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2011年10月13日掲載

電力使用量の可視化〜今夏を振り返って〜

企画総務グループ
グループリーダー 田川 久和
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 夏の節電を企業や個人の努力によって何とかのりきった日本、その対応の過程でいくつもの課題もみえてきました。中長期的な需要と供給の関係等大きな課題もありますが、ここでは当社のような中小企業が頭を悩ませた「いつ、どこで、何が、どれだけ使われているかわからない」なかでの対策の立案・実施の過程で改めて明らかとなった課題を考えてみます。

 まずは当社の例をみていただきましょう。

 把握できる数値は請求書に添付された「月毎・各階毎の電力使用量」の過去データのみで「日時のデータ不明」。削減目標値は機器類のカタログ値から電力消費量を推定し機器更改や使用制限等の施策を理論値から考える、これが計画でした。次に測定方法です。電力使用量測定ソフトウェアの導入も検討したのですが、システムやソフトウェアの完全性・安定性と時間的制約の両面から拙速な導入は控えました。その代替策として、直接に「可視化」できなくても、なにかベンチマークとして数値として可視化できるものはないか?幸いにして屋上(実際、屋上にあがるのも大変)に各フロアの空調設備毎のメータ(家庭と同じ)があり、これを手作業で総務の人間が週一回、人の目で読んで、前週との比較により、「今週の各階の空調使用量」として、私たち社員自身が目にみえる形で張り出すこととしました。なんとも原始的な方法ですが、私たち自身が「空調使用」に対する意識が高まり、それ以外の電気使用にも気をつける、いわば「気づき効果」というものも出てきます。その結果、請求書とともに送付されてきた7月から9月の「月毎・各階毎の電力使用量」は、対前年度比較で政府の目標以上となりました。

 世の中の中小企業では、大体私どもと同じような対処を講じてきたものと思います。その他にも政府やメディア媒体による、マクロでの電力需給量の予想や節電方法の広報によって、人々の「意識」に訴えた効果が大きかったのでしょう。

 これらの事実から考察すると、まず「直接データの可視化」に加えて「関連データの可視化」によっても「人の意識の向上」が図られ、目標が達成されたということです。このこと自体は喜ばしいことで、まさに「日本人の社会全体に対するコミットメント意識」が高かったということになるでしょう。諸外国の雑誌等の、メディア等で、「他国ではここまでうまくいかなかっただろう」と論評されていますが、肌経験からも、まさにそうだと思います。

 一方で、諸施策と直接結びつかない関連データも使わざるを得なかった故に、本当に効果的な対策であったのか?過度に行きすぎた対策はなかったのか?もっとバランスよい対策があったのではないか?という疑問も残ります。また、「意識」による効果というものは短期的には有効でも中長期には続かないものです。

 では本来あるべき姿というのは、どういうものでしょうか。いうまでもなく「使用電力が可視化」され、利用者が「数値」を「リアルタイム」で把握できており、電力供給量に対して、利用者自身が即座に反応できる「仕組み」があるということでしょう。この「仕組み」は「スマートメーター」とそれに付随するソフトウェアという形で、既に欧米で普及が始まっています。事実、今夏の長期休暇を利用して北イタリア地方を旅行したのですが、ほとんどの家庭や企業で既に「スマートメーター」が設置済でした。

 欧米における「スマートメーター」の普及は、電力自由化を一つの契機とし、不安定な風力等の再生可能エネルギーをコントロールする等、いわゆるスマートグリッドを実現させるには不可欠な機器であったからでしょう。それでは日本ではどうかというと、今年2月に「スマートメーター制度検討会」による報告書がまとまった段階です。なぜ日本で導入が遅れたかの分析自体も課題ではありますが、ここでは複数国において既に「スマートメーター」が普及しているという事実と、今夏も「日本にこれさえあれば」という感覚が重要でしょう。

 いずれにしても日本の電力使用量割合は、大雑把にいえば、大企業1/3、中小企業1/3、家庭1/3です。需要量で2/3を占める中小企業、家庭の「意識向上・維持」と「日本人の社会全体に対するコミットメント意識の高さ」に頼ることには、おのずと限界があるでしょう。

 電力供給制約が現実となった現在、エネルギー政策全体の再考という大きな課題を考えることは勿論重要ですが、その議論の過程で、「データの可視化」について、利用者の目線にたった議論と実現が急がれているのではないでしょうか。

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