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2006年1月掲載

FCC、競争が進展した地域での既存地域事業者の義務を軽減

----競争事業者への設備貸与(アンバンドリング)義務を一部免除。支配的事業者としての重い規制も廃止----
----FCC委員長は「1996年電気通信法の初の果実。画期的な義務軽減」と自賛---
----競争事業者には自前設備の充実を促す--

 FCCは、米国中央部Nebraska州Omaha地区でローカル通信市場での競争が大幅に進展したことを理由に、2005年9月に重要な節目となる決定を行った。市内/近距離通信での競争促進を最大の旗印とした1996年電気通信法により従来からの地域通信事業者(「既存地域事業者」)に課された新規競争事業者への設備貸与義務を、初めて免除する決定を行ったのである。この義務は同法の競争推進の中核となる「アンバンドリング(UNE)制度」での重要な義務である。

■アンバンドリング制度とは

 競争事業者がすべての設備や要員を手当てしていては競争参入に時間がかかるので、以前から顧客にサービス提供を行っている既存地域事業者の市内サービスをいくつかの要素に細分(unbundled)し、競争事業者は足りない要素だけを既存地域事業者に提供を要請できるようにしたのである。この「アンバンドリング制度」と平行する「リセール制度」のおかげで米国の市内加入者回線での競争事業者のシェアは20%に近づいた。
競争事業者の回線数のうち約半分はUNE制度のもとで既存地域事業者の設備の全部または一部を利用したものであり、残余の多くはリセール制度で、競争事業者自前設備によるサービスは少ない。

[FCCの統計:2004年6月末現在]
  • 加入者回線総数1億8,010万のうち競争事業者分は3,200万 (17.8%)
  • 3,200万のうち競争事業者の自前設備の加入者回線数は750万。残余は「UNE」と「リセール」による既存地域事業者の回線を借用

■今回のFCCの措置

 9月時点で公表されたのは一枚紙のプレス・レリーズのみで、細部は不明であったが、このほどようやく12月2日に命令の本文全体(約100ページ)が公示され、全容が明らかとなった。

 ポイントは、

  1. 「Omaha地区では、通信事業者ではない異業種のCATV大手事業者Cox社が電気通信事業に進出をはかり多額の設備投資を行い、既に10万を超える電話顧客を獲得しており、競争が明確に根付いたと認定して、かってのベル系地域電話会社(Mountain Bell社)を買収したQwest社が既存地域事業者として課されてきた重い義務(競争事業者の要請に従い、その必要とする設備を利用させる義務)の一部から開放する」

というものである。
 さらに、各地域で最大手の事業者は「支配的事業者」(dominant carrier)と位置づけられ、料金等のタリフの届出、料金改定やサービス中止の予告などに関し別個の重い規制にも服させられているが、

  1. 「Omaha地区ではQwestを「支配的事業者」としての規制からも開放し、救済する」

というものである。 この点をもう少し詳しく見るため、FCCのプレスレリーズと命令本文の一部を引用する。

9月のプレス・レリーズ

 2005年9月のプレス・レリーズでは、次のように述べられている。 [傍線は筆者]

  • 「FCCは本日、Qwest社から出されていた、Omaha地区で既存電話事業者としての同社に適用される法令および規制による義務からの解放の申請を、一部について容認した。Omaha MSA特有の市場特性、すなわち、Cox Communications, Inc.による競争ネットワークでのインフラへの大幅な投資等の事情に鑑み、伝統的な独占抑止のための規制の一部についてQwestを救済することとした。」

  • 「アンバンドリング義務に関し、異業種間の競争進展が目覚しい地区について、FCCはQwestに対し救済を与えるものである。具体的には、FCCは、Omaha MSAの24のwire centerのうち9について、競争事業者にUNEs(Unbundled Network Elements)を提供する義務から解放する。」

  • 「消費者市場での電話サービスについては、FCCはQwestに対し、Omaha MSA全域で、「支配的事業者」としての重い義務から解放する。具体的には、Qwestの州際消費者むけ交換アクセス・サービスおよび広帯域インターネット・アクセス・サービスの提供に関して、プライスキャップ、報酬率、タリフの15日前の届出、サービス中止/廃止の場合の60日前の予告の義務からの解放の申請を容認する。」

12月公示の命令本文(序文)

 本文の「序文」は、次のように述べている。 [傍線は筆者]

  • 「昨年Qwestは、自前設備での競争が熾烈化するなか、1996年電気通信法第10条に基づき、かっての独占電話会社という特殊事情だけにより同社に課せられている法令による諸義務の多くからの適用除外(forbearance)を申請してきた。本日、FCCは、自前設備に立脚した競争のレベルが進展し、市場力自体が消費者の利便を護れるようになり、従って規制が不要となった地域では、申請どおりこれらの諸義務の多くの適用除外を認定するものである。本件の命令により、FCCは、自前設備による競争が熾烈な場所では、喜んで規制当局としての地位から引き下がり、市場力に任せることを明確にするものである。」

  • 「 FCCは、自前設備に立脚した競争事業者が相当なレベルまで自己のネットワークを建設済みであるOmaha MSA(Metropolitan Statistic Area :統計上の地域区分)での営業区域について、1934年通信法第251条(c)(3)により定められているアンバンドリングされた回線と専用線伝送に関する義務からQwestを解放する。」

  • 「さらに、提出された証拠に基づき、Qwestの営業区域でQwestが提供している消費者市場での交換アクセスおよび広帯域サービスについて、「支配的事業者としての規制」(dominant carrier regulation)の一部の適用をも差控える(forbear)と結論した。」

  • 「第271条および第251条(c)(6)については、第251条(c)(3)関係の適用除外との関連でなされる一部の救済を例外として、Qwestが申請していたその他の点については、すべて申請を却下する。かかる認定と義務の適用除外は、ケース・バイ・ケースで判断されるべきものであり、また、FCCは普遍的なルールを定めるものではないものの、今回の命令が、Omaha地域での競争事業者のネットワークの建設とサービス提供意欲にインセンティブをもつものと期待している。そして競争が一層進展し、Qwestが希望している救済をさらに拡大できる日の来ることを期待している。」

■FCC委員長の声明

 Martin委員長は、今回の措置について「極めて画期的で重要なもの」と評価し、次のような声明を出している。[傍線は筆者]

  •  「今回の命令でFCCは、1996年電気通信法の果実を確認するものである。この法律の(議会)通過以降10年近くもの間にCox社はOmaha MSAでQwestに対抗する恐るべき競争相手となった。したがって、現実に実現した市場の事実を目の前にして、われわれは、議会が定めた「競争促進、規制緩和」の枠組や、第10条の規制の廃止/差控え(forbearance)に基づき、Qwestを伝統的な規制の適用の継続から救済することを余儀なくされたのである。」

  • 「今回の命令は、二つの点で重要である。まず、これが第251条(c )によるアンバンドリング要件を実行する関連では最初だということである。第二には、本件は、消費者市場で既存地域事業者を伝統的な「支配的事業者」としての規制から免許する最初の例となる。CoxはOmaha MSAで既に大量のインフラ投資を行っており、それを用いて10万を超える住宅およびビジネス顧客に競争的な電話サービスを提供しつつある。」

  • 「こうした(CATVと電気通信という)異業種間の競争の成功こそが、FCCがその規制差控えを注意深く行える基盤である。われわれが申請を認可したのは、Coxがもっとも多くの設備を提示した地域のみに限定され、バランスもとられている。例えば、FCCがアンバンドリング義務を免除したのは、Coxの設備が特定のwire centerごとに相当数のエンドユーザーの場所でサービス提供ができる地区だけに限られている。Coxが大幅なプレゼンスのない地域では、アンバンドリングからの救済はない。したがって、私としては、この命令は正しいバランスがとられているものと確信する。」

■電気通信事業者の義務(1934年通信法の仕組み)

 1934年通信法(1996年電気通信法により一部改正されたもの)が電気通信事業者に負わせている義務は、次のとおり「既存地域事業者」は一段重い義務となっており、「支配的事業者」にはさらに別の制約を課している。

(1) 電気通信事業者全般[第251条(a)]
  1. 相互接続の義務
  2. 所定の標準等に合わないネットワーク機能等の導入禁止

(2) 市内通信事業者[同条(b)]
  1. 「他の事業者によるリセールの拒否や差別」の禁止
  2. 番号ポータビリティ
  3. ダイアリング・パリティ
  4. 他の事業者による電柱、ダクト等へのアクセス
  5. 呼の伝送/終端のコストの相互補償

(3) 既存地域事業者[同条(b)]
  1. (2)の5項目に関する事業者間協定を誠意交渉する義務
  2. 相互接続(他の事業者の相互接続要請を、可能な限りの地点で行う義務、自己と同水準の品質保証、公正な事業者間料金で行う義務)
  3. アンバンドリング(UNEs)
  4. リセール
  5. 伝送やルーティング等に関する変更の公示
  6. コロケーション(collocation)[競争事業者の相互接続等のための機器の既存地域事業者局舎内への設置]

支配的事業者(特定の市場で最大の事業者で市場力をもつ者)
 1934年通信法による区別ではないが、FCCは「支配的事業者」について他の事業者と区別し、料金設定、タリフ届出、サービスの廃止等の予告等で重い制約を課している。


支配的事業者 非支配的事業者
料金の設定 根拠となるコスト・データの提出が必要 データ不要
料金規制には服さず。
タリフの届出と発効 最低7日前まで。通常は発効までにもっと長い期間がかかる。 1日だけの通知でファイルできる。
サービス廃止等の事前公示 60日前 30日前
営業権譲渡での簡素化手続の利用 タイプを限定

■「規制の差控え」(forbearance)

 今回のFCCの措置は、法の規定の改正なしに、規制を免除するものであるが、これは1934年通信法(1996年電気通信法により改正されたもの)第10条の「規制の差控え」という条項に基づいている。

 同条は、大要次のとおりである。

  1. FCCは、規制を差控えたほうが公益に適うと判断した場合には、法令による規制であってもこれを差控えることができること
  2. FCCは特定の地域、市場ごとに競争の進展状況を斟酌して判断するべきこと
  3. 電気通信事業者は、FCCに対し、このような「規制の差控え」を申請できること

 なお、第11条には、「規制の改革」という条項があり、FCCはすべての規則、規制を二年ごとに抜本的に洗い直し、競争の進展等で不要となったものや時代にそぐわなくなったものは、直ちに改正、廃止の手続を取るよう命じている。今回の措置は、こうした方針をも帯したものである。

■異業種間の競争でもOK

 今回のFCCの措置は、「競争が進展した市場では規制を廃止、差控える」という原則を実際に明示した最初の事例という意味で重要であるが、「普遍的な規則」は作らず、あくまでも個別にケース・バイ・ケースで認定していく」としている。

 また、通信事業者間の競争ばかりでなく、CATV事業者からの競争という異業種間の競争であっても認めていく点が注目される。FCCは、従来から「市内通信市場での競争」について、固定網事業者、携帯電話事業者、CATV事業者、電力事業者、衛星通信事業者等の様々な事業者による競争を総合的に育成していく方針であり、競争の進展度合いの認定もこうした異業種間での競争(inter-modal competition)という広い視野で捉えている。

■FCCの「自前設備による競争」促進策

 今回の命令本文で注目されるべきもう一つの重要な点は、競争事業者の「自前設備」への移行促進を狙っている点である。

 1996年電気通信法が「アンバンドリング」「リセール」という競争促進の便法を創設したため、競争事業者は自前の設備建設という本来あるべき形である競争参入をないがしろとなり、サービス提供に必要な設備のほとんどを既存地域事業者からのリースに依存する例が多かった。「アンバンドリング」制度は本来、競争事業者の参入にあたり間に合わない一部分の設備だけについて、自前設備ができるまでの暫定措置として既存地域事業者から借り受けることを想定していた。

 FCCはPowell前委員長の方針で数年前からこの点を反省し、こうした「形だけの競争」ではなく「自前設備による競争」への移行を図っている。この点は今回の「序文」でも、「自前設備による競争が熾烈な場所では、市場力に任せる」、「「競争事業者のネットワークの建設とサービス提供意欲にインセンティブをもつものと期待している」と明示されている。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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