネットコム株で約1/7以上、PSI株で約1/4も下げた。業績をみると各社とも、赤字を拡大、ネットコムでは第1四半期の倍以上の赤字を計上しており、売上高利益率で考えれば、回復のまともなメドもない。最低価格と比べて、現在では反動で値段が若干回復したが、かつての神話はもはや完全に崩壊した。投資家は次のマイクロソフトを夢見て投資を続けたが、結局のところ「次のマイクロソフトはマイクロソフトだ」とより現実的になったのだ。ヤフーやインフォシークなど広告に収入を依存するディレクトリーサービスは、市場に将来的な好材料を与えるために広告支出を増大させ、インターネット広告の売上高拡大を図った。しかしながら、費用拡大のために、利益は依然として赤字を拡大している。

 もはや、インターネット・ビジネスの将来性の見込みは、大手ソフト会社、サンやIBMなどの大手ハードメーカー以外にはないというのが、ウォールストリートの現実である。

7.統合の時代
 今日のインターネット報道のように、現実を無視し、好材料だけを見て振り回されていては、本当の将来動向をまったく見誤ってしまう。成長神話に盲目的に酔いしれている場合ではないのだ。

 だが、先に述べたように、決してインターネット・ビジネスに悲観的になる必要はない。ゴールドラッシュに走るベンチャーの将来は明るいものではないが、体力のある大企業は、引き続きインターネットに金を使い続けるからだ。

 おそらく1〜2年後には、金を掘り当てようとしたコンテンツビジネスは、結局撤退するか、道具屋である大手ソフト会社、ハードメーカー、電話会社等に買収され、業界の垂直・水平統合が進むだろう。インターネット上のコンテンツは、それ自体がビジネスとしてではなく、大資本によるシェア獲得の手段として位置づけられ、資金が投入され続けるだろう。

 大手ソフト会社、ハードベンダーなどの体力のある企業は、さらに体力のないISPの買収を手掛け、川上・川下の統合が進行する。その狙いは、サービスのコンテンツから流通までをバンドリングして顧客に提供することでシェア獲得競争に走り、自社技術のデファクトスタンダード化を図り、世界規模のマーケットを手中に収めようという戦略である。長期的にこれら大手企業は、インターネットと既存メディアとのメディアミックス戦略を図り、出版、テレビ、衛星等の経営権の掌握に走り、世界規模のメディア大連合を目指していく。その結果、市場は少数の勝者に淘汰され、スタンダードが確立し、独占的な支配者と新たなチャレンジャーとの競合という形が繰り返されると予測される。

 ベンチャー企業は、これら大手といかに上手く付き合い闘うかで成功が決まってくる。日本のベンチャー育成が叫ばれているが、インターネットの本質的問題を掘り下げ、検討した投資を行わなければ、この世界の成功は訪れにくいだろう。

(マーケティング調査部 吉澤 寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1996.12)

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