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ICR View
2012年5月7日掲載

変わりゆく企業情報システム

企画総務グループ/情報サービスビジネスグループ
部長 田川久和
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ある企業のCIOスタッフにお伺いした話です。「社内のグループウェアを自社保有からクラウド型に変えたのだが、自社保有より格安、バージョンアップや維持・運用、災害対策の心配もなく、おまけに機能が豊富。でも、スケジューラ機能が不評だったので、他社に乗り換えるかどうかのアンケートを取るため、このグループウェアを使ってアンケートを作り、全社員に送付、2時間もたたないうちに約25%の人から回答があり、しかも自動的に集計してくれる。アンケートを作り、依頼文書を作り、メールで送って、回収して、それから集計したら、何日もかかったことだろう。それがかかった稼働は、わずか数分。このアンケート機能が、他社への乗り換えを思いとどまらせた。いとも簡単にサービスを享受し、ホワイトカラーの生産性向上を実感した。」

まさにテクノロジー(情報通信、情報処理等)による変化を表す典型例だと思います。情報システムの利用者は「必要な情報」を「必要な時」に「適切な状態で」受け取るサービスを享受する。ソフトウェアは保持せず、ネットワーク(雲)の向こう側にあり、ユーザはその存在を意識しないで必要なときに必要なだけ消費するという、いわゆるクラウド的な発想が急速に実用化されつつあるということでしょう。

この例はグループウェアという汎用的なソフトウェアでしたが、他の企業情報システムにも急速に普及していくことでしょう。例えばミッションクリティカルな基幹系システムであっても、ソフトウェア自体がその企業にとっての競争優位性を左右しないのであれば、特段、独自システムを構築・保有する意味はありません。

このトレンドが加速すると何が起こるか? 提供者たる供給サイドでは機能・性能・価格を競い「規模の経済」を求めての競争が熾烈になるでしょう。これはこれで情報サービス産業自体に大きな変化をもたらしますが、ここでは利用者たる需要サイドでの企業のIT戦略立案者やITガバナンスの立場、即ちCIOとそのスタッフの変化に注目してみましょう。

今まで企業のIT戦略立案者は、経営戦略の理解に加え、システム構築から維持・運用に至るまでの情報システム全般に対する深い理解、更にはシステムに関わる実作業も必要でした(ユーザ側に深い理解がない場合には、ベンダに頼り切りの状態、いわゆる「ベンダ・ロック・イン」の状態になってしまうのですが)。たとえユーザ側といえどもシステムの基本設計やテスト、維持・運用等、それなりのソフトウェエアに対する知識が必要でした。これはパッケージやERPの導入でも避けて通れないものでした。ところが、今後は機能・性能・価格で「世の中にいいものがあるか」という「目利き能力」とその組み合わせの妥当性を検証できることが重視されるようになります。また使えなければサービスをやめてしまい、新しいサービス提供者に乗り換えれば十分だということになります。この意味で、経営サイドの要求であるスピード感を満たしつつ、テクノロジーサイドの発展を見据えることも可能となります。逆の言い方をすれば、何もテクノロジーの新旧にこだわる必要もなく、いわゆる「枯れた技術」を使っていても享受できるサービスさえ良いものならよいわけです。

ここで考えたことは、世の中のCIOやそのスタッフは頭ではわかっていることだと思います。冒頭のCIOスタッフが言い得て妙な表現を使いました。「ちょっとだけ思考、ちょっとだけ想像、ちょっとだけ勇気、そして実行・・・人間は変化を恐れる動物である」。

なるほど「変革を恐れるな!」と口では言っても、人間そう簡単には今までの経験や常識を捨てきれるものではありません。しかしながらグローバルレベルでの環境変化が経営にスピード感と競争優位性の追求を問う今日、企業情報システムに関わる人や部署だけが変わらないというわけにはいきません。自戒をこめて言うとすれば、今求められているのは、この変化をチャンスと捉え、自ら変革していくことではないでしょうか。

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