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2011年4月6日掲載

電力の供給確保と無線の活用、通信インフラの弱点に備える

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 2011年3月11日午後2時46分、大震災が東北・関東地方を襲いました。震災でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

 当日は、金曜の午後、年度末を控えた比較的静かな時間帯、突然、恐怖感を伴う大きな揺れが始まりました。当社情総研は東京・中央区人形町にありますが、8階建ての当社ビルは激震に大きく揺れ、作り付けの書庫が崩れ落ち、大量のファイル類が廊下一面に散乱して足の踏み場のない状態となり、衝撃でした。

 しかし、本当のショックは直後に見たテレビの速報画面でした。その時から4週間、被災された方々はもとより、私達多くの日本人の気持ちが変わりました。本当に元の姿に戻れるのか、立直れるのか、私達には出来るのか、不安がよぎると同時に大震災の中、じっと耐え抜く人達の姿を見て、必ず日本は復活すると心を強くしました。ハリウッド映画などで、大災害とともに混乱し、略奪、犯罪が拡がる光景が描かれていますが、映画を見るたびに私は強い違和感を覚えて来ました。やはり、日本人の現実は映画とは違っていました。これこそ日本の力、誇りです。世界とは違う力を日本人は持っていることを実感しました。心配りのある一人ひとりの努力と頑張りは必ず日本を復活に導くと信じます。

 こうした中、私達が身を置く情報通信の世界で学ぶべきことがいくつもありました。大災害の避難や復旧・復興において情報通信が果す役割が大きいことは論を待ちません。通信各社が通信インフラの復旧に全力を挙げていることは当然です。最大時、不通固定回線188万、停波携帯基地局1万4千に上った通信インフラは4月中にほとんど復旧すると報道されています。常日頃からの災害対策や機器等の準備・配備をはじめ、目立たないが地道なサービス復旧活動が何よりも評価されるべきです。復旧に当たる通信各社、工事会社、メーカー等、多くの方々に頭が下がります。1日も早いサービスの回復を願って止みません。
こうした大震災の中で、情報通信サービスで改めて気が付いたことが2点あります。

 当たり前のことですが、情報通信は“電気”通信なのです。すべてに電力の供給が不可欠なので、電気が停まるとサービスは停止します。地震発生直後、停電してもバッテリーによって携帯基地局は生きていましたのでしばらくは携帯回線は通じていましたが、その後、数時間後に順次基地局は停波し使えなくなりました。電源を失ったのです。最近の災害では、トラフィックのふくそうで電話は通じなくてもメールは遅れることはあってもギリギリ届くことが多く、今回の震災でも同様の経験でしたので、被災地、被災者との連絡手段として携帯回線が最も重要なものとなっている中、携帯基地局の電源維持は大変重要な施策です。今回のような大震災、大津波では建物の倒壊や水没などを防ぐことは困難ですが、被災を免れた基地局を維持したり早急に基地局を復旧するためのポイントは電源にあります。基地局へのエントランス回線は臨時に通信衛星回線の利用が可能なので、バッテリーや発電機の重要拠点への配備を進める必要があります。もちろん、停電しない限り不要な機器ですからコスト負担が伴ないます。一定の拠点への配備基準の義務付けと料金への上乗せや国からの助成など政策面の取り組みが求められます。

 電源面では、直接の震災とは別に、地域によって大規模な停電やその後の計画停電が起っていますが、その場合、光回線は停電によって使用不能となってしまいました。今回、停電で真っ暗な中、自宅にようやく帰り着いてみたら、携帯電話以外の通信手段を一時失うという恐怖感、孤立感を味ったという人が多くいたようです。昨年、大いに議論された「光の道」とマイグレーションの際にはほとんど話題にならず、日本の電力事情の良さから不安はないというのが共通認識だったようですが現実は違っていました。やはり、光の道(及びマイグレーション)において電源のあり方に注目すべきです。現に、米国では停電が日常的に見られるので、電話会社によって光回線で電話サービスが行われる場合には、宅内終端機器側にバッテリーが内蔵されていて停電時にも途切れず継続使用が可能となっています。その上でバッテリーの劣化を見込んで一定の期間毎に電話会社から交換用のバッテリーが送られてくるとのことです。また、それらの費用は当然料金に含まれています。日本では想定外と思われていた停電時の光回線サービスの利用について、改めて関係者の知恵が必要です。「光の道」の単純な普及だけでは解決しない新たな問題です。

 もう1点、被災地の早急な通信回線の復旧では、何よりも携帯回線の立ち上がりに重点を置くべきです。避難されている方々も、多くの人達が携帯電話機を持っているので、携帯回線が回復すれば安否情報や災害救助・復旧活動のための情報収集に役立ちます。もちろん、携帯回線の回復には基地局の復旧が必要であり、その場合、電源が絶対必要なことは前述の通りですが、さらにエントランス回線が求められます。エントランス回線は固定回線の復旧が無ければ、臨時の通信衛星回線でも可能なので避難所など早く広く通信エリアを確保できることになります。あくまで立ち上がり時間がポイントですが限られた機材、人、物資を投入する際の優先度合となります。日頃から事業者を超えた役割を協議しておくべきでしょう。

 また、臨時の携帯基地局は現在のところ携帯通信各社が移動基地局車と移動電源車を現地に派遣して設営していますが、そもそもその配備数や基準が不透明なので、政策的に基準を定めて義務付けを行うとともに各社とも情報開示を行ってリスク管理の状況を明確にしておくべきでしょう。防災上の準備・配備と通信インフラの早期復旧こそ第一義として取り組むべきことで、ローミング等によるサービスのつなぎ込みでは本筋とは言えません。通信事業者が複数ありサービス水準を競争している以上、サービス復旧も競争的に行われるインセンティブがあって当然です。早期復旧した通信事業者には、被災者に自社端末機器を提供(無償を含めて)する選択肢があります。自社通信インフラの1日でも早い回復という通信事業者本来の社会的使命が発揮される時です。

 最後に2月14日―17日の4日間、スペインのバルセロナで開催されたMWC2011(Mobile World Congress 2011)で災害対策用及びルーラル地域用の携帯電話基地局が展示されていましたが、今から思えば本当に印象に残るものでした。特に、効率的な救助活動や補給活動には、救助要員や補給・運搬要員相互の通信確保が極めて重要と分っています。そのため、既に被災地にある通信機として携帯電話機が初動から使えたら誠に便利なものです。今回の会場では、英ボーダフォンと中国フアウェイが開発した可搬型携帯電話基地局が展示されていましたが、これは、総重量100kg未満、組立て所要時間40分未満、全体が3つのケースに収まり、一般的な貨物便として送り出せるもので、現在、実運用に関する評価の最中とのことでした。

 要は、「備えあれば憂いなし」、可搬型携帯電話基地局の開発や積極的な配備を進めて初動体制を効率化する一層の努力が必要であるし、災害大国の我が国では、移動基地局車や移動電源車などを含めて防災上の配備基準の法的整備や地域自治体への助成など行政面の取り組みも求められるところです。
今回の東日本大震災では被災地だけではなく日本全国に渉り、通信インフラの必要性と同時に、弱点にも気付かされた貴重な教訓となりました。新しい回線、機器、技術、サービスに応じた柔軟な防災及び災害復旧対策を再検討し再構築すべき時です。そのコスト負担に、今なら利用者の理解が得られるはずです。

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