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情報通信 ニュースの正鵠
2009年12月3日掲載

Twitter的サービスは人類を二極化させる(かも)

[tweet]

 先日、ある講演会で、作家の渡辺浩弐さんが「人類は今後、積極的に外に出かけて行ってそれをネット上で発信しまくる『リア充』(リアルな生活が充実している人)と、ネットを通じてそれを追体験する『引きこもり』に、二極化していく。Twitterはその初期形態だ」という主旨の発言をされていた。そして、「1万人に1人のリア充がいればいい」とも語っていた。

 確かに、Twitterで情報発信している著名人と、そのコメントをフォローしながら経験を共有している人達の関係を見ていると、そのような社会もあり得る気がする。

 しかしこの「二極化」は、「すべての人がネットと密接に関わり合う」という前提で語られている。いずれはそうなるのかもしれないが、より短期的には、別の二極化が顕在化する可能性の方が高いであろう。

 それはTwitterなどのサービスを通じて、「常にネットと接続している人達」と「そうではない人達」という二極化だ。

 「検索サイトで情報を探す」とか「メールをやりとりする」というネットの基本的な機能は、利用頻度の差はあっても、いずれは皆が利用するサービスになる。しかし、Twitterは違うと思う。2ちゃんねるのような掲示板も、MixiのようなSNSもそうだが、ネット上にコミュニティをつくるサービスは、利用する人としない人がはっきり分かれる傾向が強い。

 そうなる理由の一つはユーザー間の習熟度の格差である。この種のサービスでは、利用が進む過程で、次第に独特の慣行(略語とかマナー)が形成されていくので、それらを知らない初心者にはとっつきにくい。初めてTwitterに登録して、どのコメントを誰が発しているのかさえ理解できない段階で、「なんだかよく判らない」とやめてしまう人もいるだろう。

 また、ネット上のプレゼンスは情報の発信量に相当程度比例する。たくさん情報発信していれば、多くの人に見てもらえるし、コメントも返してもらいやすい。使えば使うほど居心地が良くなるという仕組みになっているので、ヘビーユーザーの利用時間は徐々に増えていく。

 当初Twitterは、「コメントをフォローする時に相手の承認が必要ない」点などを捉えて、「Mixiなどと比べてゆるいメディア」と称されたが、ユーザーのTwitterへの向き合い方は、けっして「ゆるく」ない。むしろ、コメントがどんどん流れて行ってしまうというリアルタイム性や、iPhoneなどのスマートフォンで利用しているユーザーが多いという事情もあり、Twitterのヘビーユーザーの方が、「常時接続している」印象が強い。

 こうなってくると、「一般の人はほとんど知らないが、Twitterユーザーはほとんど全員が知っている」という情報が増えてくる。例えば、今年の夏に「広瀬香美さんがビバ☆ヒウィッヒヒーという歌を作った」というニュース。Twitterユーザーで知らない人はいないと思うが、それ以外でこのニュースを知っている人はどれくらいいるのだろうか。

 このような、Twitterユーザーとそれ以外の人達の情報格差は、今後さらに拡大していくだろう。

 そんなTwitterに、最近また、注目すべき動きがあった。同社は今年の8月に、「サービス開発者向けに位置情報機能を提供する」と発表していたのだが、複数のオンライン・メディアによれば、11月19日にその提供が開始された。

 これによって、従来のように「○○さんのコメントをフォローする」といった使い方だけでなく、「いま自分の近くにいる人達のコメントを見る」といった利用が可能になる。

 Twitterのコメントは「いま何をしてます」とか、「これからどこどこへ行ってきます」とか、「腹減った」とか、「眠い」など、他愛のないものが多い。以前誰かが「脳内だだもれメディア」と評していたが、まさにそんな感じ。率直に言ってあまり意味のない情報だ。だが、これに位置情報が組み合わさるとどうだろう?

 Twitterを使っていて、「いま自分の近くにいる人達のコメントを見る」に切り替えた途端に、周りの人たちの脳内情報が流れ込んでくるのだ。それは、かつてSF小説の中で描かれていたテレパシーと、限りなく似たものではないだろうか?

 これまでのTwitterは、乱暴に言ってしまえば、「人を軸にした掲示板」のようなものだった。しかし位置情報と連動させることで、テレパシー的コミュニケーションツールとしての可能性が出てくる。

 知らない人でも、Twitterを使いこなすニュータイプ同士は、相手が何をしようとしているのか、どういう精神状態にあるのか、ということを、言葉を交わすこともなく判ってしまう。他方、Twitterを使わないオールドタイプ達は、まったく蚊帳の外。そんな社会がもう目の前に迫っている。

 もちろん、Twitterユーザー達が、自分の位置情報をオンにしつつ、これまでのように脳内の情報をだだもれさせることが前提になる。一般人には敷居が高そうなこの前提条件も、新しモノ好きなTwitterユーザーにとっては、さほどではないかもしれない。


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