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2011年8月4日掲載

「大きいことは良いことだ!」を考える
−「もったいない」から「ものがない」へ−

マーケティング・ソリューション研究G
グループリーダー 田中 和彦
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値段より大きさ、快適さ

 「大きいことは良いことだ!」は1967年にチョコレートのテレビコマーシャルで流れたキャッチフレーズで、50円のチョコレートは当時としては画期的な値段と大きさだった。

 それは、小さな安い商品よりは、多少値段は高くても、大きめで満足感の伴う商品を消費者に訴求し、利益を上げるという大量生産、大量消費の発想である。

 その後、1970年代に、石油ショックが起きて、日本は省エネ技術に工夫をこらし世界的な優れた省エネ技術の開発につながった。

 さらに2005年に「もったいない」が注目され、国際的なスローガンにもなった。

「もったいない」から「ものがない」へ

 2011年3月11日の東日本大震災によって生じた福島第一原子力発電所の事故、また、全国の原子力発電所の停止、再開不能問題によって、日本は、「もったいない」から、電力という「ものがない」国になってしまった感さえある。

 思えば、昔の冷蔵庫ではアイスクリームが溶けてしまったが、今では、冷凍室付冷蔵庫が普及し冷凍食品の保存が可能になった。冬は、トイレに座れば暖かく、用が済めばお湯が洗ってくれる。夏は、どこに行っても冷房が効き、鉄道では弱冷房車が必要で、家庭でも複数の部屋にエアコンがあるのは珍しくない。電気炊飯器で炊いたご飯はいつでも温かく、ポットのお湯でカップ麺も作れる。冷暖房、給湯、調理など全てを電力でまかなうオール電化住宅も出現した。

 電気事業連合会の統計によれば発電量は日本全体で30年前の1980年に比べ約2倍になっている。電力に関して贅沢が当たり前になってしまっていたのではないだろうか。

ICTにおける驚異的な進化

 コンピュータやネットワークのICTの世界も、高速化、大容量化、高性能化が進んで来た。

 インターネット以前のパソコン通信の初期ではカプラという装置を電話機の送受話器につないで、通信速度は300bps程度であった。現在では100Mbps〜1Gbpsと言う回線速度が利用可能である。CPUのクロックは、数百kHzが数GHzになり、世界初のスーパーコンピュータCRAY-Iのクロックは80MHzであったが、今ではノートブックやスマートフォンでも1GHzを超えている。記憶装置もフロッピーディスクは1MB程度であったが現在では数TBというディスクが安価に入手可能である。

 何倍になったのかは、桁が分からなくなる位の変化である。2倍、3倍ではなく、3桁、6桁の変化が起きている。日々私たちが使っているパソコンなどは、初期の製品に比べれば、1000倍、100万倍の能力を持っていることになる。

 一方、私達、人間の考える速度や考えた結果を、例えばキーボードで入力する、情報を発信する速度が1000倍、100万倍になっているだろうか。自明であるが、その速度はさほど変わっていないであろう。

 確かにパソコンのレスポンスは速く良い方が快適ではあるが、瞬間的に表示される情報量、入力を待つ入力プログラムのアイドリングステップ(無駄ループ)が1000倍、100万倍になっているだけではないだろうか。

例えば「もったいない」無駄に速いLAN回路

 パソコンのLAN接続回路の速度は、現在、1Gbps(1000Mbps)が一般的であるが、100Mbpsでも、実用上は大差が無い。

 手元のパソコンで試して見ると、古いパソコン(Intel Pentium-4 2.4GHz)では、1Gbpsから10MbpsにLAN速度を落としてもほとんどインターネット上のHPが表示される時間(8URLで約30秒)に差はなかった。最新のパソコン(Intel i7 2.8GHz 4core/8thread)では、さすがに10Mbpsでは表示までの時間が2倍程度(約4秒が8秒)になったが100Mbpsではほとんど差がなかった。

 回路的には、1Gbps LAN(1000Base-T)では8本(4対)のワイヤ(電線)を4個の回路で駆動し、100Mbps LAN(100Base-TX)では4本(2対)中の2本(1対)のワイヤを1個の回路で駆動するので消費電力に大きな差がある。

 パソコンのLAN接続回路が、1Gbpsでも、企業のLANでは、ルータや配線の事情で100Mbpsということもある。この場合には、せっかくの高速なLAN接続回路が生かされない。

 LAN接続回路でも省電力化が進んでいるが、仮に1Wの差だとして、先日、マイクロソフトが発表した東京電力管内で使われている推定パソコン台数、約2000万台が1Gbps LANから100Mbps LAN化で1Wの省電力化が図れるとすれば、2000万W、すなわち2万KWの省電力化が図れることになる。

 現在、東京電力管内の電力消費は、4000万KW〜5000万KWであり、2万KWは比率で見れば0.05%程度であるが、無視出来ない消費電力だと思う。

身の回りに「もったいない」「ものがない」対応可能なものが

 これまで「大きいことは良いことだ!」で進んで来た事物を改めて「そこまで必要か?」「本当に必要か?」などの観点で見直して見ると、意外なところに「もったいない」あるいは「ものがない」に対応可能なものや工夫があり得るのではないか。

 これらは一つ一つは小さなものでも「塵も積もれば山となる」で効果をあげることが出来るのではないかと思う。

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