ホーム > トピックス2006 > |
2006年11月掲載 |
米国の超巨大通信会社の合併、最終段階で波乱
|
FCCの承認年月 | 合併案件 |
---|---|
2005年8月 | SprintによるNextelの合併 |
2005年10月 | SBCによるAT&Tの合併(160億ドル)および VerizonによるMCIの合併(66億ドル) |
先の二件の大型合併では、司法省は、2005年10月27日に、この二つの合併は一部の都市部の主としてビジネス顧客市場で、関係する4社以外の有線事業者がいなくなるため独占の恐れがあるとして、取引差止めの訴訟を提起するとともに、いくつかの都市部で4社が一部の設備を切離し別の事業者に売却する(divest)という条件付きで合併を認めるとした。結局、4社と司法省は、その線で同意審決(consent decree)の形で合意に達した。
これに引き続き、FCCも多くの条件をつけて認可することとなった。これらの条件は、形としては事業者側が提示した「自発的な約束」としている。FCCは、2000年前後のベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出の認可の際も、同様に条件をつけて認可している。FCCは、ベル系地域電話会社からこのような申請が出る都度、認可を「劫だね」として、認可から生ずるベル系地域電話会社の強力な立場から懸念される独善的な行為の抑止をはかる一方で、FCCの欲する譲歩をベル系地域電話会社から引き出してきた。二件の合併での条件は、「一定期間を限り料金値上げをしない約束」や「FCCのインターネット規制方針を遵守する約束」などであり、しかもそれが遵守されなかった場合には、罰金等の強制是正措置を伴うものである。
これらの条件や約束が十分に守られたかどうかについて、現在もなお連邦裁判所で審理が行われている。
FCCがSBC/AT&TおよびVerizon/MCIの合併を認可した主たる根拠は、巨大合併で事業運営の効率がアップしコストが下がり、サービスも多様化し、消費者もその恩恵に浴することにあるが、さらに以下の事情も背景として挙げている。
?ケーブル(CATV)、携帯電話、VoIP等のPSTNとは異なる業界からの競争が広がってきたこと [異業種間(inter-modal)の競争の進展]
?テクノロジーの進歩が早く、規制面も大きく変わりつつあること
消費者団体や小規模競争事業者団体等は、二件のFCC認可は、料金値上がりと競争事業者の枯死に繋がるとして反対したが、FCCとしては、共和党系の委員長だけでなく民主党系の委員も含め、全員が認可に賛成した。
先の二件の合併が承認されたのには、当時、AT&TおよびMCIという二大長距離通信会社が極端な業績不振に喘いでいたのを救済する必要という背景もあったといえよう。
当時のSprintも加えた長距離通信3社は、お互いの顧客の奪い合いですさまじい(cut-throat)料金値下げ戦争で体力を消耗していた。さらに携帯電話やIP電話に顧客を奪われていた。
さらに、1984年のAT&T分割以来、ベル系地域電話会社は長距離通信事業を厳格に禁止されていたのが、1996年電気通信法により「市内網をライバル参入者に十分に解放した」と州当局とFCCが認定した場合には、例外的に州単位に長距離通信事業に進出できるようになり、順次認可を得て2004年ごろまでに全米でベル系地域電話会社が長距離通信をも手がけるようになった。市内通信とのワンストップ・ショッピングで有利な立場に立ち、長距離通信会社から顧客を奪い始めていた。
また、長距離通信会社は、地域網で通話を発信/終端するために地域電話会社に支払う巨額のアクセス・チャージを節減するため、1996年電気通信法が設けたアンバンドリング(UNE)制度により既存地域事業者の設備を規制下の低廉な事業者間料金で借り受けられるのを追い風として、地域サービスにも参入し始めていた矢先、FCCの変節でこの制度の利用を厳しく絞り込まれたことも加わり、破産寸前の状況に追い込まれていた。
しかし長距離通信の大口利用者である国防総省やFBI等が長距離通信会社の救済を強く求め、その受け皿として、業績が手堅いベル系地域電話会社が浮かび上がったという図式である。
今回の合併についても、競争の減退による料金値上がり等を消費者保護団体が懸念しているのはいわば当然としても、「州当局者、僻地関係者、消費者保護団体、競争事業者、さらに数千名の個人もこの案件に十分なFCCによる審議を求めているところである。」(前出、FCCの民主党系二委員の委員長あて書簡)
また、議会でも、下院の司法委員長のRep. James Sensenbrenner, R-Wisと議会の他のメンバーは、この案件を、先の(SBC/AT&Tの合併、Verizon/MCIの合併という)二件の大型合併の認可の条件/約束が守られていないとする訴訟での連邦判事の決定が出るまで保留すべきであるとしている。[Yahoo/AP (2006/10/11)]。今回のAT&T/Bell Southの合併に懸念を提起したFCCの二名の民主党系委員も、慎重審議を求める理由の一つとして「この点についての裁判所の審理も終了していないので、FCCはその結果も斟酌すべきだ」としている。
冒頭に触れたように、AT&T/Bell Southの合併は、FCCの決定に先立ち司法省独禁局が
「問題なし」としてあっさり承認してしまっている。これまで大型合併が次々とスムーズに承認されてきた経緯もあり、3月の発表当時から「規制当局の承認は間違いなし」との見方がほとんどであった。SBC/AT&TおよびVerizon/MCIの合併審査では、民主党系の2名の委員も含めて5名の委員全員一致での承認であった。
ところが今回は最終段階で民主党系委員の姿勢がすっかり変わった。Adelstein委員は、「司法省は競争と消費者保護の責任を放棄した」と非難し、Copps委員も「テレコム最大の合併に司法省は、一項目の条件だにつけず、荷物を丸めて消費者や小企業の頭の上を歩き去った」と手厳しい。[Yahoo/AP (2006/10/11)]
共和党系のKevin Martin委員長は合併賛成の命令案を回覧し始めていた。共和党系のDeborah Taylor委員の支持は間違いなかろう。最近任命されたばかりの第三の共和党系委員のRobert McDowellが注目されているが、前職がAT&T等の大手事業者と競争する中小通信事業者協会だったため、彼はこの案件の審理から除外される。[Yahoo/AP 2006/10/11)]
Martin委員長は前任のPowell委員長とは異なり、信条にこだわらず柔軟な態度をとるとされている。今回も民主党系委員の顔を立て、日限はきったがコメントの手続を受け入れた。また、これまでにも、委員長自身も合併に関して提示されたいろいろな懸念に対して様々な対話を熱心に行ない、これらの懸念を緩和するための方途を模索してきており、民主党系委員もそれなりに評価している。民主党系の二名の委員も条件次第では承認に回る可能性がないわけではないとの観測もある。
今回のAT&TによるBell Southの併合構想に対しては、1984年以前の「ベル・システム」への逆戻りではないかとする批判も出ている。たしかにこの合併が認められれば、AT&T分割で誕生した7社のベル系地域電話会社のうち4社が「新AT&T」となる。さらにベル系地域電話会社は長距離通信事業を禁じられていたのに、長距離通信会社の最大手2社は既にベル系地域電話会社2社に呑みこまれてしまっている。止め処のない合併の進展に懸念が出てくるのも当然といえる。
しかし、司法省が既に合併の承認を発表してしまっている以上、FCCがこれまでの合併承認の流れを逆流させて、承認しないというのも難しかろう。
結局は、FCCは何らかの一段厳しい条件を付けて承認することとなるのではあるまいか。
いずれにせよ、FCCは難しい局面に立たされたのは事実であろう。今後の推移に注目したい。
AT&Tのプロファイル
[規模等]
[CEO] Edward E. Whitacre Jr.
[合併/買収]
Bell Southのプロファイル
AT&T/Bell South合併合意発表のプレス・レリーズ(2006.3.)
ニューヨーク・タイムズ(2006/3/6)
AT&Tは昨日Bell Southを670億ドルで買収すると発表した。
新会社は、売上高1,200億ドル、従業員317,000、21州でのローカル顧客数7,100万、広帯域加入者1,000万は、かって分割されたAT&Tの再生とも言える。
この合併で、ベル系地域電話会社はVerizon(売上高900億ドル)とQwestとあわせ3社に絞られる。
▲このページのトップへ
|
InfoComニューズレター |
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。 InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。 |