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InfoComアイ
1997年12月掲載

この国の未来のために

  「この国のかたち」の再構築をめざす、行政改革会議の最終報告がだされ、この国の改革が始まろうとしている。そうした時期にあって、ダイナミックな変革が進む情報通信の世界から、この国の未来を考えるうえでの素材を提供したい。
新たな議論のスタートとなれば幸いである。

1.エポックメイキングな年、1997年を振り返って

 未来を語る前に、まもなく幕を閉じようとしている1997年を振り返っておこう。

 1997年という年は、情報通信の世界におけるエポックメイキングな年として記憶されるだろう。
 先ず挙げられるべきは、1997年2月のWTOにおける電気通信自由化の進展に向けた基本電気通信自由化交渉の決着である。電気通信市場の世界的な競争体制への移行という画期的な意義とインパクトをもつことが予想されるが、その詳細については「加速するグローバル大競争〜WTO電気通信自由化交渉の意義」(InfoComアイ 1997.3掲載分)ならびにInfoCom Review第11号(1997年7月)掲載論文「WTOにおける基本電気通信自由化交渉の決着について」(弊社研究員 光山奈保子)を参照されたい。

 第2のエポックは、1997年6月、日本の電気通信市場改革をめざす日本電信電話株式会社法、国際電信電話株式会社法、電気通信事業法の改正が国会で可決成立したことである。電気通信市場の自由化と規制緩和の進展、国際通信市場の再編に伴い、国内においても既存電気通信事業者の提携、合併の動きが活発化していることは周知のとおりである。

 第3のエポックとしては、1997年11月、世界の企業買収史上最高額の370億ドルで合意に達したWorldCom/MCI合併が挙げられよう。BT、GTEではなく数年前までは社名すら知られていなかったWorldComによる買収は、Telecom Dealに対するInternet Dealの勝利であり、これまでの巨大電話会社による多国籍企業の囲い込みを目的とするグローバルアライアンスからインターネットビジネスの覇権獲得を目的とする事業者間提携、合併への移行を象徴するエポックのように思われる。

 合併までには解決されなければならない問題が残されてはいるが、既存通信事業者のネットワークをバイパスして世界のインターネットトラヒックの40%、2,000以上のPOPを運用する一大インターネット事業者の出現は第二のネットワーク事業者(second-tier player)がAT&Tを初めとする既存通信事業者にとって代わる時代の到来を予感させてはいないだろうか。

2.情報通信の世界はどこに向かって

 以上、エポックメイキングな1997年を簡単に振り返ったが、それでは情報通信の世界はどこに向かって動いているのだろうか。 結論からいえば、第1にはグローバルな競争の進展、第2には電話からインターネットへのシフト、そして第3には電気通信事業者も1プレーヤでしかない情報通信産業の構図への転換であり、情報通信市場の裾野の拡大である。

 「電話会社に未来はあるか」(InfoComアイ,1997.10掲載分)で紹介したITU報告書、またNTTの平成9年度中間決算にも明らかなように、先進諸国における電話市場は急速に成熟段階にはいってきている。その一方でグローバルな競争市場において急激な拡大が見込まれているのはインターネットの分野である。
 電話からインターネットへのシフトは、各国キャリアを主たる供給先とする、端末、伝送、交換、通信処理という機能領域に区分された端末機器、線材、交換機、コンピュータ等各メーカから構成されるバーチカルな情報通信産業の構図からハードウェア、ソフトウェアベンダーを初め、第二のネットワーク事業者のISP、オンラインサービス事業者、CATV事業者等のサービスプロバイダー、コンテンツ提供業者、さらにはクレジット業界、家電メーカまでもインターネットビジネスのプレーヤーとして引き寄せ、プレーヤ相互間の競争と合従連衡を促すというフラットな構図への転換を引き起こしている。

 メガキャリアといえどもサービスプロバイダーという領域での1プレーヤにすぎず、エレクトロニックコマース、イントラネット接続サービス、Webホスティングをビジネス顧客に提供するにはハードウェア、ソフトウェア、インテグレーター等のベンダーとの提携、パートナリングが不可欠になってきている。
 明らかにインターネットは、情報通信産業の構図、情報通信市場の概念、そのなかでの電気通信事業者の事業展開と領域、事業者間の提携の動機と態様を変えてきている。

3.「この国のかたち」の再構築に向けて

 時あたかも情報通信の世界が様変わりしつつあるこの時期に行政改革会議の最終報告が発表された。行政改革の理念と目標として掲げた次の文を引用しておこう。
「この国のかたちの再構築を図るため、まず何よりも、肥大化し硬直化した政府組織を改革し、重要な国家機能を有効に遂行するにふさわしく、簡素・透明な政府を実現する。」  政策論議不在、政治的配慮優先等の批判はあるものの、内閣機能を強化し国の基本政策を決定する戦略性をもたせるとする発想は、この国の未来のために国家戦略としての情報通信の重要性を強調する立場からは評価したい。

4.求められる情報通信の国家戦略

 国家戦略としての情報通信の重要性については平成9年6月にだされた電気通信審議会答申「情報通信21世紀ビジョンー21世紀に向けて推進すべき情報通信政策と実現可能な未来像ー」の第1章 大競争時代の情報通信の役割のなかの次の一文を引用させていただく。 「情報通信は、国民、企業、政府等あらゆる経済社会主体の活動を従来とは異なったかたちに再構築することにより、我が国経済社会システムを横断的に変革するツールとして、次のような重要な役割を果たすことが期待される。」  さらにこの国の未来を考えるにあたり以下の点を補足しておきたい。
 情報通信が経済社会主体の活動を従来とは異なったかたちに再構築するとは、バックボーンネットワークとパーソナルコンピュータ、イントラネット等による新しいネットワークインフラストラクチャー、プラットフォーム上で従来とは異なる経済社会活動が推進されていくということであり、経済社会の新しい枠組みが構築されていくということである。
 新しいネットワークインフラストラクチャーの上では、企業と消費者、顧客と生産者、企業と企業間の需要と供給のタイムラグが世界規模で極小化されるとともに市場情報の予測可能性も高まり、企業の投資行動、一国経済の景気変動もこれまでのアナログプラットフォーム上とは異なってこよう。

 このように情報通信はこの国の経済社会の枠組みを大きく変えていくとともに、この国の産業の牽引役となり、産業構造を再編成していく役割が期待されている。
 情報通信を国家戦略として推進していくことの重要なことは、全米情報基盤(NII)構想、1996年2月の通信法改正、1997年2月発表の一般教書演説のなかでのインターネットによる教育、医療改革等の一連の情報通信政策が今日のソフトウェア業界を初めとする米国情報通信産業の隆盛を促し、経済成長の牽引力となっていることからも明らかである。
 行政によりコントロールされた各国キャリアの母艦から国内電気通信産業がテイクオフしていった、かつての護送船団方式から情報通信が一国の経済、産業政策の重要なパラメータとなり、インターネットを巡るプレーヤ間のグローバルな競争、提携方式への転換が進むなかにあって、21世紀に向けた国家戦略が明確に示されない国に未来はあるのか。

 最後に情報通信と国家戦略の関連で注意を喚起しておきたいのは、国家危機管理、国家安全保障である。グローバル化、オープン化が急速に進展しているなかで、一国の神経系ともいえる情報通信に国家的見地からの一層の配慮と備えが必要とされることは言うまでもない。

グローバルシステム研究部 平川 照英
e-mail:hirakawa@icr.co.jp
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