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ICR View
2011年5月10日掲載

安否確認、緊急連絡など非常時の心得

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 東日本大震災に被災された方々、そして福島第一原発事故によって避難を強いられている方々には、引き続き大変な御苦労が続いていることと思います。改めて、お見舞いを申し上げます。

 今回の東日本大震災では通信インフラも甚大な被害を受け、局舎、携帯基地局、ケーブル等が被災し、最大時、不通固定回線約190万、停波携帯基地局約1万4千に達しましたが、NTTグループ、KDDI、ソフトバンクグループ等通信事業者各社の精力的な復旧活動の結果、4月末までにほぼ復旧が進んだとの発表がなされています。もちろん、現在の仮復旧から本格復旧への移行及び完了には今後数年以上を要すると思われますが、ここまで当面の通信インフラを確保して来た通信事業者及び工事会社、メーカーなど関係者の努力に敬意を表したい。

 今月のICR Viewでは、被災地の復旧・復興の取り組みだけではなく、災害発生時の緊急事態に際し通信手段・方法をいかに確保するのか、常日頃からの備え、心得について考えてみます。非常時になってからでは遅いことは言うまでもありません。

 今回も3月11日の地震や津波発生直後から、通信ネットワークの輻輳(ふくそう)(注)が始まり、最大で90%程度まで通信規制が実施されたので、「つながらなかった」と数多くの報道等がなされています。これは、被災地だけでなく、全国からの安否確認や防災上の緊急連絡の急増(通常の数十倍と言われています。)のため起きた現象でした。また、16年前の阪神・淡路大震災の時には、よくつながったとされた携帯電話が今回はほとんどつながらず肝腎な時につながらないとの不満の声もあがっています。災害の都度、こうした不満が寄せられているのに、対策を取っていない通信事業者は何をしているのかとの指摘すら聞こえてきます。

(注)輻輳(ふくそう)とは、混雑、渋滞のこと。道路上の交通量急増による交通渋滞と同種の現象。こうした古い用語が今日まで残っていることが、通信の混雑・渋滞に対する一般の理解が行き渡っていないことを示しています。

 今回の震災発生後の通信トラフィック“輻輳”の特徴として、以下の4点があげられています。

  • 携帯電話(音声)はほとんどつながらず、まだ固定電話(音声)の方がわずかながらつながったこと、
  • メールは到着まで時間がかかり届くのが遅れることはあっても多くはつながっていたこと(但し、携帯メールに到着の遅れが顕著)、
  • 全般的にインターネット上のサービスは比較的よくつながっており、メール、WebだけでなくTwitter、FacebookなどのSNSには大きな支障はみられなかったこと、
  • 災害伝言ダイヤル、災害用伝言板など、ソーシャルメディアを含めて安否確認サービスが大きく利活用されたこと、

 以上のことから分かるように、災害発生の非常時には音声通話に利用が殺到するので、大混雑・渋滞が起こりネットワークシステムの連鎖的なシステムダウンを防ぐための規制が行われ(これは防災関係等の重要通信確保のためでもある)、一般の音声通話はほとんどつながらなくなります。1995年の阪神・淡路大震災時の携帯電話契約数約900万台に対し、今回のそれは約1億2千万台にもなっていたので、携帯電話では通話集中度が非常に高くなって厳しい通信規制が行われ、むしろ固定電話の方がつながり易かったという訳です。

 一方、メールやインターネット(インターネット利用の音声電話VoIPを含めて)のつながりが良かったのは、第一に音声通話に比べて利用者が少なかったこと、第二にパケット通信という“待時”的通信手段をベースにしていること、が理由だと思います。要は、音声通話のように1対1で完全に発受両サイドが同時に接続される必要はなく、一方から他方へ多少の時間がかかっても情報が送り届けられればよいので、トラフィック制御面では規制する必要度合が低く出来るという特色が見事に表れていたということです。また、インターネットはこうしたパケット通信の特徴の他に、音声通話に比べればまだまだ利用者が少ないことが、今回、スムーズなそ通をもたらし、SNSの機能発揮につながったものと考えられます。

 災害用伝言ダイヤル等の非常時のサービスは、まさに、同時接続が出来ない場合(ここで取り上げている輻輳時だけでなく、例えば避難途中で連絡が取れない場合も含まれる)に、待時的に相手に連絡する、即ち、情報を送り届ける手段を通信事業者等が提供しているものと理解出来ます。

 これらのことから、災害時、非常時の緊急通信手段としては、

  1. 音声通話だけでなく、メールや伝言ダイヤルなど、待時的な連絡手段を含めて複数の通信方法を日頃から確保し、使い慣れておくこと、
    (注)今回、NTTドコモが開発を発表した音声ファイルをメールと同様にパケット通信で送信する新しい形の伝言板サービスも、使い易いとは言え、やはり使い慣れが必要なことは言うまでもありません。
  2. 特に、携帯メールは比較的よく届くことが理解されているので、送信先のメールアドレスをあらかじめ登録して準備しておくこと、
  3. 被災地との通信連絡は、被災者の避難の妨げとなる可能性もあるので音声通話ではなく、時期を選んで読み取れるメールがよいこと(逆に、被災者からは肉声を届ける意味から、可能であれば音声通話も望ましい)、
  4. これらのことを、防災訓練や防災グッズの準備の時など防災心得として日頃から認識し実行しておくこと、

が必要になります。こうしたことは、米国ではインターネットやパンフレットなどで“tips”(秘訣、助言の意味)として、しばしば登場し子供達や数多くのグループなどで周知されていますが、日本ではこの種の取り組みはどうしても他人事のように見られてしまうことが残念でなりません。

 そもそも、どのような事態においても絶対につながる通信システムを作ることは現実的ではありません。そのためには膨大なコストがかかり、結局、通信料金に跳ね返ることになるからです。そのことを踏えた上で通信事業者においても、非常時にはトラフィックが集中・殺到して大混雑、渋滞してつながりにくくなる事象が避けられないことを分かり易い用語と方法で利用者に開示、説明し続けることが求められます。言葉として正確であっても、一般に使用されていない「輻輳(ふくそう)」という用語では理解はやはり進まないでしょう。何か新しい工夫が求められます。このことは、例えば福島第一原発事故の説明の際、専門用語や外国語、そして一般的でない言い回しに聴き手として不満を募らせたことで理解出来ることと思います。

 情報通信に携わる者こそ、非常時に対して通信インフラというハード面だけではなく、情報の伝え方、情報通信の利用の仕方などソフト面まで含めて、あらかじめ備えておく心得が大切です。米国のtipsの例にならって、啓発活動をもっと広報に取り入れてみてはどうでしょうか。

AT&Tの津波に対するtips(抜粋)の例;

  • 事前に家族内の連絡計画を決めておこう
  • 緊急を要しない通話は最低限に抑えよう
  • SMS(ショートメッセージサービス)を使おう
    (注)米国では日本のように携帯メールは一般的ではありません。
  • 緊急連絡先(電話番号、Eメールアドレス)は全て携帯電話に入力しておこう

など

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