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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「インターネットビジネスの虚像と実像II」

(96.11)

前回、インターネット・ビジネスの現実として、コンテンツの問題を扱ってきた。インターネット上の情報がビジネスとしてユーザに受け入れられ、機能するためには、いますでに存在する「リアリティ」を超えるだけの「価値」が必要である。
しかしながら、今日期待されるようにインターネット上で経済モデルが本格的に機能するためには、次に述べるようにあまりにも多くのハードルが横たわっている。
  1. 将来の問題
  2. 期待の信憑性
  3. 成長と技術の神話
  4. イントラネットの可能性

1.将来の問題<3つのシナリオ>
果たして、今日恐るべきペースで成長し続けてきたインターネットの今後はどうなっていくのか。インターネット・ビジネスの将来については、次のような3つのシナリオが考えられる。
  1. インターネット・ビジネスが現在、十分な利益を得られないのは、まだ普及期の段階にあるからだ。テクノロジーの発達によって、セキュリティ、通信速度、採算性などの問題は、企業の研究開発への取り組みやアイデアによって解決される。イントラネットは、やがて企業間取引へと発展し、導入に遅れた企業は取り残される。これらがやがてビジネスのやり方、人々の生活様式をも大きく変革していく。

  2. 情報提供者やインターネット関連企業による先行投資が過大になりつつあるが、ビジネスモデルが確立しないため、今のところそれらが回収される見込みは立たない。イントラネットの進展も日本では期待ほど進まない。インターネットは今後も幅広く使われ続けているが、インターネット・ビジネスへの過剰な投資ブームは熱がさめ、ビジネスとしてのマーケットは人々の期待よりも下回る。また、多くのインターネット関連企業は間もなく淘汰され、市場を握るのはごく一部の大資本に集約される。

  3. メトカフの予言のように、インターネットトラフィックの果てしない増大が、設備を崩壊させる。インターネットには大量の情報をさばく容量もなく、問題を解決する組織力もない。接続不能状態がつづき、電子メールは配信不能、社会は大混乱となり、インターネット関連株は大暴落する。

今日、ほとんどの人が1)を支持している。筆者も含めこれを実現することは、誰もが望んでいることだが、その根拠を調べていくとはっきりと確信できるものではない。米国で広告収入やショッピングの売上規模は非常に小さいが、今のところ拡大しつつあるから、決して悲観的になりすぎる必要もない。しかし普及促進期が終わったとき、果たしてこれまでの投資を本当に回収できるメドがあるのかが怪しいのも事実だ。米国でのインターネット加入数の増加率は、ここのところ落ち始めてきている。すでに述べたように、インターネット・ビジネスが、今後十分成り立つための力強いファクターは今のところ見当たらない。

3.のメトカフの崩壊説はあまりにも極端に聞こえる。インターネット自体が崩壊することはないだろう。しかし、現在の過剰なブームと投資が漫然と続けられ、ソフト会社、ハードメーカー、マスコミが単純にブームを煽り続ける限り、2.のシナリオを歩んでしまう可能性が多大にある。ベンチャーへの安易な投資のための投資ではなく、各企業が冷静にインターネットのビジネスモデル作りを行わねばならない。

2.期待の信憑性
多くの人が現在の状況にあまりに楽観的すぎる。では、今日なぜこれほどまでに人々の期待をかき立て続けるのか。それは、次のような理由がある。
  1. 政治宣伝色の濃厚な情報スーパーハイウェイ構想。第三の波論。そして現実として起こったインターネットユーザの爆発的拡大。

  2. ネットスケープシンドローム。実力のないベンチャー企業への先高期待感による投資ブーム。米国ハイテク関連株上昇による米国経済の復活。 

  3. コンテンツ提供者による情報の無料提供。収入源としてのウェッブ広告・EC(エレクトロニック・コマース)への期待。

  4. 動画・インターネット電話・マルチキャストといったソフトウェア技術の進歩。

  5. マイクロプロセッサーの超高速化などハードの技術的進歩。

  6. FTTH・ケーブルモデム・ADSLなどのアクセス回線高速化。価格低下への期待。

  7. イントラネット、エクストラネットなどビジネスアプリケーションの拡大。
これらは、相互に網目のように影響し、相乗的な効果をあげながら今日のインターネット・ブームを作り上げている。しかし将来にわたって、これらのうちどれが本当にホンモノとなりうるのか。コンテンツ事業者の問題は前回の(I)で触れたが、インターネットの今後が本当に楽観的であるかを考えるために、その他の点を各々検証していく必要がある。

3.成長と技術の神話
世界規模でインターネット・ユーザ数が拡大し続けていることは、統計データが示している通りである。しかし、あらゆるインターネットに関する将来予測が、安易に現在の伸びを直線的に延長したものか、右上がり曲線となっているのは、あまりにも神話的と言わざるを得ない。最近AOL、ネットコムなどの大手プロバイダーの米国内の加入数の増加の勢いが落ちてきた。また普及率35%を越えたところで、米国の家庭向けPCの需要も一巡し、落ち始めてきている。まだまだユーザ数が伸びるという前提に立ち、回線への投資を重ねてきたネットコムやPSIは、利益が出ず赤字は拡大しつつある。インターネットサービスプロバイダー(ISP)は、本来回線が混雑していて儲かるビジネスだが、現在の状況で本当に将来黒字に転換できるのか、疑問をはさむ余地がある。まして回線コストが数倍以上高い日本のプロバイダーの将来も決してバラ色ではない。

ソフトウェアやハードウェアの技術的進歩の問題は、否定すべくもない。しかし、インターネットを取り巻く今日の状況で、それがどこまで利用者にとっての「価値」を作り出しうるかは、別問題だ。 技術と科学の進展がまさに人類の歴史を変えてきた。それはデカルト以来の「自然」と「理性」いう二項対立の図式上に、近代科学という「理性」が近代合理主義と管理の技術を発達させ、さらに人間生活にかかわる「感性」の部分をも変容させてきた。今日、「理性」のみならず「感性」の部分に新たなテクノロジーを導入するマルチメディアへの期待が高まるのは当然だ。しかしネットワークとの接続によって、まったく新しく出現するメディアにとっては、それはDVDやCDの登場などの「ディジタル化」による、旧アナログ技術の単純な「代替」とは、同じように簡単に成功しない。

インターネットやマルチメディアがこれから代替/拡張していく対象は、旧技術による既存の電子メディアそのものではなく、より範囲の広い、ビジネス行動、ショッピング、娯楽といった、長年の歴史を有し、実に多彩な複雑性をもった非電子的な人間のリアリティの世界である。これは、サイバースペースという言葉で示されるように、テクノロジーだけでは解決できない複雑な社会システムをも伴っている。さらに後述するような技術的制約、ビジネスモデル上の制約が加わってくる。それ故に、これは簡単なことではない。

「感性」にとっての価値とは相対的な指標でしかない。テクノロジーの進歩はかつて人間の「感性」をも変容させてきた。これは一般的に両者は関係がないと見られがちだが、例えばアートや音楽の分野では、テクノロジーの発展が芸術の領域を拡大、発展させてきた。しかしそれと同時に、芸術の歴史上「感性」にとって旧来の「価値」「効用」を超えられない技術は、消滅し続けてきたことも事実だ。「感性」にとっての価値とは、絶対的なものではなく他者との比較である。インターネットが、娯楽など「感性」に大きく支配される領域に訴えるためには、パッケージ系のビデオゲーム、DVDと同等かそれを超えなければならない。しかし、それは容易な業ではない。

ネットワーク系のメディアの最大の制約条件として、パッケージ系との「相対的」な関係がある。しかし、よく知られているように地上系のローカルアクセス回線の高速化は、極端な表現をすれば日本中の脇道道路を引き直すのに似ている。これは主要幹線にハイウェイを通せば済む話ではない。回線コストは低コスト化するが、ケーブルの敷設作業は改善されつつあるものの、あくまでも労働集約的でコストは高い。米国のケーブル回線ですら、7割近くが片方向のツリー状であり、再構築の投資コストは膨大である。米国のCATVによるVODの失敗が、この点をすでに証明した。パッケージ系との「相対的」な関係で優位に立つ可能性があるのは、今のところ衛星データ放送の技術だけである。

4.イントラネットの可能性
米国企業文化の申し子であるイントラネットの普及も、日本ではハードルが多く普及は簡単ではないだろう。日本企業は、いまなお情報の戦略的利用よりも、モダニズムの継続である生産性の向上を最も追求するという機能主義にある。そのために、今日まで汎用性の高いPC−LANよりも、自社の業務スペックに沿った独自仕様の企業内情報システム・工業用ロボットにより膨大な投資を続け、構築してきた。事実日本企業のPC−LANの導入率は、米国企業と比べて非常に低い。

さらに所詮データベースの共有、社内情報の共有でしかないイントラネットは、それ自体、企業全体の生産性を大幅に向上するものではない。また、既存システムとイントラネットとの相互接続は容易な作業ではない。日本企業のインターネットサーバー設置率も約6〜7%程度であり、オフィススペース、全社員パソコン保有などの企業文化やビジネススタイルが米国とはまったく異なっている。 SISやグループウェア、ボイスメールらが日本企業に十分に浸透しなかったのを考えれば、それらの姿を変えたともいえるイントラネットの本格的な活用には非常に時間がかかるだろう。まして企業間取引、エクストラネット、かつてのCALSなどへの進展は、学問上の理論としては正しいが、商習慣などでの日本企業の実態が追いつくには遠い世界であり、日本企業のドラスティックな自己改革が本当に起こりうるかは疑問である。むしろ日本的スタイルにあったイントラネットのアプリケーションが本当に必要とされているが。 (次号へ続く)

(マーケティング調査部 吉澤 寛保)
e-mail:yosizawa@icr.co.jp

(入稿:1996.11)

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