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ICR View
2014年4月10日掲載

クラウド?ビッグデータ?
〜その前に考えるべきこと〜

(株)情報通信総合研究所 取締役
社会公共システム研究グループ
部長 田川久和

4月1日の日経新聞朝刊3面に「アマゾン、クラウドで席巻―安さと両輪で稼ぐ」と大きく取り上げらたこともあるのでしょう。最近、企業経営者の方々から「そんなにアマゾンのクラウドってすごいの?うちでも検討してみる価値ある?」と問われる機会が多くあります。そのたびに「AWS(アマゾン・ウェッブ・サービス)というクラウドは、規模の経済を狙った価格戦略とあいまって、急速に普及しているのは事実です。昨年IBMの提案と競り合った結果、CIA(米国中央情報局)が採用したというニュースを聞いたときには驚きました。テクノロジー的にも進化し続けており、AWSのビッグデータ分析基盤との連携によりデータ解析も容易になりつつあります(※1)。AWS以外にもそれぞれ特徴をもったクラウドやビックデータの製品があるので比較検討してみるのは有効ですが、その前に(あたり前の話で恐縮ですが)御社の事業特性、経営(事業)戦略、競争優位性、それらに基づくアクションプランなどを考えることが先です。ICTは重要な要素ではありますが、所詮は道具(技術)でアクションプランの一部にすぎませんから。」とお答えしています。

その上で「うちでも検討してみる価値ある?」という問いですが、ざっと事業内容や規模、競争環境や現在のIT環境等をお聞きすると、当たり前の話ですが、大別すれば3つのシナリオに別れます。(1)システム化自体が不要、(2)今あるシステムを使いきったほうがコスト的にもリスクの面からも得策、(3)一部領域、または全領域において早期に検討に着手すべき、です。しかしながらいずれのシナリオにおいてもシステムサイドというよりも、業務フローを含めた業務運営方法、さらには経営(事業)戦略、中でもその企業(事業)の競争優位性に遡って考え直す必要があるというケースが多いというのが現実です。

ICTの世界では2011年あたりからIDCが提唱している「第3のプラットホーム(クラウド、ビッグデータ、モビリティー、ソーシャルビジネスという4つによって形成される情報基盤)」というトレンドがあります(※2)。進化が速いテクノロジーという外部環境の中でも最も顕著なスピード感があるICTの発展は目覚ましくこのトレンドの重要性は議論の余地がないでしょう。特にインターネット革命により「もの」も含めた多くのデバイスがネットワークにつながる中(最近、IoT:Internet of Thingsという概念で語られます)、あらゆる産業に必要不可欠な道具となったICTの発展に目配りしておくことが企業経営にあたっては重要なことではあります。

一方でこれら技術(道具)に過大な期待をよせることにも注意が必要です。ガートナー社が用いているハイプ・サイクルでは、テクノロジーの進化のステップを「黎明期」、「過度な期待のピーク期(流行期)」、「幻滅期」、「啓蒙活動期(回復期)」、「安定期」の5つの段階で説明しています。この進化のステップに従えば、新聞紙上をにぎわしている際には、一種の流行期にあると解釈することもできるわけです。

私自身は、ICTの世界では「クラウド(※3)」や「ビッグデータ(※4)」は、あくまでも概念であって個々のテクノロジーや要素技術の革新や進化をうまく包含する表現であると捉えること、またそれぞれの概念が今までと全く違う対立する概念ではなく、あくまでも「テクノロジーサイドの選択肢が増えた(※5)」と考えるのが現実的だと解釈しています。

繰り返しになりますが、インターネット革命を経た今日、ICTは企業の経営(事業)戦略の遂行にあたって重要なファクターです。しかしながらあくまでも技術(道具)にすぎません。ICT業界が発信する概念はそれ自体が世の中の動きのトレンド(またはトレンドをつくるため)ではありますが、捉え方によってはバズワードになりかねない流行に踊らされないことが肝要です。自戒の念もこめて。

※1 AWSを代表とするクラウドやビッグデータ、要素技術としてのHadoop、インメモリー、RDB、IoTで通信コストを抑えるシスコやオラクルのセンササイドでの分析処理等のテクノロジーサイドにご興味がある方は、「日経コンピュータ2014.2.20 アマゾン参入で分析を安価に(進藤智則氏)」がわかりやすくポイントを解説しています。

※2 2014年1月29日のIDC Japanの「Japan Predictions 2014」では、クラウド、ビッグデータ、モビリティー、ソーシャルビジネスの4要素(ピュラー)に加えテーマごとに4要素(ピュラー)全体にかかわるエコシステムという概念も重要と提唱しています。
 また企業等の需要サイド同様、このトレンドが供給サイドであるコンピュータ・ベンダや情報サービス産業全体にあたえる影響が極めて大きいことが、締めくくりのセッションで提起されています。このベンダサイドの動きは重要で、「日経コンピュータ2014.2.20 第3プラットホーム時代日本の3社は生き残れるか」として、北川賢一氏が独自の視点で鋭い分析、洞察を加えられており、ぜひ一読をおすすめします。

※3  クラウドの現在、過去、未来(InfoComモバイル通信T&S 2011年2月号(通巻263号)

※4 「半分だけ正しい」常識〜ビッグデータ時代を考える(InfoComモバイル通信T&S 2012年2月号(通巻275号)

※5 流行と現実〜振り子のように(InfoComモバイル通信T&S 2012年12月号(通巻285号)

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