トレンド情報-シリーズ[1998年]

[メガコンペティションは今?]
[第17回]国際電気通信業界の変貌

(1998.12)

国際キャリアー業界は、1997年から1998年にかけトラフィック成長率は高進したが収入増加率は低下という変局点を越え、通信機器製造業界は、次世代ネットワーク・アーキテクチャーの迷いに基づくキャリア投資の手控えから伸び悩み、重要な段階に近付いている。

●1997年業績による世界トップ50
 コミュニケーションズ・ウィーク・インターナシナル(CWI)誌98年11月23日号は、「頂上(Peaks)と谷底(Troughs)」と題して、1997年国際通信収入による世界の国際通信事業者上位50社のリストを発表した。同誌がヤンキーグループの協力を得て行っている経年調査の7回目で、40社リストで始めたものを50社に拡大してから2回目である。収入額は国際電話料金収入、専用料金収入、清算料金受取り額を合計したものだが、国際通話料金の比重が圧倒的である。
 97年の特徴は、国際電話トラフィックが、96年の対前年比8.2%に対して97年は13%と、好況を反映して伸びているのに、96年は2%の伸びだった収入が、97年には2~3%のマイナスになり、成長率のピークを過ぎたと思われることである。同誌は下記の表を示して、「国際通信収入の変化が激しいので合計値の比較は行わなかったが」「世界のトップ国際電話サービス業者にとって最良の時は過ぎ去った、高収入と高利益の時が去って収入、収益性、料金、従業員数などの主要指標は下向きになる」「国際電話トラフィックだけが増大していく、ただし98年から99年にかけてはアジアその他の経済問題の影響で横ばいだろう」としている。

トップ50の96/97比較(金額の単位 百万ドル)
区別199619971997/1996%
総収入365,359392,4716.9%
税引き前利益54,04454,9101.6%
国際通信収入65,203
従業員数3,068,5922,837,690-8.1%
国際電話トラヒック56,77565,16312.9%

 そこで別表1のとおり、97年ランク上位40社の過去5年の国際通信収入比較を行うと、40社合計値 ($M)は、93年 49,501、94年 56,577、95年 62,112、96年 62 ,858、97年 55,080となり、成長率は、94/93:14.3%、95/94:9.8%、96/95:1.0%、97/96:△13.3%となった。97年の13.3%減は衝撃的である。

●国際キャリアー業界の現状と今後
 このような国際通信市場の変化は90年代に入って進み出した通信自由化がも たらしたものである。競争が激化した区間では清算料金支払額が減少し、料金水 準の低下により国際キャリアーの収入が減る。一方、合理化、業務革新努力でコ ストが引下げられたキャリアーの税引き前利益は増加すると言う変化である。もっ とも、ほとんどのキャリアーは国際・国内兼業であり(大規模キャリアー38社の 半数を占める 別表2参照)、国際収入は分計のため把握が必ずしも容易ではない。 実際CWIの経年調査でも発表後に数字が動いており、為替レート換算のドル表示 で比較しているため、96年から97年にかけて別表1の40社中31社の国際通信収 入が減少していることをすべて鵜のみにすることはできない。

 しかし、国際通信のパラダイム・シフトにもとづき市場と業界に構造変化が起きていることは確かである。変化を代表するのは大躍進のChina Telecom(現額の半分を占める香港の返還に伴い次回調査では順位が落ちよう)とWorldcom (MCI WorldComになっても、時価総額は別として国際通信収入のランクは変わるまい)よりも、下位(41-50位)に見られる新顔である。経年比較のため表から除いた下位には、Telenor(Norway)、Turkish PTT、Saudi Arabian PTT、Optus(Australia)、Etisalat(UnitedArabEmirates)、Indosat(Indonesia)、SPT Telecom(Czech)等の古顔や旧知のほか、第45位Telegroup、第48位RSL Com、第49位Primusの新顔3社が含まれている。Telegroupは89年設立のリセラー上がりで、95年から長距離通信に参入して97年に店頭上場、現在米国国際キャリアー第6位として、高度ディジタル通信サービスの世界展開を指向している。PrimusもTelegroupと同様、設備保有ベースで世界展開を図る米国国際キャリアーである。これらに対しRSL Comは英国の2大移動通信事業者CellnetとVodaphoneのリセラー上がりで、西欧中心に移動/固定通信複合のワンストップ・ショッピング・サービスを開始したばかりのキャリアーである。もともとCWI調査は95年までキャリアートップ40社とリセラー(国際VAN)トップ10社を発表していたのを、両者を区別できなくなったとして96年から国際キャリアートップ50社に統合しただが、今や設備の有無、国際/国内、移動/固定などあらゆるボーダーを越えて市場への挑戦が始まっている。次期調査結果にはこの種新顔がもう3~4社登場しよう。

●通信機器製造業界の現状と今後

 国際キャリアーの世界ランキングに日本勢の存在感が希薄なのに比べて、CWI誌発表の通信機器メーカー世界トップ50社には日本メーカーが13社含まれており、昨今盛んな「日本経済をおかしくしたのは大蔵・金融セクターであって、製造業は健在」との日本再生論を裏付けているようで頼もしい。

世界の通信機器メーカートップ10
順位 企業名 国籍 通信機器
売上高($m)
同左対前年比(%) 総収入($m)
1/1Lucent Technologies23,03812.126,360
2/3Ericsson瑞典21,31135.621,970
3/2Motorola20,1709.529,794
4/5Alcatel Alsthom16,40024.331,845
5/7Northern Telecom15,00817.215,449
6/6Siemens14,86522.861,663
7/4NEC14,1931.840,900
8/9Nokiaフィン
ランド
8,95133.110,134
9/8Fujitsu7,2021.941,205
10/12Cisco System6,44057.26,440

 しかし、国内市場依存度高く、公衆網ディジタル化を完了した日本メーカーの大部分は、円安もあり96年から97年にかけて順位を下げた。
 世界のトップ50社の合計値も、95年から96年に浮揚した14%もの成長率が97年には7%とスローダウンした。屈折の理由はIPネットワーク指向の登場によりキャリアーの次世代ネットワーク・アーキテクチャーに迷いが生まれ、発注が手控え気味になったことによる。
 トップ50社には既に伝統的な通信機器メーカーのほかコンピュータ企業、無線メーカー、家電メーカー、半導体メーカーなど入っている。今後ますます固定/移動やデータ/音声の融合製品を開発提供し、狭帯域から高帯域製品にシフトするメーカーでないと生き残れないとの認識で、通信機器メーカーがコンピュータネットワーキング企業を取得するM&Aが始まった。
 Lucent Technologiesは97年末から98年初頭にかけてベンチャー企業3社を買収、98年6月にはNorthern Telecom がトップ50社第21位のBay Networksを買収、翌7月にはAicatelが第29位のDSC Communicationsを買収している。移動通信分野では、CDMAの普及に伴い基本特許を持つQualcommが第60位から第22位に急浮上してトップ50入りした。CDMAは次世代携帯電話の国際標準候補となったため、その早期策定が期待されている。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1998.12)

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