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2012年3月15日掲載

東日本大震災後の我が国国際競争力
−各種法制の内外格差是正が急務−

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 昨年の3月11日から、ちょうど1年が経ちました。東日本大震災で被災された皆様に、改めてお見舞を申し上げますとともに、亡くなられた方々の御冥福をお祈りいたします。
 この1年間は、復旧・復興を第一に国全体で取り組んで参りましたが、その進捗は遅く、また街造りや高台移転、原発のあり方と電源確保、予想される東南海地震や東京直下型地震など国のあり方に係る基本的問題とその方策には、今のところ十分に手が回っていません。残念ですが、この状況が現在の我が国の実力なのでしょう。私達、国民一人ひとりがこの事実を直視し受け止めないと何事も始まらないと自覚しないといけません。
 幸いにして、情報通信分野についてみると、通信事業各社の素早い緊急復旧対策が功を奏し、昨年5月の連休前には一応のサービス復旧が終了し、通信インフラが確保されました。現在は、災害に強い、より堅牢な通信設備を構築する本格復旧にあたっている状況です。ただ、今回の大震災から得られた通信サービス面の教訓には、
  1. 直接の通信設備以外の対策が必要
    停電時のバッテリーと発電機の確保、燃料の備蓄と配送手段、衛星利用による代替
  2. モバイル通信の重要性
  3. 緊急時の輻輳(ふくそう)対策の強化
    IT利用と待時系通信の活用、ネットワークの仮想化
  4. 安否情報確認手段の確保
    多様な方法と習熟、SNSの活用などソーシャル化

など多岐に及んでいます。

 さらに、この1年、災害からの復興にあるなか、我が国の経済活動はサプライチェーン面のリスク、円高の継続など国際競争力を失いつつあります。当面のところでは、補正予算等復旧関連事業による下支えによって、景気、経済活動は水準を維持していますが、根本的には国際競争力は、新興国からの低コスト圧力と先進国からのイノベーション圧力とにはさまれて、誠に厳しい状況にあるといわざるを得ません。

 残念ながら、あまりの厳しさに根本的・長期的対応策を立てられず、取り敢えずコストカットを行い、国内生産工程を縮小して海外移転を進めるといった方策が数多く見られます。個別企業としては当然の行動であり、やむを得ないところです。
しかし、視点を少し長期にとってみると、日本の産業を支えてきた仕組みがグローバル化が進むなか、新しい環境に合わなくなってきているのではないか、従来の仕組みのベースになっていたさまざまな法制度が企業の経済活動や国際競争上、逆に桎梏となっているのではないか、と思われる事象が見られるようになっています。それは、個々の産業政策を進める各種の促進法や支援法の類いではなく、国の法制の基本となる法律にグローバル化の昨今、内外格差が生じているのではないでしょうか。こうした基本的な法制のあり方にまで手を入れておかないと、これからの新しい時代の成長を取り込むことは難しいと思っています。

 例えば、著作権や特許権を扱う知的財産に関する法制度や消費者保護と情報活用まで含めた個人情報保護法制、さらには、現在活発に議論されている会社法制、また、契約のあり方の根本に及ぶ民法(債権法)改正など、数多くの根本問題が取り上げられています。ただ、残念なことに、国の基本法制であるだけに、さまざまな関係者の利害が複雑に絡み合い、なかなか国の制度のあり様やグローバル化のなかの国際競争力強化の方向など国益にかなう共通認識にまで至っていないような気がします。さらに、法制ではありませんが、IFRS(国際会計基準)の適用やTPP交渉も同根の問題でしょう。

 産業の競争力を取り巻く環境は、グローバル化や国際取引、国際的な比較競合が一層進展しており、価格や品質は当然として、ベースとなる法制面、即ち、各種の権利・義務、契約や訴訟のあり方までが国際競争力を組成していると認識すべき現状となっています。つまり、法制のグローバル化が求められているのです。もちろん、法制度においては、製品やサービスと違って国家の主権が絡んでいるので、いわゆるグローバルスタンダードが存在するわけではないので、何が標準なのか、どれを標準とするのかを議論してもあまり意味はありません。要は、競合競争するなか、何が勝ち組なのか、どのようにすれば勝ち組になれるのかを先読みして、国際競争力を向上させる方策を法制度に取り入れることを検討する際の価値観とすべきでしょう。欧米先進国に追いつけ追い越せ、その一方で、自主技術の開発発展とをバランスよく使い分けてきた産業政策が、新興国と先進国との板ばさみ状態のため破綻状態となっている今日に至ってもなお、いろいろな法制度が国内向けのまま残存していることが気になります。

 著作権者と産業化・サービス化とのバランス調整、個人情報の保護と活用の両立と推進、取締役の過重な責任の制限と柔軟な経営行動の促進、国際間の契約関係に適した権利と義務、また、個別の産業を規制する業法においても、競合競争する先進国との比較において、規制緩和の進展差から規制の内外格差が生じているケースがしばしば見受けられます。グローバル化の潮流のなかでは、市場を大きく取って早めに展開した者が勝ちを制することにつながるということで、自由化、規制緩和が国際競争力を強化するポイントとなっています。特に、ICT産業のように、イノベーションが新サービスを生み出し新興企業の成長力を加速させている分野では、内外規制差は自国産業に過度に制約を課し国際競争力を弱体化させることにつながりかねません。徹底して外に対して門戸を閉じて自国産業の保護を図ることは、もはや許される国際環境ではないのですから、これからはより一層、規制緩和を進めて国際競争力を向上させる仕組みとなるよう各種の法制を根本から見直す必要があると考えます。

 最後に、先月、閣議決定されて、ようやく今通常国会に提出された「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」、いわゆるマイナンバー法案は、ここに至るまでグリーンカード論議以来30年以上、住基ネットの大論争、最高裁判決を経てようやくこの段階まで到達しました。もはや、後戻りすることなく、今国会で一日も早く成立することを願って止みません。この問題、即ち、国民共通番号こそ、グローバルに見る限り我が国が完全に遅れた事象であり、こうした仕組みをもってこなかった日本の経済社会の諸活動においては、国際競争力を失わせている典型的な法制の遅れであると言っても過言ではありません。

 この共通番号は、単に税と年金等の国家的活動・サービスに利用されるだけでなく、国民一人ひとりの存在を明確にして、たとえ大災害や不測の事態にあっても国民を保護し、国の安全を脅かす存在を明らかにする、国民に安心をもたらす基本的な法制であることを再認識すべき時です。東日本大震災を受けた今日、改めて、この種の取り組みの必要性をつくづく感じています。

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