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2006年7月掲載

「NTTの光加入者回線」のライバル事業者への「強制割引貸出義務」強化の不当性
---米国では既にFCCも最高裁も愚策と決め付けた政策をいまさら何故?---

 6月9日の日経一面トップは、総務省が、「NTTの光加入者回線のライバル事業者への貸出し条件を、さらに競争事業者に有利なように改定する検討にはいった。2008年度の実施を目途に、事業者間料金を現在(家庭用引込み線1本あたり月額5,074円)の半額程度に引下げられる可能性もある」と報じている。

 現在の事業者間料金は、2007年度に「加入者数1千万、耐用年数10年」という前提で2007年度までの料金として決められたものを、「NTTが2010年度までに3千万加入を目指すこととなったコスト低減効果と、耐用年数を2倍程度まで伸ばすことで半額程度にし、ライバル事業者の参入を促進して、競争強化による料金の値下がりを目指す」としている模様だ。

 しかし、こうした既存大手事業者がせっかく巨額な資金で設備投資して建設した最新設備を、根拠の曖昧なコスト計算方法で政策的に大幅に安価な事業者間規制料金でライバル事業者に貸し出すよう義務付ける方策は、米国で近年、手ひどい批判を浴び、大幅な手直しが行われている。さらにFCCも、「通信分野での競争参入は、自前の設備で市場に参入するのが本筋であり、他人のインフラを借り受けてコバンザメのように眠り口銭を稼ぐような形ばかりの競争は邪道だ」という姿勢をことあるごとにとり始めている。

 ことに広帯域サービスの基盤となる光ファイバ網等の最新設備については、既に2003年2月に、FCCが既存地域事業者を貸出し義務から解放し、最高裁もCATVのケーブルについて既存のケーブル事業者には光ファイバをライバル事業者に貸出す義務はないと判示した。これはいずれもが、広帯域インフラの早期の全国的な整備拡充の促進には、既存事業者の投資インセンティブに配意せざるを得ないことを明確に認識した結果の措置である。

■米国では既に勝負がついた「ライバルへの貸出し義務」

発端はUNE制度---1996年電気通信法のUNEとリセール制度

 1996年電気通信法は、市内通信での競争促進のため、(1)リセール、(2)UNE(Unbundled Network Elements:細分化されたネットワーク要素:アンバンドリング)という便法を設けた。

 「リセール」は、競争事業者が既存地域事業者の市内サービスをまるごと割引料金で買い入れ、それを自己のサービスとして顧客に再販売する方法であり、「アンバンドリング」は、市内サービスをいくつかの機能要素(UNE:unbundled network elements)に細分し、競争事業者が自身では賄なえない要素だけを既存地域事業者から割引料金で買い入れ、それと自身でまかなう要素とを組合わせて顧客に市内サービスを提供する方法である。1996年電気通信法は、競争事業者による「リセール」と「UNE」の要請を既存地域事業者は拒否できないとし、「相互接続」と同様に既存地域事業者の基本的な責務とし、義務づけた。

 米国の連邦議会は、UNEについては「新規参入者の参入を阻害する(impair)ことのないよう、FCCはUNE実施のための規則を制定すべし」と命じた。これら二つの便宜的方法により、新規参入事業者はすべてを自己の設備で賄う必要がなく、多額の設備投資なしに簡単に市内市場に参入が可能となったわけである。

 しかし、実際にはUNEは競争事業者が自身では賄えない市内通信要素だけでなく、市内サービス全体を丸ごと既存地域事業者に提供を求めるUNE-P(UNE-Platform)までが広く行われる事態となっていた。事業者間料金(卸売料金)は、各州当局の認可制であるが、そのコスト算定基準としてFCCが示した「全要素長期増分コスト」(TELRIC)という算定方法(実績のコストではなく、最新のテクノロジーを用い効率的に運営された場合のバーチャル・コスト)によるため、大変低く抑えられている。既存地域事業者側はこのような仮定の強制事業者間料金では赤字だと主張しているほどである。UNE事業者間料金は、UNE-Pの場合ですら、既存地域事業者が直接顧客に提供する場合の小売料金に比して、通常40-50%もの割引料金となっているという。「リセール」の場合の卸売料金はもっと小幅な割引(5-10%程度)に留まっている模様で、競争事業者がUNEを盛んに利用している背景もここにある。FCCの統計でも、最近はリセールが減ってUNEに移行している。

■FCCの変身 「競争最優先」から「既存地域事業者のインセンティブ重視」へ

 2001年にBush共和党政権となって、FCCも共和党系委員が3名の多数派となったこともあって、競争促進一辺倒の従来のFCCの方針にも変化が芽吹いてきていた。その背景には、FCCの市内競争規則(UNE規則)が裁判所により二度にわたり違法と判定され、再考慮のためFCCに差し戻された事情もあった。競争事業者の言い分に過度に傾いた規則により損害を受ける既存地域事業者側が提訴したのを裁判所がある程度「理あり」と判断したのである。

(1) 光ファイバ回線は貸出し義務から除外
  ---既存地域事業者のインセンティブに配意

 FCCは1996年電気通信法施行とともに、その実施のための市内競争規則を2回にわたり制定したがその都度裁判所により違法と判定されて差し戻されていた。裁判所によって無効とされた従前二回の規則が圧倒的に新規参入事業者に有利であった姿勢を大きく変換して、既存地域事業者のインセンティブに配意している。この背景には、「広帯域高度通信の普及促進」という別の大目標のため、既存地域事業者による新規設備投資意欲の喚起の必要がったという事情がある。

 1996年電気通信法は、競争促進と並び、高速大容量通信などの高度通信サービスの早期全国普及もその政策目標の重要な柱として掲げているが、財務力があり高度通信普及の要となるべき既存地域事業者は、折角多額の建設資金を投じて光ファイバ等の広帯域設備を建設しても、それを規制で定められた格安料金でライバル参入事業者による「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、設備投資の意欲がそがれると反対していた。その後とくに近時、インターネットの急速な普及やxDSL等の新テクノロジーの進展で、高度通信は重要な時期にさしかかっており、この問題の早期解決が迫られていた。「競争促進」と「高度インフラの拡充」という1996年電気通信法の二大目標は実は二兎を追うもので、本来互いに相反する性格のものだったのである。

 FCCはこの2003年2月の第3次市内競争規則で、「光ファイバの加入者回線は、UNE制度から外し、既存地域事業者は競争事業者からの貸出し要請に応じないでもよい」という画期的な方針に転換した。とくに僻地など需要の少ない地域まで光ファイバ等の広帯域インフラを早急に整備普及するには、事実上既存地域事業者に依存せざるをえなかったのである。[別添資料1 「 第3次市内競争(UNE)規則」]

(2)「 光加入者回線の貸出し義務廃止」の効果はテキメン

 既存地域事業者の広帯域設備への投資インセンティブに配慮した第3次競争規則の効果は、その後テキメンに現れている。

 ベル系地域電話会社などの大手電話会社は、光ファイバ回線のライバル事業者へのUNE方式の貸与義務が免除され投資の不安材料が減少したのをうけ、フアィバ・ツゥ・ザ・ホーム等の光ファイバ・ネットワーク建設を加速している。その背景の一つには、CATV会社の縄張りであったテレビ事業にも乗り出し、固定電話、携帯電話、インターネット・アクセス、テレビの四事業を一括提供するという戦略もある。電話会社の領域内での競争(長距離通信事業者と地域事業者)がベル系地域電話会社等の地域事業者の勝利で一段落し、今後は、通信事業者とケーブル(CATV)事業者との対決に向かっている。米国では、CATV会社側もその設備を利用して通信事業に進出を図る者が多くなってきている。
[別添資料2 : 「最近の大手電話会社の光ネットワークへの意欲的な投資に関する米国新聞の記事」]

 FCCが2006年2月10日に発表した「ビデオ番組の配信市場における競争状況に関する報告書」でも、通信事業者のテレビ事業への進出に大きな期待を寄せている。
[別添資料3 : 「通信事業者のテレビ事業への期待」 FCC報告書]

(3) 自前設備での競争参入こそ本筋

 さらにFCCでは、「自前の設備をもった競争事業者の参入こそが本道である」との流れになってきた。こうした方針を提唱、強力に主導したのは当時のPowell委員長だった。同委員長は2003年2月の第3次市内競争規則制定時には、自前設備推進の不足と州当局への一部権限委譲等に反対し、少数派となったが、その声明で、次のように力説している。

「私はかねてから自前の設備による競争の尊重に傾いている。競争事業者が既存地域事業者のインフラ等に依存している限り、斬新なサービスの誕生の見込みはなく、インフラへの投資の増加も起こらない。通信機器メーカーの受注も増えず、雇用も増えない。経済成長にも貢献がない。国防の点でもインフラに余裕ができず不安である。」[傍線 筆者]

 Powell前委員長は、加入者回線だけでなく交換機能も含めた市内サービス全体を一体として競争事業者がUNE制度で既存地域事業者に提供を要請するUNE-Pという悪癖の蔓延についても、次のように厳しく批判している。

「UNEsのうち「交換機能」こそはもっとも重要である。これが既存地域事業者から、規制当局の定める大幅に安価な事業者間料金で利用できるのであれば、新規参入者は自己の設備を建設することなく、安易に既存地域事業者のネットワークを再販売(resell)しがちになるのは当然である。」[傍線 筆者]

(3) 第4次市内競争規則
  ----第3次規則の「既存地域事業者への配慮」を一層強化、定着

 第3次市内競争規則もまた裁判所により違法と認定され、差し戻されたのをうけ、FCCは、ようやく2004年12月15日に、第4次の市内競争規則(UNE)を採択した。1996年電気通信法施行後8年を経過して、ようやく規則ができあがったわけである。

 第4次規則の要点は、次の3点に要約できる。

  1. 既存地域事業者からの設備貸与(アンバンドリング)がないと競争事業者の市場参入が「阻害 (Impair) されるかどうか」の認定を厳しくして、既存地域事業者の貸出し義務を絞り込む。
  2. アンバンドリングの要素のうち住宅顧客のための「交換機能」は今後は削除し、既存地域事業者の義務としては強制しない。(前述のUNE-Pはできなくなり、現在残っているものは1年以内に他のアレンジに移行しなければならない。
  3. 競争事業者は自前設備による競争参入を本筋とする。

 FCCは2003年2月以来、それまでは競争事業者偏重で「ほとんどの場合に、競争事業者が既存地域事業者に要請する市内ネットワーク要素のリースを既存地域事業者に義務付けていた」従来の市内競争規則を既存地域事業者の投資インセンティブにも配意して軌道修正していたが、今回の規則は、その「右旋回」をさらに強化して、アンバンドリングに応ずる義務を厳しく絞り込み必要最低限に限定している。また、競争事業者はまず自前設備をもつことが本筋であることも、明示している。
[別添資料4. 「FCCプレス・レリーズ(2004年12月15日)]

 その後公示された規則全文の「前書き」では、次のようにこれらの点がさらに明確に述べられている。

  • 「前回の3年ごとの規則の見直し手続で、消費者市場むけの広帯域アーキテクチャに関するほとんどのアンバンドリング要件を廃止してきた。この措置で(既存)事業者の高速サービス機器やサービスへの投資が容易化された。この見直し作業は、消費者むけの次世代回線へのアンバンドリングされたアクセスを制限する効果をもった。」
  • 「今回の規則では、FCCはさらに、自前設備に立脚した競争からもたらされるイノベーションと投資を助長するため、次のステップをとった。第251条に基づくFCCのアンバンドリングに関する権能を一層焦点を絞って、この規則は、競争事業者がその特定のネットワーク要素なしでは本当に(genuinely)参入が阻害される (impared)場合、かつ、アンバンドリングが永続可能な自前設備に立脚した競争を阻害しない場合に限り、(既存地域事業者に)アンバンドリング義務を課すこととしている。」
  • 「本規則は、アンバンドリング義務をより一層絞った形で課している。すなわち、アンバンドリングを要請する(競争)事業者は、まず自身の自前設備に投資を行い、その自前設備とあわせてUNEsを用いていく場合に限定した」  [2005年2月に公示された規則全文の前書き] [傍線 筆者]

 以上一言で言えば、ほとんどが既存地域事業者側の言い分に沿った決定であり、FCCの流れもすっかり定着したといえよう。

 当時FCCが発表したデータによれば、2004年6月末現在、1億8,010万の総エンドユーザー回線(加入者回線)のうち17.8%(3,200万)は競争事業者の回線となっているが、そのうち約半分程度がUNEによっていたとされる。そのUNE利用のほぼ半数がUNE-Pであり、一年以内に自前設備や他のアレンジへの移行が強制されたことになる。

(4) 最高裁もFCCを支援

 FCCのこうした既存地域事業者寄りの新しい政策は、その後、最高裁からも援護射撃を獲得した。

 米国の最高裁は2005年6月27日、「ケーブル(CATV)事業者は、ライバル事業者に設備を解放し利用させる義務はない」旨の判決を6対3で行った。

 FCCはかねてから、CATV事業は電気通信事業の「電気通信サービス」とは異なり「情報サービス」であるとして、ケーブル事業者については「電気通信事業者のように既存地域事業者の設備をライバル参入事業者にも利用させる義務はない」との立場をとってきた。これに対してEarthLink Inc.やBrand X Internet Services等の一部の事業者が第九控訴裁判所に、FCCがケーブル・サービスを「情報/データ・サービス」だと認定しているのは誤りで、少なくともケーブル事業者が提供している高速インターネット・アクセス・サービスは電気通信的な要素を持っている以上、電話ネットワークと同様に競争事業者によるアクセスに応ずる義務があると主張して提訴し、同控訴裁判所もこれを支持した。

 今回の最高裁の判決はこれを覆したものであり、「FCCは何を規制するかの決定権がある」としている。

 FCCの新委員長に就任したばかりだったMartinは、「FCCが2003年2月に電気通信の広帯域設備について同様に既存地域事業者のライバル事業者への貸与義務を除外したのと軌をいつにするものである」として歓迎の声明を出した。

 ケーブル事業者は当然ながら最高裁の判決に満足している。しかし、電気通信事業者は、最近、インターネット技術を利用してケーブル事業者の縄張りであるテレビ事業への進出を強めており、ケーブル事業者の設備を利用したい一部の電気通信事業者は最高裁の今回の判決を批判するものもいるが、大方は逆に「電気通信事業者もケーブル事業者同様、ライバル事業者への設備貸与義務を全廃されるべきだ」との主張を強めるものと予想されている。

■米国での教訓が活かされていない総務省の不合理な改革案

 以上、米国での政策の流れ等を見てきたが、わが国ではどうか。

 冒頭に書いた総務省の「NTTの光加入者回線のライバル事業者への貸出し条件を、さらに競争事業者に有利なように改定する検討」の報道をみて、まず、米国の最近の流れとまったく異質なものと感じざるを得ない。どうしてこのような時代の潮流に逆らう検討が採り上げられるのだろうか。米国での教訓はまったく活かされていない。

 総務省は、「既存地域事業者(NTT)に光ファイバ網は建設させるが、ライバル事業者にも利用させる義務を強化する。現在の事業者間料金の半額程度に値下げを迫る」方向という。値下げの根拠は不明だが、利用増によるコストの低減と耐用年数の2倍程度の延伸の模様だ。

 NTTが折角多額の設備投資をしても、ただでさえ重いライバル事業者への設備貸出義務に加えて、事業者間料金を現行の半額にするという条件のなかで、果してNTTは公表した3千万を超えてさらに3千万もの全国に光フアィバ網を早期に行き渡すことができるのだろうか。NTTはまだユニバーサル・サービスの補助金も支払われたことのない株主を抱えた純然たる民間会社だ。

■他の通信政策との調和を広い視界から

 米国では、高度通信サービスの早期全国への普及という1996年電気通信法の崇高な目標のため、既存地域事業者の光フアィバ網建設のインセンティブ尊重が、それまでの闇雲な競争最優先政策の軌道修正の出発点となった。競争参入の見込みのない都市部以外の僻地等、全国あまねく、早急に広帯域インフラを整備するには、既存地域事業者の力を借りざるをえないからである。

 通信政策はいうまでもなく、多様な政策目標を調和して策定されねばならない。「広帯域インフラを早期に全国に普及する」という政策も、「競争の推進」と同様な重みのある政策であるはずだ。また、いわゆる地域間の「デジタル・ディバイド」という新しい格差を生じさせないためのユニバーサル・サービス観点も重要だ。採算がとりやすく競争参入の多い都市部はともかく、地方や過疎地にもあまねく広帯域サービスを普及させるには、NTTにインフラ整備を期待せざるをえまい。

 米国では先にも触れたように、大手電話会社がこのところテレビ事業への進出も狙い、大規模な光ファイバ敷設に力を入れている。CATV会社(ケーブル会社)が最近まで地域独占にアグラをかき、料金を値上げしてきただけに、消費者だけでなくFCCなどの規制当局も電話会社のテレビ事業への進出に期待している。

 現行の1934年通信法ではCATV事業の開始のためには、州レベルより下の市町郡当局から個別にフランチャイズ免許を取得しなければならないが、その数は全米で3万にものぼるといわれている。Verizonなどの大手電話会社は、これではテレビ事業への進出に時間がかかってしまうとして、フランチャイズ免許手続の簡素化を強く働きかけており、これに呼応して一部のテキサス州など一部の州ではすでに州単位一本のケーブル免許法などが実現しつつある。連邦議会でも全国一本のケーブル免許法案が審議され始まっている。VerizonのCEOは、「われわれは全国に光ファイバ・インフラを張り巡らす野心的な計画を推進している。しかし、フランチャイズ制度の簡素化が認められないならば、やむを得ず都市部などに限定する見直しが必要になろう。」と警告している。

■通信産業はテクノロジーの進化による陳腐化の「リスクの多い設備産業」

 よく「通信は設備産業」といわれるが、テクノロジーの変化が激しい産業だけに「設備を持つこと」は「リスクをもつ」ことと同義である。インターネット電話の出現で、在来からの電話交換網がまだ十分な耐用年数が残っているのにお荷物になったりするのである。  
通信業界では「自分の設備を持つ」ということは「リスクを持つ」ということに他ならない。ましてや、十分な論理的なデータもなしに耐用年数を倍にするなど、論外である。

 自分で設備を持たず、他人に持たせ、他人の褌で相撲をとり、コバンザメのように眠り口銭を稼ぐ、しかも事業者間料金を極端に低廉化せよと要望するのは虫が良すぎる。NTTは、毎年5,000億円ものユニバーサル・サービス基金からの助成のある米国とはちがって、ユニバーサル・サービスを含め公的助成金は一切もらわず、有利子負債で調達した資金も光ファイバネットワーク建設に充てているのである。

■オーストラリアではTelstraがFTTN計画の白紙撤回を表明

 現にオーストラリアでは、政府が広帯域網のライバル事業者への貸出し義務を課す動きに最大手の事業者が反発し、投資計画を白紙に戻すことも辞さないと言明した。

 オーストラリアの最大手事業者のTelstraのCEOは、「政府がライバルへの貸与を義務づけるなら、先に発表した30億豪ドル(22億米ドル)の光ファイバ広帯域網(FTTN)計画を白紙に戻す」と言明した。

 Telstraは当初、5大都市で次世代FTTN(fiber-to-the-node)ネットワークを建設する構想をもち、その後これを小規模の市町にも拡大するとしていた。しかし、その後、政府の規制で、ライバル事業者にもその新ネットワークを無料またはTelstraには我慢のできない低事業者間料金で利用させることを義務づけられる可能性が出てきた。(InfoWorld 2006/6/29)

 同社は国営会社だったが民営化の途上にあり、今年遅く60億株を240豪ドルで販売する計画である。

■異業種間の競争の振興こそ「これからの競争のあり方」

 「通信と放送の融合」といわれるようになり、米国の例を見ても、通信分野の中だけでの目先だけの競争促進の時代は終わったのである。通信分野という狭いコップの中での「リセール」や「アンバンドリング(UNE)」という、まるでメーカーのOEMのような、安易な「見せ掛けだけの競争」ではなく、通信会社とケーブル会社の競争のように、従来は別個の業種と見られていた「異業種間の競争」を促進が脚光を浴びだした。FCCも、広帯域インフラについて、

  1. 固定電話会社の光ファイバ網(FTTH,FTTNなど)
  2. 携帯電話会社の広帯域無線
  3. ケーブル(CATV)会社のケーブル・インフラ
  4. インターネット事業者のインフラ
  5. 電力会社の広帯域設備(BPL)
  6. 衛星広帯域インフラ

などを広い視野で取り上げ、相互間での競争の促進を育成するスタンスである。

 わが国でも、狭い通信事業の中だけでの既存地域事業者にのみ犠牲を強いるいじましい旧態依然の競争促進策よりも、米国のように異業種からの競争の促進という広い視野での積極的な政策を目指すべき時期ではないのであろうか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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